表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/60

第14話 文化祭本番、お化け屋敷の消えた小道具事件

文化祭当日、校舎中が非日常の空気に包まれていた。


 教室ごとに、喫茶店や展示、ゲームコーナーが並び、廊下には、たくさんの来場者が行き交っている。


 特事研の六人は、今日は自由行動の予定だった。


「まずは、どこから回る?」


 和奏が言うと、大地がすでに、パンフレットに丸をつけていた。


「三年二組のクレープ屋さんと、一年五組のたこ焼き、それから――」


「大地、完全に食べ歩き目線だね」


 信吾は前髪を払った。


「俺は、今日は探偵役に徹する。文化祭のトラブルも、ついでに解決してやろう」


「その台詞、フラグにしか聞こえないよ」


 彩羽は、パンフレットの一角を見て、わずかに顔をこわばらせた。


「二年四組……お化け屋敷、か」


「彩羽、行くの?」


「べ、別に、行かないとは言ってない。ただ、優先順位は低い」


「その言い方、絶対避けたいだけだよね」


 優助は、いつも通り静かに、パンフレットを眺めていた。


「あの、才川さんのクラス、演劇をやるみたいです」


「見に行くの?」


「はい、少し」


「優助、才川さんのこと、気になってるんだね」


「気になるというか、同じ空気の人だと思っているだけです」


 美空は、目を輝かせながら言った。


「文化祭には、七不思議の検証にもってこいのイベントが多い」


「今日は、事件探しじゃなくて、楽しむ日だよ」


「事件は、探さなくても、向こうからやってくるものだよ」


 その言葉通り、美空の予言は、すぐに的中することになった。


   ◇ ◇ ◇


 午後、六人がお化け屋敷の前を通りかかると、二年四組の生徒たちが、困った様子で集まっていた。


「小道具が、なくなってるんです!」


 クラスの実行委員らしき生徒が、六人に気づいて声をかけてきた。


「小道具?」


 和奏が聞くと、実行委員はうなずいた。


「お化け役が使う、血のりのついた包丁の模型と、ろうそくが、開場前になくなってて。急遽、代わりのもので対応してるんですけど」


 彩羽の顔が、みるみる青ざめた。


「お、お化け屋敷の道具が、勝手に消える、って……」


「彩羽、思考が一気にホラー方向に行ってるよ」


 美空がホワイトボード代わりのメモ帳を広げた。


「霊」「本物のお化け」「購買部」。


「今回、二つとも霊関連なんだ」


「文化祭の中でも、お化け屋敷は、特別枠だからね」


「特別枠にしても、購買部は毎回いるよね」


 信吾は前髪を払った。


「これは、対抗するクラスの妨害工作かもしれない」


「文化祭で妨害工作って、大げさすぎない?」


「出し物には、それぞれのプライドがある」


「その理論、今日はいつも以上に強引だよ」


 大地は、実行委員に聞いた。


「小道具、いつからなかったの?」


「今朝、開場準備のときには、確かにあったんです。でも、開場直前に確認したら、消えてました」


 優助が控えめに言った。


「あの、教室の入り口以外に、出入りできる場所はありますか」


「窓が一つ、開けっ放しになってました」


「そこから、誰かが持ち出したのかもしれません」


   ◇ ◇ ◇


 六人はお化け屋敷の中に入ることになった。


 彩羽は、入り口で完全に足を止めていた。


「べ、別に、今回は調査だから、入らないわけにはいかない」


「入る前から震えてるよ」


「これは武者震いだ」


「その言い訳、もう聞き飽きたけど、毎回言うよね」


 教室の中は、黒い布で覆われ、赤い電球が不気味に光っていた。


 美空が真っ先に進んでいく。


「これは、本格的な作りだね」


「美空、平気そうだね」


「未知への好奇心のほうが、恐怖より勝ってるからね」


 奥に進むと、机の下に、隠れるようにして座っている小さな影が見えた。


 彩羽が、その影に気づき、悲鳴を上げそうになった。


「ひっ……」


「彩羽、落ち着いて、あれ、人だと思う」


 和奏が声をかけると、影は、びくりと動いた。


 現れたのは、小学生くらいの女の子だった。


 手には、なくなっていたはずの包丁の模型を抱えている。


「あっ」


 女の子は、六人に気づき、慌てて隠れようとした。


「大丈夫だよ、怖くないから、出ておいで」


 和奏が優しく声をかけると、女の子は、おずおずと机の下から出てきた。


   ◇ ◇ ◇


 女の子は、実行委員の妹で、小学三年生だと分かった。


「お姉ちゃんの学校の文化祭、初めて来たの」


「それで、お化け屋敷に来たんだね」


「お姉ちゃんが、朝、準備してるところ見てたら、この道具、すごく怖くて、かっこよく見えて」


 女の子は、包丁の模型を、大事そうに抱えたまま言った。


「開場前に、こっそり触らせてもらおうと思って。でも、途中で、お姉ちゃんに見つかったら怒られると思って、隠れちゃった」


「ろうそくは?」


「一緒に持ってきちゃった。暗いところで、光らせてみたくて」


 実行委員の姉が、少し呆れた顔で、それでも優しく言った。


「もう、心配したんだから」


「ごめんなさい……」


 女の子は、しゅんとした様子で頭を下げた。


 彩羽は、まだ少し息を切らしながら、それでも優しい声で言った。


「怖がらせて悪かったな。私たちも、勝手に驚いちゃって」


「お姉さんも、怖がってたの?」


「べ、別に、怖がってはいない」


「今、めちゃくちゃ声、震えてたよ」


「それは、気のせいだ」


   ◇ ◇ ◇


 小道具を無事に返却し、お化け屋敷は予定通り開場することになった。


 女の子は、姉と一緒に受付を手伝うことになり、嬉しそうにしていた。


 部室に戻り、美空がメモ帳に大きく書いた。


『文化祭本番、お化け屋敷の消えた小道具事件――解決』


 その下に、少し小さく付け加える。


『犯人・実行委員の妹。動機・お姉ちゃんへの憧れ』


「動機、また優しいものだね」


 和奏が言うと、美空は満足そうにうなずいた。


「本物のお化け説、今回も使わなかったよ」


「毎回、候補には出すのにね」


 彩羽は、まだ少し疲れた様子でソファに座り込んだ。


「今日一日で、一生分、驚いた気がする」


「彩羽、頑張ったね」


「べ、別に、普通だ」


 信吾は前髪を払い、決め顔を作った。


「俺は、探偵役として、今日も冷静だったな」


「一番最初に、悲鳴あげそうになってたと思うけど」


「あれは、彩羽をかばうための演技だ」


「毎回、微妙に苦しい言い訳をするよね」


 大地は、買い込んだクレープの袋を見せながら言った。


「文化祭、食べ物、いっぱいあって幸せだった」


「今日は、それが一番の感想なんだ」


 優助が、静かに言った。


「あの、才川さんの演劇、見に行きました」


「どうだった?」


「セリフ回しが、独特でした。でも、なんだか、話しやすそうな人だと思いました」


「今度、直接話してみたら?」


「はい、少し勇気を出してみようと思います」


 窓の外、夕方の校庭には、文化祭の後片付けをする生徒たちの姿があった。


 今日の放課後――いや、今日の文化祭も、事件は笑いながらやってきた。


 そして今回は、小さな憧れが、事件の正体だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ