週末を迎えて(32日目)
4度目になる獣溢れは、各警備会社が新たにバイトを雇うのが間に合わず警備員や動画配信者によって駆除していった。
4度目ともなると獣が溢れるのは木曜日でいいのでは、という論調が強くなってくる。
動画配信者達はボランティアという形だが、警備員の費用はかさんでいるのが現状だ。早くその体制を変えていこうという動きがある。
有人の警備というのは思っている以上に費用が掛かる。特に日没後から夜明けまでとなると、深夜勤務となり割増で賃金を払わないといけない。
1人辺り3万ほどとなる。基本2人としても、途中で交代しなければならないので入口1つに最低の4人としても、1000箇所の入口を警備するには1日1億2千万かかる計算だ。1ヶ月で30億、年間400億となってくれば、国家予算への影響が大きい。
それを週1回にできるだけでも大きいだろう。
「最終的に固定予算が割り振られる事になるのか」
ダンジョンを使った事業とかが成立すれば、そこから費用を捻出する事も可能にはなる。今は警備員としてバイト雇用してUBCをボーナス扱いだが、これが逆転してくれば入場に金を取る……なんて展開は無理か。どちらかというとダンジョン産のアイテムを買い上げて、必要な場所に販売して稼ぐとかか。
まあ、ダンジョンで稼げなければ、税金が使われるだけなので、どこが費用を負担するかというだけだ。
そんな国の事情は分からんが、俺は土曜日になって久々の探索に出かける。今日の目標は棍棒の入手だ。3階の獣人が武器として使っている棍棒が、ドロップ品として出るらしい。
わたりはそれを加工して新たな武器として、4階を突破している。
俺も鉄パイプをダンジョン産の武器に変えることで戦力アップを図りたい。
「単純に倒すだけでドロップする確率って低いよな」
2階でドロップした獣人の爪も30〜40くらい倒してまだ1つしか落としていない。4階までがチュートリアルマップだとして、ドロップ率を抑えられている可能性もあるが、ここはドロップ率を上げる方法があると予測した。
「つまりは戦闘中に武器を落とさせる戦い方だな」
「そんなに上手くいくんか?」
「さあな……」
久々のダンジョンで、トワも妖精の姿を投影できていた。これも魔力的な力で行われる幻影魔術という事らしい。魔術師が修行すれば、こうした幻影を出現させられるようだ。
宝箱から出た本にはスキルの修得方法は載っていなかった。それらは3階か4階のボス部屋で出るらしい。
「まだボス部屋に挑む勇気はでないな」
「どのみちぼっちなソータには本は出えへんけどな」
「何が出るんだ?」
「禁則事項やで」
口元で指を交差させながら言った。
3階の獣人は右手に武器を持っていて、こちらが先制すると武器で攻撃を受け止めようとする。体格はかなり小さいのに力はかなりあるらしく、俺が全力で振るった鉄パイプを受け止められてしまう。
それで相手の動きも封じられるので、左手の武器を使えば倒すのは簡単だった。そのためにわざわざ武器を落とさせてといった戦い方はしていない。
ただ棒術の中には相手の武器を絡め取る様な動かし方もあった。巻き落としと呼ばれる相手の武器を回転させるようにして払い落とす感じだ。
今週は動画学習でそれらの動画を何本も見てきた。手首の返しや腕を回転させるようにして、打ち払うというよりは絡め落とす感じ。
「実戦でできるかは分からんが」
そこはダンジョンで伸びたステータス、器用や敏捷に期待しよう。
3階のマップも大半を記憶しているので、獣人との遭遇もスムーズにできる。3階は少し開けた部屋で戦えるのでやりやすい。
右手に棍棒を持った獣人に対して、向かって左側から打ち掛かる。半弧を描いて鉄パイプを叩きつけると、そこへ向かって獣人も棍棒を打ち付けてきた。
こちらは軽く打ち込んだのに対して相手は弾き飛ばさんばかりの一撃。こちらは鉄パイプの中程を左手で握るだけで、右手も添える程度。すると鉄パイプは左手を支点に回転して、柄の方が獣人へと勢い良く繰り出される。
獣人の棍棒を内側から手の甲の方へと叩くと、棍棒を握る手ごと回転していき、関節の限界まで回ってしまえば、後は関節が砕けるか武器を放すかしかなくなる。
カラランっと軽い音で棍棒が転がり、無手になった獣人に対して鉄パイプで突いていく。獣人は何度か手で防ごうとしたが、すぐに耐えられなくなり胸や腹、ガードが下がったところで喉元へと連続で突いていけば黒い霧へと変わっていった。
それを見届け足元を見ると、そこには思った通りに棍棒が転がっていた。
「ゲット、ゲット」
「中々やるなぁ」
どこか上から目線な感想を漏らすトワを無視して棍棒を手に取る。パッと見は木の棒にしか見えないが、持ってみると軽くて堅い。60cmほどの長さで持ち手にはボロ布が巻き付けてある。持ち手からほとんどまっすぐで先端まで太さは変わらない。
振ってみても特に変わった様子はなかった。
「このまま使っても強そうではないな」
「単なる木の棒やからな。ステータスアップなんかもあらへん。威力で言うたらソータの鉄パイプの方が上やろ」
「それはアプリの鑑定結果か」
「せやで」
わたりが金属を巻き付けるように加工していたのも、そのままだと大したことがなかったからだろう。逆に言うと少し加工しただけで威力が上がるという事でもある。
「ほんじゃ、俺も加工目指してあと2本狙っていこう」
3階の獣人相手ならもう苦戦することもない。最初の一手を誘導できるというのは戦いにおいて致命的な隙だからな。
そのまま小部屋を2つ回って棍棒を2本ゲットした。やはり武器を落としてから倒すと残るのは確定だな。
わたりの過去の動画で3階の獣人戦のものを見直してみると、棍棒をドロップした回は最初の一撃を受けられ、ソニックエッジで二撃目を入れた際に、棍棒に当たって武器を吹き飛ばしていたのを確認したのだ。それでもしやと思って今日試してみたら、案の定棍棒をドロップした。
爪や牙のドロップも体から分離した状態にできれば狙って入手できそうだ。いわゆる部位破壊でボーナスがつく感じだな。今度試してみよう。
それよりも今は武器作りだ。俺は一応、自販機のある小部屋まで移動した。この部屋はセーフティゾーンらしく、獣人が入って来ないらしい。
その床に棍棒を並べる。1本60cmなので、これを繋いでいけば180cm、今の鉄パイプに近い長さにできる。
鍛冶師の金槌で3枚の銅板を作り、端を折り曲げておく。棍棒の方にも一周するように浅く溝を彫り、銅板の曲がった部分を引っ掛ける様にしながら巻き付けていく。
2本の棍棒を銅板で繋ぎ合わせた。鍛冶師の金槌のおかげで粘土みたいに簡単に変形させられるのに、金槌が無ければ金属の硬さを持つという不可思議な状態になるので加工はかなり楽だ。
同じ要領でもう1本も繋いで長い棒へと繋がった。
軽く振り回して見ても継ぎ目から分離する様な事はなく、しっかりと固定できたみたいだ。壁などを叩いても緩む事もなかった。
できれば全体をコーティングしたかったが、材料が足りなかった。
「これでどうだ?」
「せやね、棍棒+3ってとこやな」
「どういう事だよ」
「棍棒の時よりは強なっとるで。鉄パイプより上になったんちゃうかな」
「試してみるしかないか」
近くの獣人相手に軽く試してみたら、防御に使った棍棒を弾き飛ばせるくらいの威力を出せていた。鉄パイプよりは上の手応えはあった。4階の盾持ちを相手にできるかは不明だな。
時間は正午前、まだまだ時間はある。3階のマップを埋めるか4階に下りるか、どっちにするか。
「飯を食いながら考えるかな」




