第23話 クリスマス会の消えたプレゼント事件
冬休みを目前に控えた、終業式の日だった。
各クラスで、ささやかなクリスマス会が開かれることになっていた。
和奏のクラスでも、くじ引きでプレゼント交換をすることになっており、朝から、教室の後ろの机には、包装されたプレゼントが並べられていた。
昼休み、依頼が舞い込んできたのは、そんな浮かれた空気の中だった。
「プレゼントが、一つ、なくなってるんです!」
飛び込んできたのは、クラス委員の女子生徒だった。
「なくなった?」
和奏が聞き返すと、女子生徒はうなずいた。
「朝、確認したときは、確かにあったのに、さっき見たら、一つだけ、机から消えてて」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「サンタクロース」「購買部」。
「今回、サンタクロースなんだ」
「季節柄、ふさわしい仮説だと思って」
「その理論、毎回、季節に合わせてくるよね」
彩羽が腕を組んだ。
「プレゼントが消える、か。クリスマスらしい謎ではあるな」
「彩羽、今回、落ち着いてるね」
「幽霊より、プレゼントの中身のほうが気になる」
「その発想、正直だね」
信吾は前髪を払った。
「これは、サプライズを企む何者かの仕業かもしれない」
「今回、意外と的を射てるかもしれないね」
「珍しく、俺の勘が冴えている」
大地はソファでせんべいをかじりながら聞いていた。
「プレゼント、何入ってるんだろうね」
「大地、今回、そこが気になるんだ」
優助が控えめに言った。
「あの、プレゼント、誰が用意したものか、名札とか、ついてますか」
「はい。くじで割り振られた番号が、それぞれの包みに書いてあります」
「じゃあ、なくなったのが、誰の担当の分か、分かりますね」
◇ ◇ ◇
確認すると、なくなったのは、五番の番号が書かれた包みだった。
「五番、誰の担当?」
和奏がクラス名簿を確認すると、五番は、大人しい性格で知られる、女子生徒の名前だった。
「その子、今、教室にいる?」
「いえ、さっきから、姿が見えなくて」
六人は、その女子生徒を探すことにした。
教室を出て、廊下を歩いていると、階段の踊り場で、しゃがみ込んでいる後ろ姿を見つけた。
「あっ」
和奏が声をかけると、女子生徒は、慌てて振り返った。
手には、包装された、新しいプレゼントの箱を抱えている。
「あ、あの……」
◇ ◇ ◇
女子生徒は、宮下と名乗った。
「もしかして、五番のプレゼント、持ち出したの、宮下さん?」
和奏が優しく聞くと、宮下は、しばらく黙り込んだあと、小さくうなずいた。
「すみません」
「なんで、持ち出したの?」
「わたし、最初、手作りのマフラーを、プレゼントに用意してたんです。編み物、得意で。でも、朝、他のみんなの包みを見たら、みんな、お店で買ったものばかりで」
「それで?」
「手作りだと、恥ずかしいっていうか、貧乏くさいと思われるんじゃないかって、急に不安になって」
宮下は、うつむいた。
「それで、休み時間に、こっそり抜け出して、コンビニで、代わりのお菓子を買ってきました。手作りのマフラーは、隠して、こっちにすり替えようと思って」
「すり替えようとしてたんだね」
「はい。でも、直前になって、なんだか、後ろめたくなって、階段のところで、迷ってました」
◇ ◇ ◇
彩羽が、宮下の抱えている、隠されたマフラーの包みを見て、優しく言った。
「見せてもらってもいいか」
「え、あの……」
宮下は、少し躊躇いながら、マフラーの包みを開けた。
中から出てきたのは、淡いクリーム色の、丁寧に編まれたマフラーだった。
「すごく、丁寧な編み方だね」
和奏が言うと、宮下は、少し驚いた顔をした。
「本当に、そう思いますか」
「うん。手作りって、時間も気持ちもこもってるから、お店で買ったものとは、また違う価値があると思うよ」
美空が、目を輝かせながら言った。
「手作りのものには、贈る人の想いが、糸の一本一本に編み込まれているんだよ」
「今回、詩的な発言だね」
「たまには、こういう表現もいいかと思って」
大地が、素直な感想を口にした。
「暖かそうだね、それ」
「あったかいと思います。編むの、結構時間かかったので」
優助が、静かに言った。
「宮下さんが、時間をかけて作ったもの、誰かに、ちゃんと受け取ってほしいと思います」
「でも、変に思われないでしょうか」
「変には思わないと思います。むしろ、もらった人は、きっと嬉しいと思います」
◇ ◇ ◇
結局、宮下は、手作りのマフラーを、プレゼント交換の会に、そのまま出すことにした。
教室に戻り、くじ引きでマフラーを引き当てたのは、意外にも、普段クールな態度の男子生徒だった。
「これ、手作りなんだ」
男子生徒は、少し驚いた様子で、マフラーを広げた。
「編み物、得意な人が、作ったんだね。丁寧で、あったかそう」
男子生徒がそう言うと、宮下は、少し照れながらも、嬉しそうな顔をした。
「よかったら、使ってください」
「うん、大事に使うよ」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『クリスマス会の消えたプレゼント事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・宮下さん。動機・手作りへの不安』
「動機、今回も、優しいものだね」
和奏が言うと、美空は満足そうにうなずいた。
「サンタクロース説、今回も使わなかったよ」
「毎回、候補には入れるのにね」
彩羽は、少し微笑んだ。
「手作りのプレゼント、ちゃんと受け取ってもらえて、良かったな」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回も、当たっていたな」
「サプライズを企む何者か、って、当たってたかも」
「四回連続、当たってる気がする」
「その調子、続くといいね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「冬休み、何して過ごそうかな」
「大地、もう冬休みモードだね」
優助が、静かに窓の外を見ながら言った。
「あの、僕も、今年は、誰かに、手作りのものを贈ってみようかと思います」
「優助、また新しいこと、考えてるんだね」
「はい。少し、時間はかかりそうですけど」
窓の外、冬休みを目前にした校庭には、白い息を吐きながら、生徒たちが行き交っていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、不安の裏にあった優しさが、事件の正体だった。




