家に帰って情報共有
風邪だと思ったら……インフルエンザでした。
39.1度までいくと思考が止まります……。
3階で適度に獣人を狩りつつトワから情報を聞き出し時間が来たところで切り上げる。今日もそれなりに狩れたので1万UBCは越えていた。更衣室に武器をしまってダンジョンを出ようとする。
「それじゃ、今日は楽しめたぞ。次はまた土曜日だな」
「何を言ってるです。今日はまだ7時間残ってますわ」
「ダンジョンの外までついて来れるのか?」
「姿は消えるけどアプリに常駐してますわ」
スマホに話しかけたら答えてくれるらしい。音声入力のAIアプリと同じ感覚で利用できそうだ。
「OK、トワ。テレビを点けて」
「できなくはありませんわよ?」
「ふむ、じゃあエアコンで暖房入れといてくれ」
「仕方ありませんわね」
Wifi家電を動かせるみたいだ。日常的に使うかは分からんが便利なのだろう。とりあえずおれは弁当を買って帰宅。部屋はちゃんと暖房で暖められていた。
「ダンジョン外で使えるのはいいな。普段使わないからどこまで便利か分からんが」
「そんなだからおっさんはと言われるのよ」
「それはそれとして、口調が安定せんな」
「図星でしたわね。仕方ありんせん、貴方の反応を見ながら好みを探しておるのじゃ」
「普通でいいんだが」
どこに力を入れてるのかとため息が漏れる。
「せやかて工藤」
「誰が工藤や」
「気に入られんと使われなくなったら凍結処理やで、下手すりゃ初期化や」
「役に立つならちゃんと使ってやるよ」
「ふむ、やはり地元の言葉は反応が良さそうやね」
どことなくエセ関西弁な響きがあるが、河内弁とかよりは聞きやすいか。
「ソータはん、よろしゅうな」
「へいへい」
「へいは1回やで」
トワの絡みをおざなりに流しつつ、ダンジョン関連の掲示板を見る。書き込むとしたら考察スレかな。
トワから聞いた破滅アプリとダンジョンの悪魔の立ち位置を書いていく。ダンジョンが強い獣を溢れさせるにはパワーが必要で、それは人の死を糧に蓄えられると。
ダンジョンで魂を鍛えた者を弑する事で、より効率的にパワーを集められる。
かといってダンジョンに潜らずにいても徐々にパワーが溜まっていき、やがて人類には対応不可能な獣が解き放たれたら、人類は破滅すると。
ダンジョンを駆逐するには、魂を鍛えた上で悪魔を倒すしかない。
そんな感じの事をつらつらと書いてみた。もちろん、最初は歯牙にもかけられない。妄想乙で終了だ。
掲示板の流れを見るに主流となっているのは、悪魔は異世界へのゲートを開いている説だ。ゲートの向こうは異世界だから魔法や必殺技が使えるが、こちらの世界ではスキルがあっても使えない。
ただその説だと地下一階がこちらの世界の地下街に酷似している説明ができない。
他にはこの世界の並行世界で科学ではなく魔法によって発展した世界と繋がった説だ。この場合、地下街までは向こうの世界でもおかしくはないが逆に2階以下の階層で自然洞窟になるのがおかしいとなっている。
後はアプリの存在やスキルなどの設定がゲーム的な点に注目し、この世界は上位者によって作られたシミュレーション世界だというもの。この概念ならなんでもありだ。
ただ例えば俺が手にした箸を折るなどの世の中に何の影響も与えない事象まで正確にシミュレーションする意味は何だとなる。
この考え方は何でもアリな分、思考停止でダンジョンの解明には繋がらないので支持者は少ない。
「まあ、俺が書いたのもダンジョンとアプリを解明するには情報が足りてないけどな」
「情報共有の意図は考察班にネタを提供するだけじゃないやろ。ちゃんと本筋に戻しなはれ」
「また随分なコテコテぶりだな……そこまでいくと現地人でも引くぞ?」
などとトワとやり取りしつつ掲示板に新情報を書き込む。ダンジョンの2階で破滅アプリの機能、サポートAIが開放されるというものだ。つまりは、トワの存在を共有する。
この掲示板にいる人で探索者は少ないと思われるが、ここでの発言がまとめサイトなどで拡散されれば実際に探索する者の目に触れるだろう。
「トワは聞いたことに答えてくれるが、聞かない事には答えてくれないのがネックなんだよな」
こちらが質問を思いつけなければ教えてくれるはずの内容でも黙ったままだ。これが複数人でボス部屋を攻略した際に出る本の形であれば、自由な質問はできないが一定の情報を与えて貰える。
その本を誰かに見つけてもらってその情報を共有してもらえればと思う。
「仲間を募って攻略すればええのに」
「その場合、トワは使えるままなのか?」
「……アカンな、兄さんは1人が向いてると思うわ」
綺麗な掌返しである。
しかし、トワから引き出せる情報や支援魔法などが使えなくなるのはもったいないとも思うしな。宝箱の報酬だから使えなくなるとも思いたくないが、凍結とか言ってたし一時使えなくなるくらいはあるかもしれない。
「ま、しばらくはソロを続けるつもりだし、よろしく頼むよ」
「任せてーな」
金髪で色白な北欧系の少女顔なのにコテコテの関西弁……近畿の方言が色々混ざってる関西弁自体にコテコテもないんだが、まあ関西を思わせる口調というのは違和感が……思ったほどない。
外国人が関西弁しゃべってるのも割と見るからか。結局は日本に来て最初に知る言葉次第だし。
「とはいえ次の探索はまた土曜日に、だな」
「それまでウチを放置する気?」
「ダンジョンに入らないのにやることある?」
「ネットがあれば人間側の情報を集めれるやん」
「そもそもトワは破滅アプリの一部なんだろ。今までもスマホでネットに繋がってたんじゃ?」
「アプリから外への通信は大してやっとらんよ」
世界に同時配信された破滅アプリはネットに接続しているとインストールされるが、その機能は極めて限定的で使用する個人の情報を表示するだけらしい。
ダンジョンに入ればダンジョン内の通信と接続されるが、インターネットを介して現実世界を検索するような事はできないとのこと。
「ネットに接続していないのに自然な会話ができるAIだと?」
「考え方が逆やね。生物の頭に人工知能の役割をさせてる感じ」
こっちの世界のAIが世界を検索して最適な答えを探すのに対して、トワは生物……精霊的な何からしいが……の思考能力を使って情報を引っ張ってくる。
人間がネット検索するように考えるのはトワの思考が行い、必要な情報をダンジョン内のネットワークから引っ張ってくる感覚らしい。
「サイバーパンクなんかにあった人間の脳をコンピューターとして使ってる……みたいな?」
「元々の精霊には思考力とかはないんやけどね」
「ややこしいな」
「ま、ウチかてネットからの受け売りやからよーわからんけど」
電子精霊に疑似人格を持たせた存在。分かるような分からんような。何にせよ、トワ自身や破滅アプリにインターネットを利用する能力はないらしい。
「それがノートPC使えばネット検索できると」
「他の探索者が何しとるとか、全部を確認すんのはソータには無理やろ?」
「まあ、全部を知る気はないが、有用なネタがあればな」
今まではダンジョン内の情報があれば探す事はあったが、それならトワに直接聞く方が早いしな。わざわざ動画から知るべき情報というのが思いつかない。
「ウチは到達階数で与えられる知識に制限が掛かっとるけど、ネットで公開されてるなら話せるようになるっちゅうわけや」
「なるほど?」
勝手に制限解除とかできるのか。シンギュラリティという奴かな?
まあ何にせよ、一人暮らしの自宅に話し相手ができるというのは存外、悪いことではないかもしれない。




