【Other】動画配信者わたり5
ダンジョン企業の立ち上げに際して、動画の撮影、編集を行うWebクリエイトデザイナーと契約する事になった。当面の資金は堤の方で用意してくれるらしい。
配信による収益が一定を越えたら、そこから支払う形になるらしい。それまでは国から補助金が支払われる仕組みを整えるとか。
クールジャパン関連予算として、動画配信に割り振られるように仕向けるとか何とか。
あの日、役所の会議室から繋いで以降、堤との直接の接触はない。国の関係者との接触をマスコミに知られないように気をつけるようにと。
個人メールまではバレないという事で、そちらへと指示が飛んでくる。SNSは誤爆があるので避けるようにと。
会社としてやったのは、企業を立ち上げる告知とダンジョンを一緒に攻略してくれる探索者の募集。新規メンバーへの給与は獣を狩ったUBCで支払われるため、雇用契約は結ばない。
どちらかというと俺が行うダンジョン講習への参加者という形になり、参加費の代わりに動画への出演を許可してもらったり、機密保持の契約を交わす事になっている。
注目を集める動画への出演が義務付けられるので、顔出しNGな人は入れない。まずは確実な実績を積むために大学生の運動部を採用するとの事。
この辺は堤が仕切って半分内定した状態で、俺が面接を行って決定という流れだ。俺が判断するのは一緒にやっていけそうかという意思の疎通部分だけ。
俺は誰かとダンジョンに潜った事などなかったので、面接で判断なんてできるかと不安だったが、相手が運動部と言うことが思ったよりやりやすかった。俺自体が体操競技出身で全国レベルには届かず道を諦めたので、伸びなやみ故障に苦しむ彼らの気持ちがよく分かる。
結局、堤が選定した8人全員を一次採用として適性を見ることにした。
ダンジョンで見られるのは多くて3人ずつだろう事から、ダンジョンから獣が溢れる日に合わせて全員一度に適性を見る事にする。
当日、生配信をしながら獣の討伐を行う。
地下鉄の駅前広場に8人で半円を描くように布陣し、俺は更に外で構えて討ち漏らしや討伐に手間取った時の対応をする形だ。
更に外側には今までこの駅を担当していた警備員もいてくれている。仕事を奪う形になっているのだが、相手としては助かるという話だ。
最初の出現、まずはそれぞれの候補生の反応を見ようと考えていた。反応が早かったのは格闘技を行っている候補生だ。
特に女子レスリングをやっている候補生が、すっと重心を下げてとった構えは自然体でありながら隙がない。
他は剣道有段者と空手有段者だな。
逆に反応が鈍いのは球技などをやっている野球部、サッカー部などだ。まずどう動いたものかと左右を見回していた。
レスリング候補生が挑み、一撃を入れたが反撃に遭う。そこを隣の空手部が蹴飛ばして事なきを得たが、飛ばされた先にいたサッカー部員は腰が引けて飛び退いてしまっていた。
包囲の隙間ができるかと移動を開始したが、その隣りにいた剣道候補生が、木刀を振り下ろして獣を仕留めた。
まだ次の出現には間がありそうだと出口の階段を見ながら候補生達に声を掛ける。
「南さんの初動は良かったけど、見かけより獣はタフだから、まずは体勢を崩すようにしてね。佐久間くんのフォローは良かった。桐島くんはもう少し様子を見るとして、田嶋くんはサポートしてくれると助かる」
一連の流れをそれぞれに評価しつつ、全体の包囲を調整する。スポーツ系の隣に格闘系を配して、フォローするのが良いだろう。
スポーツ系も攻撃力は高いので、動きさえ止めれば大丈夫なはず。後は獣を殺す事に抵抗があるかだな。
「見ての通り、獣は倒すと黒い霧になって消える。生物ではないから、容赦は必要ない。そこで躊躇すると怪我をするからね」
まずは動きをしっかりと止めて、そこへ確実なダメージを与える。その流れを再度伝えてから俺は下がった。
2匹目の獣が姿を現そうとしていた。
ラグビーの候補生の前へと走った獣に対して、候補生は低いタックルで胴体を捕まえて転がる。そこへ野球部がバットを振って頭部を捉えていた。
やはりスイングの威力は初期の俺より鋭い。しかし、低い位置にある頭を狙うのは慣れてない。十分な打撃にはならなかったようでまだ生きている。
そこへ柔道部の候補生が獣の首を締めにかかった。呼吸音は聞こえない獣だが、窒息の概念はあるのか一定時間首を締めていると姿が消えていった。
一度目の遭遇でそれぞれに具体的なシミュレーションができていたのか、2匹目以降の討伐はスムーズだった。
一通りの動きを確認してからは交代で休むように人数を絞り、不足する箇所は俺がサポートして狩りを続ける。
午前2時を回ったところで、俺も警備員の人と代わってもらって休み。日の出まで危なげなく終える事ができた。
明け方には候補生を解散させて、撮影スタッフなどにも撤収してもらう。警備員の人達には、少し残ってもらって候補生達の評価を手伝ってもらった。
基本的には俺と大差はなかったが、それぞれの相性などを補正して今後の探索に活かす予定だ。
今後、4人ずつに分けてそれぞれにダンジョン探索を行ってもらう。地下一階の獣なら安定して戦えるのは分かったし、連携が取れれば2階、3階と進むこともできるだろう。
俺が1人だと苦戦する4階以降を手伝ってくれる候補生を選出できればと思うが、彼らの目的が運動部を続けるためのリハビリや能力開発であるなら無理に続けさせるつもりもない。
相手が毒を使ってくる4階以降は危険度が増していく訳で、リハビリのつもりがより深刻な傷を受ける可能性が高くなってしまう。
「その辺は候補生自身の気持ちと堤さんとかとも意思統一しておかないとな」
詳しい打ち合わせは午後にするとして、ひとまず徹夜して疲れた心身を休めることにした。
堤の指示で国とは対決姿勢の様にを見せている。国としては被害者を出したくはないからだ。これは何も探索者の安否を気遣ってではなく、被害者が出るとマスコミが騒ぎ立てるからだ。
国としては立ち入り禁止の立場を崩さずに、あくまで動画配信者が勝手に入っている体を取っている。
万が一、負傷者を出したとしても動画配信者の自己責任という形にしたいのだ。
国のワガママだとも思うが、ダンジョンに入れなくなる方が困る。動画配信ではまだ真っ当な収益にはなっていない。アクセスが急増したのがここ1ヶ月なので、まだ審査待ちの状況だからだ。
ここに1つネックがあるとすると、国に逆らった行為を繰り返しているという扱いになると迷惑動画扱いされないかという点。そうなると収益停止されてもおかしくはない。
ただダンジョンで獣を倒せばUBCを貰える。3階まで行けば、1日に万単位で稼ぐこともできて食事配達などに比べても割の良いバイトとなる。
ダンジョンに入るために堤に協力しているというのが今の俺の立場だった。マスコミではちらほら持ち上げる報道も始まっているが、落とすための前準備だと堤から注意は受けている。何か社会的にまずい事態になったら一気に叩かれるから気をつけろと。
『早く体制を作れるようにするから……それまでは頼む』
堤の苦渋に満ちた顔を思い出す。彼は彼で色々と抱えているんだろうけど、俺は自分が生きる為に獣を狩る。それくらいで丁度いいのだ。
「さて少しでも稼いでおきますかね」




