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第22話 落とし物センターの謎の増殖事件

冬休みまで、あと少しというころだった。


 依頼人は、落とし物係の女子生徒だった。


「落とし物が、増えるんです」


「増える? 減るじゃなくて?」


 和奏が聞き返すと、女子生徒はうなずいた。


「はい。誰も届けていないはずなのに、落とし物センターの棚に、知らない持ち主のものが、勝手に増えていくんです」


「盗まれるならまだしも、増えるのは、珍しいパターンだね」


 美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。


「霊」「親切すぎる妖精」「購買部」。


「今回、妖精、二回目の登場だね」


「親切な現象には、親切な仮説がふさわしい」


「その理論、地味に一貫性あるね」


 彩羽が腕を組んだ。


「増える落とし物、か。悪いことじゃなさそうだけど、気味は悪いよな」


「彩羽、今回、幽霊より現象自体が気になってるんだね」


「誰かが、こっそり届けてる、って考えるのが自然だと思う」


 信吾は前髪を払った。


「これは、正義の心を持つ、覆面の届け人がいる証拠かもしれない」


「今回、意外とまともなこと言うね」


「俺は、いつもまともだ」


「いつもじゃないと思う」


 大地はソファでせんべいをかじりながら聞いていた。


「落とし物、増えるの、優しいことだよね」


「その感想、シンプルだけど、的を射てるかも」


 優助が控えめに手を挙げた。


「あの、落とし物センター、鍵はかかっていますか」


 女子生徒が答えた。


「休み時間は開けっ放しにしています。誰でも、届けられるように」


「じゃあ、誰でも、こっそり置いていけそうですね」


   ◇ ◇ ◇


 六人は落とし物センターを確認した。


 棚には、片方だけの手袋や、名前の書かれていない筆箱、マフラーなどが並んでいる。


「これ全部、誰も届け出てないものなんだね」


 和奏が言うと、女子生徒がうなずいた。


「はい。しかも、届いたものの中に、明らかに新品に近いものも混ざっていて」


「新品?」


 美空がしゃがみ込み、手袋の一つを手に取った。


「これ、タグがまだ付いてる」


「落とし物なのに、新品?」


 彩羽が首をかしげた。


「落とし物にしては、変だよな」


 優助が、棚の隅を調べていた。


「あの、これ」


 棚の裏側に、小さなメモが挟まっていた。


『必要な人に、使ってもらえたら』


「メモ?」


 和奏がメモを手に取ると、達筆な、それでいて控えめな字で、そう書かれていた。


   ◇ ◇ ◇


 六人は、そのメモの主を探すため、しばらく落とし物センターの様子を見張ることにした。


 放課後、生徒がまばらになった時間帯、一人の女子生徒が、落とし物センターの前で、あたりを見回してから、そっと中に入っていくのが見えた。


「あっ」


 和奏が声をかけると、女子生徒は、びくりと肩を震わせた。


 振り返ったのは、三年生の女子生徒だった。


「あの、これ、あなたが?」


 和奏が、棚の中の新品の手袋を指さすと、女子生徒は、しばらく黙り込んだあと、小さくうなずいた。


「すみません、勝手なことをして」


   ◇ ◇ ◇


 女子生徒は、鈴木と名乗った。


「なんで、こっそり、新しいものを混ぜてたんですか」


 和奏が聞くと、鈴木は、少し恥ずかしそうに答えた。


「うちのクラスに、経済的な事情で、必要なものを、なかなか買ってもらえない子がいて」


「その子のために?」


「はい。でも、直接あげると、気を遣わせちゃうと思って。落とし物として紛れ込ませておけば、誰でも、気軽に使えるかなと思って」


「落とし物のふりをして、必要な人に届ける、ってことか」


 彩羽が、感心したように言った。


「かなり考えられた作戦だな」


「作戦、というほど、たいしたものじゃないですけど」


 鈴木は、うつむいた。


「本当は、みんなの前で、寄付とか、そういう形でやったほうがいいのかもしれません。でも、そうすると、誰が使ってるか、周りに知られちゃうから」


 優助が、静かに口を開いた。


「その気遣い、すごく丁寧だと思います。でも、学校側にも、事情を話しておいたほうが、いいかもしれません」


「なんでですか」


「落とし物として扱われると、いつか、本当の持ち主を探されて、回収されてしまうかもしれないので」


「あ……」


 鈴木は、はっとした顔をした。


「確かに、それは、考えてませんでした」


   ◇ ◇ ◇


 六人は、鈴木と一緒に、落とし物係の先生に、事情を話しに行くことにした。


「実は、こういう理由で、新しいものを、落とし物センターに置いていました」


 鈴木が、緊張した面持ちで説明すると、先生は、優しく微笑んだ。


「そういうことだったのね。とても、優しい気持ちだと思うわ」


「怒られませんか」


「怒らないわ。ただ、落とし物センターとは別に、『みんなの忘れ物箱』みたいな名前で、自由に使ってもらえる棚を、正式に作りましょうか。それなら、誰にも気を遣わせずに、必要なものを、自由に持っていってもらえると思うの」


「そんな方法があるんですね」


「学校にも、似たような取り組みをしているところ、あるみたいだから、参考にしてみましょう」


 鈴木の顔が、少し明るくなった。


   ◇ ◇ ◇


 数日後、落とし物センターの隣に、「ご自由にどうぞ棚」という、新しい棚が設置されることになった。


 部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。


『落とし物センターの謎の増殖事件――解決』


 その下に、少し小さく付け加える。


『犯人・三年生の鈴木さん。動機・そっと届ける優しさ』


「動機、今回も、優しいものだね」


 和奏が言うと、美空は満足そうにうなずいた。


「親切な妖精説、あながち間違ってなかったよ」


「その言い方、地味に得意げだね」


 彩羽は、少し微笑んだ。


「こういう優しさ、気づかれないように広がっていくの、いいものだな」


「彩羽、今回、しみじみしてるね」


「べ、別に、普通の感想だ」


 信吾は前髪を払い、決め顔を作った。


「俺の勘、今回も、割と当たっていたな」


「覆面の届け人、って言ってたの、当たってたね」


「三回連続、当たってる気がする」


「その調子、続くといいね」


 大地はせんべいの袋を開けながら言った。


「今度、ぼくも、お菓子、こっそり寄付しようかな」


「大地らしい発想だね」


 優助が、静かに窓の外を見ながら言った。


「あの、生徒会でも、こういう取り組み、広めていけたらいいなと思います」


「優助、また新しいこと考えてるね」


「はい。少しずつ、できることから」


 窓の外、冬の澄んだ空気の中、落とし物センターの新しい棚には、少しずつ、色々なものが並び始めていた。


 今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。


 そして今回は、そっと届ける優しさが、事件の正体だった。

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