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第19話 生徒会選挙、消えた投票箱事件

選挙戦から一週間後、いよいよ投開票の日を迎えた。


 朝のホームルームで、優助が、少し緊張した面持ちで、和奏に耳打ちした。


「あの、僕、書記に、立候補することにしました」


「優助、決めたんだ」


「はい。締め切りぎりぎりでしたけど」


「応援するよ」


 放課後、投票が終わり、開票作業が始まろうとしていたときだった。


 選挙管理委員会の教室から、慌てた様子で中村が飛び出してきた。


「投票箱が、一つ、見当たらないんです!」


「投票箱?」


 和奏が聞き返すと、中村は青ざめた顔でうなずいた。


「二年生の分の投票箱です。教室にあったはずなのに、開票のために集めに行ったら、なくなっていて」


 美空がホワイトボード代わりのメモ帳に、丸を三つ描いた。


「霊」「不正選挙の陰謀」「購買部」。


「今回、陰謀のほう、シリアスすぎない?」


「選挙は、民主主義の根幹だからね」


「その言い方、いつもより真剣だね」


 彩羽が腕を組んだ。


「投票箱が消えるって、洒落にならないやつだよな」


「彩羽、今回、幽霊より現実的な心配してるね」


「幽霊より、こっちのほうが、よっぽど大事だろ」


 信吾は前髪を払った。


「これは、選挙結果を操作しようとする者の仕業かもしれない」


「今回は、笑えない可能性もあるから、慎重に調べよう」


「珍しく、俺も真面目に言ってる」


 大地は、いつもより緊張した顔で言った。


「優助くんの票、ちゃんと数えられるかな」


「大丈夫、絶対、見つけよう」


 優助自身は、少し青ざめながらも、冷静に言った。


「あの、僕の当落より、まず、正しく開票されることが大事だと思います」


「優助、こんなときも冷静だね」


   ◇ ◇ ◇


 六人は、投票箱が保管されていたはずの教室を確認した。


 窓は閉まっており、鍵もかかっている。


「密室、みたいだね」


 美空が、目を輝かせながら言った。


「今回は、本格的な謎だよ」


「不謹慎かもしれないけど、美空、ちょっと楽しそうだね」


「楽しんでるわけじゃないよ。真剣に、興味深いと思ってるだけ」


 優助が、教室の後ろの棚を確認した。


「あの、この棚、普段、何を保管してますか」


 選挙管理委員の一人が答えた。


「体育祭の道具とか、清掃用具とか、色々です」


 優助は、棚の奥を覗き込んだ。


「あの、これ」


 棚の一番奥、清掃用具の陰に、投票箱が、そっと押し込まれていた。


「あった!」


 和奏が声を上げると、中村が慌てて駆け寄った。


「本当だ……。でも、なんで、こんなところに」


   ◇ ◇ ◇


 投票箱を取り出し、中身を確認すると、投票用紙は、無事にそのまま残っていた。


 その後、選挙管理委員会で聞き込みをすると、意外な人物が名乗り出た。


「あの、それ、多分、わたしがやりました」


 声を上げたのは、選挙管理委員の一年生、小さな体格の女子生徒だった。


「掃除当番のとき、投票箱が邪魔で、うっかり棚の奥にしまい込んでしまって。それで、後で戻そうと思ってたんですけど、忘れてしまいました」


「わざとじゃなかったんだね」


 和奏が言うと、女子生徒は、深く頭を下げた。


「本当にすみません。まさか、こんな騒ぎになるとは思わなくて」


 彩羽が、ほっとした様子で言った。


「陰謀じゃなくて、良かったな」


「うん、本当に」


 信吾も、少し安堵した表情を見せた。


「今回は、俺の予想、外れて良かった」


「珍しく、外れて嬉しそうだね」


「選挙が正しく行われることのほうが、俺の勘が当たるより、大事だからな」


「今回、信吾、いいこと言うじゃん」


   ◇ ◇ ◇


 投票箱は無事に見つかり、開票作業は、少し遅れながらも、無事に行われることになった。


 結果発表を待つ間、優助は、部室のソファで、珍しく落ち着かない様子だった。


「あの、緊張します」


「優助でも、緊張するんだね」


「はい。人前に出ることも、選ばれるかどうかも、慣れていないので」


「大丈夫、優助の考えてること、ちゃんと伝わってると思うよ」


 しばらくして、廊下の掲示板に、選挙結果が貼り出された。


 書記の欄に、優助の名前が記されていた。


「優助、やったね!」


 和奏が声を上げると、優助は、しばらく信じられない様子で、掲示板を見つめていた。


「本当に、選ばれました」


 彩羽が、優助の肩を軽く叩いた。


「おめでとう。似合ってると思うぞ、書記」


「ありがとうございます」


 大地は、持ってきたお菓子を配りながら言った。


「お祝いだね」


「大地、いつでもお菓子だね」


 美空がホワイトボードに大きく書いた。


『生徒会選挙、消えた投票箱事件――解決』


 その下に、少し小さく付け加える。


『犯人・掃除当番の一年生。動機・うっかり』


「動機、今回、シンプルすぎるくらいシンプルだね」


「シンプルな動機は、それはそれで、いいものだよ」


 優助は、窓の外を見ながら、静かに言った。


「あの、これから、生徒会の仕事、頑張ってみようと思います」


「応援してるよ」


「もし困ったことがあったら、また相談してもいいですか」


「もちろん。特事研は、いつでも力になるよ」


 信吾は前髪を払い、決め顔を作った。


「これで、生徒会にも、俺たちの仲間ができたわけだな」


「その言い方、なんか大げさだけど、間違ってはいないかも」


 窓の外、秋の夕方の光が、掲示板に貼られた結果発表を、静かに照らしていた。


 今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。


 そして今回は、事件の解決の先に、新しい始まりがあった。

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