4階の探索
ダンジョン内で昼食を摂る。今まではカロリーバーなどで適当に済ましていたがトワに聞いた所、ちゃんと【料理】スキルもあるとの事なので、ダンジョン内で挑戦してみようとなった。
といって本格的な料理なんてできないので、簡単なものだ。携帯のガスコンロでホットサンドを作るだけ。
トーストを挟み込む形のホットサンドメーカーにセットして、トマトをスライス。スライスチーズを乗せて、ハムを並べて卵も追加。こぼれないようにサンドして、コンロへとかける。
「これで料理と言えるのかどうか……」
「どうやろな?」
「【危機察知】の時は細かく教えてくれたじゃん」
「探索者の生存に関わるものは教える敷居が低いんよ」
「料理は一般スキルに入るからか。でも食って割と生死に直結しないか?」
「食べる際の【毒見】とかなら教えられるで。フグの肝食べてみたりな」
「死んでまうわっ」
もちろん致死量を越えないように口にするって事らしいが、ダンジョン内で毒のあるものを口にするってかなり度胸がいる。自販機で買える毒消しはあるものの手足が痺れて使えないとかになったら終わりだろう。
「まあ【料理】スキルがありそうなだけでもやってく価値はあるか……そろそろ良いかな」
ホットサンドメーカーを開けてみると、こんがりきつね色の焼け目が付いていて、卵の白身が固まっているのが分かる。
「ホットサンドというか、ハンバーガーに近い具材だけどな」
半分に切ってみると、黄身が半熟でとろりと広がり美味そうだ。ハムの塩気と相まって中々の出来だった。
食事をする間に俺は4階に下りる決心が固まっていた。週末しか入れない事を考えると楽な戦闘を繰り返して稼ぐというよりは、新しい事に挑戦したいという気持ちが勝った。
作った連結棍棒でどこまでやれるかも試していきたい。
カセットコンロとホットサンドメーカーを片付けて俺は立ち上がる。
4階への階段はマッピング済みなので、迷わずに歩いていける。というか、トワに頼んだらマップされた場所まで誘導してくれるらしい。スマホを見ながら歩くのは危ないので地味に便利な機能だった。
「最短ルートと獣を避けるルートとどっちがええ?」
「最短でいいよ。3階の獣なら問題ないし」
「了解や」
金髪の北欧系の顔立ちをしたローティーンの少女、背中にはトンボの様な半透明の羽。膝丈の黄緑色のワンピースという妖精姿でコテコテの関西弁。
そんなトワに導かれるままに歩いていく。
階段までに3匹の獣人と遭遇したが、特にイレギュラーもなく倒せた。
4階への階段は階段というよりはスロープに近い。幾つかの石っぽい段差はあるが、細かな砂が積もっているので、なだらかになっている。
そのまま下りていくと、少し異臭を感じた。卵の腐った様な臭い、いわゆる硫黄臭だった。
「4階は火山帯なのか」
「さすがに溶岩はないで。所々温泉が湧いとるわ」
「それでこの臭いか」
ダンジョンが開放されたら観光地にならないかな。獣人が出るなら無理か。
そんな益体もないことを考えながら進む。溶岩が固まってできた洞窟はかなりゴツゴツしていて下手に手をついたら怪我しそうだ。
腰の高さの岩がそれなりにあって死角もそれなりにある。
「まずは転移陣を開放したいな」
今までと同様に階段に近い場所にあるだろう。チラッとトワを見てみるが、ヒントをくれそうにはない。【空間把握】で足元を確認しながら【危機察知】にも注意しておく。
自然洞窟タイプのフロアなので部屋の区切りに扉はない。しかし、転移陣の入口部分には扉があるので分かりやすかった。
階段から20mほど移動しただけで見つける事ができた。
「これで4階もアクティベートできたと。料金も変わらないみたいだな」
「4階まではチュートリアルやからな。5階からは200UBCに上がるで」
3階の獣人で500UBCだからあまり気にならない価格だな。
「それじゃ、左手に沿って探索開始だ」
巨大迷路の基本であるどちらかの手を基準に移動するスタイル。アプリにマップ機能があるから迷うことはないが、マップを埋める事を考えたら隈無く歩くつもりで進んでいく。
「っと、通路にいるフロアか」
3階は部屋にしかいなかった獣人が、4階では通路にも出現するようだ。【危機察知】により、首の後ろ辺りがチリチリと産毛が逆立つような感覚がある。
腰の高さの岩の陰にいるようだ。こっちに気づいてそうだな。
「クリエイトシールド」
左の腕に半透明の盾が現れる。岩陰に回り込むように進むと、獣人が飛び出してきた。右手に持った短剣を振り下ろしてくる。それを盾で受け止めながら、連結棍棒で反撃。それを獣人も盾で受け流した。
「ダガーコボルトやね」
トワが鑑定の結果を教えてくれる。ちなみに3階の獣人はクラブコボルトだった。確かこの階の獣人が持つ武器には毒が付与されていて、何度も攻撃を受けると毒状態にされるはずだ。
リーチの差があるので獣人の攻撃を受ける間合いにいれなければ、傷を受ける可能性はかなり低いだろう。
「とはいえ、堅いなっ」
俺の繰り出した一撃は、獣人の盾でいなされてしまう。盾を前に半身になっての防御優先の構えは、反撃こそできないが身を守るのに適している。わたりがしばらく苦戦していたのも頷ける堅さだ。
そのわたりの攻略法は、盾ごと吹き飛ばすという【身体強化】ありきの攻略法で俺にはできない。
獣人の持つ盾は円形で小型のもの、いわゆるバックラーに分類されるものだろう。見た目は木製でボロっぽく見えるが、堅牢に俺の攻撃を受け流す。
獣人も受けた瞬間に、角度を変えて逸らそうとしているのだ。
「無駄に上手いんだよっ」
的確に反応してくる獣人に対して上から叩きつけるような一撃。当然、それは受けられ右側に流される。そこを連結棍棒の逆側を回転させる事で連撃に繋げた。盾を内側から叩かれて、上体が流れる。
更に半回転して再度の攻撃で頭部を狙った。
「あぶねぇっ」
しかし、相手が短剣を突き出してくる方が早かった。それは何とか左腕の盾で受け止める事はできた。
突かれた勢いのままに後ろへと3歩ほど下がって仕切り直す。
「これは千日手か?」
堅い防御と右手の連携。隙がない。これがまだチュートリアル範囲の敵なのかよ。
いや、チュートリアルか。なら3階と似た行動をもう一度やらせようというのは、趣旨にあわない。3階が隙を作って攻撃を当てるのをやらせたとしたら、この階で何をさせたいかを考える。
「うし、それを狙う」
方針を固めた俺は、両手で連結棍棒を握りながら近づいていく。獣人は盾を構えて待ち構えていた。先程打ちかかった間合いから、更に一歩踏み込む。
そこは長柄の武器よりも片手武器の間合い。獣人の方から攻撃を仕掛けてきた。盾を前にした半身から、右足を踏み出しながらの短剣による刺突。
それを盾で受け流して、伸び切った腕へと連結棍棒を叩きつける。短剣を突き出すために後ろへ引かれた盾は間に合わない。
前腕部を強かに打った事で短剣を取り落とし、前のめりに体勢を崩した所へ棍棒で顔を狙う。これには獣人の盾が間に合うが、不十分な体勢で受けた為に先程までの受け流しはできず、モロに受け止めて弾かれる。
万歳をするように盾を弾かれ、無防備になった胴へと連撃を繰り出していく事で、反撃の機会を与える事なく撃破できた。
「つまり、この階で教えるのはカウンターって事だな」
相手を崩して攻撃する3階に対して、相手の攻撃をいなしてから攻撃させる4階と言うことだ。毒武器とか攻撃を受けたくないと思わせる武器を持たせておいて、カウンターを狙わせるとか鬼畜の調整。
「盾を持ってるって事は、防御が堅いのは自明。それを崩すにはどうすればいいかを考えさせたってとこだな」
「せやろか?」




