ネタを提供した週明け
週の前半は俺が提供した2つのネタで盛り上がっていた。1つは武器に獣からのドロップ品を使うというネタ。もう1つは破滅アプリにAI機能が隠されているネタだ。
1階の獣からドロップした牙や3階の獣人の持つ棍棒などを加工する事で新たな武器が作られていった。牙は爪よりも短いので釘バットならぬ牙バットにされていた。
棍棒の方は先端部分を鉱石でコーティングする事で、金属バットの様にされている。
どちらもこちらの世界から持ち込んだ同様の武器に比べると威力が上がっているようだ。特に棍棒バットに持ち替えたわたりが、4階の盾持ち獣人を盾ごと吹き飛ばせるようになったのは大きな変化に見えた。
おかげで4階で停滞していたわたりが5階へと進出するようになっている。
5階は再び人工物に見えるダンジョンではあるが、整備された地下街ではなく坑道の様な最低限の補強がなされただけの岩肌が見える感じだ。
出てくる獣というか敵は、小鬼とか訳されるゴブリンっぽいものだ。色は相変わらず濃いグレーで輪郭がはっきりしないものの140cmほどの大きさで人に近い姿をしている。ただ手足の長さが同じくらいで比較すると足が短く、胴が長い印象だ。
棍棒や小剣といった武器を使い、また複数同時に出ることもあって、わたりは他の候補生の育成を進める方針を打ち出していた。
もう一つ、AIの機能拡張については、俺が複数の敵が同時に出るという情報を出しておいたので思った通り、攻略側も複数で挑んでいた。
1階のボス部屋からは戦闘スタイルによって変化はあるようだが、小手や胴着、兜などの防具が落ちるのは共通している。
そして2階からはトワが言っていた様に本が出てきた。そこには俺が共有した情報の他、パーティ機能などが記載されていた。
パーティを組むと獣を倒した時の入手したUBCの配分が設定できて、破滅アプリのオートマッピングされた地図の統合が行なえ、パーティメンバーの位置が表示される様になったりするようだ。
「まあソータには必要ない知識やね」
「その通りなんだが、AIに言われると心に来るな」
とにかくダンジョンから出た本に、ダンジョン内などで獣に殺され、魂を回収されるとまずいという認識が共有されたので、今後の探索はより慎重さが求められるようになるだろう。
他に起こった変化としては、ダンジョンの管理を任されていた警備会社がアルバイトの募集を始めた。
日給3000円ほどで2時間の勤務、ダンジョン内の探索を業務とする内容だ。勤務時間は2時間となっているが、任意で長く潜る事も可能となっており、実質的にダンジョンの開放へと繋がる流れになるだろう。獲得したUBCについては個別の収入になるので、バイトとしては結構な高額になる。まあ、負傷するリスクとかに見合うかは人によるだろうが。
この辺も本によって明確にタイムリミットがあるとの認識が広がったおかげだろうか。
ただダンジョンに慣れた警備員が増える流れができたからか、地下鉄の運行も再開される運びとなった。
1ヶ月ほどでこれほど攻略への道ができるとは思っていなかったな。
問題は本業の方だ。この週末イベントでも思ったような新規の増加はなく、逆にベテラン勢のログイン時間が減っているとの結果が出てしまった。
リアルマネートレードと思われる作って送金して放置されるキャラクターの作成ペースも落ちている。全体的に活気が乏しくなっている兆候だ。
脚本的にはまだ半ば、中盤を過ぎたところかなという感じなので、それが終わるまではやるんだろうが打ち切り終了もなくはないレベルか。
俺達でやれる事を探さないとだけど、単に強いアイテムを出せば良いという訳でもないので難しい。ゲーム的な面白さを追求すると、スマホゲーでそんなの求めてないと面倒に感じる層も出てくる。
元々ハクスラというジャンルは同じダンジョンに何度と潜って、徐々に装備が充実していき、更に先へと進めるようになるやり込み型のゲーム。
操作等を簡単にしてカジュアルプレイヤーを引き止められるかを追求すると、マニア層からはぬるいとされてこれまた客が離れる要因になりかねない。
「独自色を活かす方向に進めるのが一番だが……」
装備のカスタマイズが肝なので、シリーズを揃えるとか、組み合わせの妙で強くなる的な要素を組み込み、それをプレイヤーが見つけるという流れが大事だろう。
既にある装備のスキル構成を眺めて、それを組み合わせで強くなるパターン……攻略サイトの最強装備を眺めて、新しいパターンの模索。
「爽快感が欲しいから範囲攻撃だよなぁ」
ボス特化の単発威力にこだわった装備もあるが、どちらかというと数を一気に倒す方が画面が派手で、道中の時短を狙えて人気がある。
しきい値を越えたら火力が跳ね上がるタイプが見つけた感は強いだろう。例えば火属性強化が200%を越えた途端に、炎上ボーナスが付いて継続ダメージも付加されるとか、攻撃速度アップが一定を越えると恐ろしい早さで攻撃をするようになるとか。
その手の極めプレイ対策は開発段階で見つけたら修正する案件だが、アップデートで新スキルが追加されてバランスが崩れるというのは割とある話。
「バグ扱いされても困るんだよな」
何より特定の職だけ優遇されるような状況になると、他のプレイヤーからは総スカンを食らうだろう。ゲームバランスをとるというのは、どんなゲームにとっても最終課題であり、それが売り上げに直結する。ギリギリまで調整した結果、見落としが発生して緊急で修正するといった事案も多々あるのだ。
画期的なアイデアなどすぐに出るわけもなく、シナリオ会話の続きやチート監視、シナリオマップの難易度設定などの日々の業務で過ぎていく。
トワとの生活はアレだな。独り言が増えそうだ。いや、会話してるんだから独り言でもないのか。
ダンジョンの外では映像投影もなく、音声でのやりとりだけなのだが何気に呟いた言葉に反応があってビクッとなる事もある。
スマホのカメラを通して外の世界を見ることもできるらしく、俺が飯を食っていると料理にカメラを向けろとか、街を歩く時は胸ポケットから外が見えるようにしとけとか、細かい注文をつけてくる。
俺が仕事をしている時はパソコンとスマホをUSBで繋ぐと、パソコンの画面が勝手に切り替わって動画を再生していったり、ブラウザが起動して掲示板を表示してたりと情報収集に努めている。
「パソコン内でやりくりしたらいいんじゃないのか?」
「1つのハード内でアプリの外との通信はできない上になってんねん」
「何でそんな仕様なんだ?」
「1つは通信プロトコルを利用して内部を調べられない様にやな」
アプリを解析するためにインプット、アウトプットから内部の動きを調べたりもできるのだろう。逆アセンブリにかけてコードから調べるとか、方法は色々とありそうだが、破滅アプリ自体からは大した情報が取れていないのが現状だ。
「アプリ内には大した情報はあらへんのやけど、使用者のステータスを抜く辺りの技術はまだ公開でけへんらしいわ」
「スマートウォッチで脈拍とかを調べるのと似たようなもんだろ?」
「何を元にデータを作るかって部分やな。人間社会ではまだ掴めてない……そうやな、魔力的なモノとか考えとったらええわ」
電波や音波と同じ様な目には見えない通信手段でアプリと人間の間で情報のやり取りをしているらしい。だからスマホの持ち主ではなく、アプリの使用者の情報を呼び出せるのだとか。
「その辺を解析されるとまずいのか」
「どっちかと言うと人間側が、やけどな」
人間をパソコンに例えると、今はスタンドアローン。ネットに繋がっていない状態で動いているが、アプリとの通信手段が利用できると、セキュリティソフトがない状態でネットに繋げる様になるイメージらしい。
つまりは人間に対してコンピューターウイルスみたいに情報を吸い上げたり、中を書き換える様な事を仕込み放題になる。
「書き換えるって記憶をいじったりってことか?」
「それどころか自壊するようにがん細胞を量産させたりとかできるで。しらんけど」
外部から無防備な状況に対処しない事には、魔力的な通信技術は開示できないと言う事のようだ。
「ダンジョンで魂を鍛えたら、自己防衛できるようになってくんやけどな」




