3階探索の成果
銅の短剣を作った後もマップを埋めながら日没近くまで狩りを続けた。最初の頃に比べると連戦するのが楽になっている気がする。心に余裕が出てきたのもあるだろうが、ステータスの伸びや【持久走】などのスキルも影響しているだろう。3階も3分の2は埋められた。
新たなスキルの獲得はなかったが、初めてのダンジョン産武器である獣の短剣は警棒や鉄パイプに比べるとかなり強い。今後の探索に役立つだろう。鉄パイプなども鍛治師の金槌で作れば威力が上がるだろうか。まあ素材が足りないので作れないが。
転移装置で入口まで戻り、武器の類はロッカーへ入れて身軽な状態で家路につく。
今日の狩りは3階がメインで、30匹ほど倒していたので1万5千円の稼ぎになっていた。途中の自販機で買い物をしたので4千円分くらい使ってはいるが、休日の稼ぎとしては十分だろう。
思わず夕食は豪華に1人焼肉に行ってしまった。
まあ酒飲みではないのでそれほどの出費にはならんのだけど。
この辺、欧米だと物価が高いから3階程度の収入だと割に合わない様子。デフレ日本の恩恵が高い。もっと物価の安い国だと地下鉄自体がなかったりして、ダンジョンが発生してなかったりするしな。
日本が一番ダンジョンでの稼ぎで恩恵を受けられる国じゃないだろうか。
家に帰った俺は早速『鍛冶師の金槌』についてまとめサイトのコメント欄に書き込む事にした。単なるネトゲなら秘密にして荒稼ぎを優先する所だが、ダンジョン攻略は世界破滅に直結するらしいので、有益な情報は拡散すべきだろう。
正直、DIYをしない俺なんかよりも、より金槌を活用してくれる人は多いはずだ。
実際、この金槌がどこまで使えるかも不明。鍛冶へのチュートリアルだとすると、加工できる素材が限られている場合や、出来上がる物の品質が悪い可能性もある。
多くの人が試して最適解を見つけて貰えれば、自分へのフィードバックが期待できた。
「鉄パイプも変形したから、素材持ち込みで加工する事もできるだろうし、応用の幅は広そうだ」
日課になっている動画鑑賞を開始。わたりは本人が4階に突入している動画と候補生達が4人ずつのパーティを組んで探索する動画が上がっていた。
元々運動部という候補生達はコツを掴むのも早いのか既に2階へと入って、獣人相手に危なげなく戦っていた。
わたりの4階探索は盾を持つ獣人に苦戦していた。3階では片手に武器を持つだけなので素早い連撃で体勢を崩すのがパターンだったが、盾で受けられると、すぐに武器で反撃を受ける。
その武器は小剣なのだが、毒が塗られているらしく、攻撃を何度も受けると毒状態に陥るらしい。毒の効果は患部が熱を持ち腫れてきて、頭も朦朧としてくるらしい。ゲーム的にHPが減ってくのとは違うようだ。早めに治療しないと戦闘の継続すら難しくなるだろう。
ただ4階の獣人相手に何度も攻撃を受けるという事態もなさそうなので、すぐに毒にやられる事はなさそうだ……といって油断すると一撃で毒を貰ったりしそうなので乱数の神様は侮れない。
4階のうちにわざと毒を受けて、毒耐性を狙う……のは恐すぎるから却下だな。
わたりは盾を強引に殴って、体勢を崩してから倒すという力技で4階の獣人を倒していた。【身体強化】があるからできるのだろう。俺はどうしたもんかな……。
とりあえず明日は2階のボス部屋攻略を目指すので保留にした。
他の動画でも着実に前に進む様子が見受けられる。わたり同様に4階を進む者も少なくない。早くもパーティを組んで探索を開始しているのは関東の探索者だ。2人、3人なら盾持ち相手でも余裕をもって対応できていた。
「数は力か」
ふと後輩とパーティを組むのも脳裏によぎる。FPSなんかを主にプレイしている彼のことだ、ダンジョンでもそれなりに活躍すると思う。FPS、主観視点の射撃ゲームは画面を視界としてその中で狙いをつけて撃つ。魔術師で射撃感覚で魔法を使えば、似たような感覚で戦えそうな気がする。
俺が獣のターゲットとなり、後輩に魔法で仕留めてもらう。そうした連携はゲーマーとして何度も経験してきた。
多分できる。
でも不安を感じないかということ何だよな。俺はネットゲームでも固定パーティを組むことが少なかった。背中を預ける仲間とのプレイに憧れはあったが、それ以上にミスしたら、足を引っ張ったらというネガティブな気持ちが大きく、一期一会で失敗したらそれまでという野良パーティでのプレイに終始してきた。
ダンジョンでの失敗となると取り返しのつかない事も出てくるだろう。それに責任を負えるかとなると否なのだ。他人の人生を背負う覚悟がない。逆に他人に負担を与えたくもない。結局は自己完結、自己中心的な考え方しかできないのだ。
他人のせいで失敗したとなりたくない。成功も失敗も自分事として納得したい。
ワガママを通すためにはソロでやるしかないんだよな。
一夜明けてネットは鍛冶師の金槌で盛り上がっていた。金槌自体はさほどレアなアイテムでもなかったらしく、所持者が多かったらしい。
動画配信者の中にも持っている者がいて、早速ダンジョンで試してきた動画が上がっていた。
警備員のいる夜中でもダンジョンに入れるという事は、国も容認の姿勢なんだろうか。それとも現場の判断か。
動画では更衣室で加工していた。場所的に狭いと思うんだが、機能の確認ならそれで十分なのか。金属は硬いままなのに金槌で叩くと変形する。変形させても熱を持つこともなく、変形直後でも硬いまま。
割と脳がバグる状況で、配信者も首を傾げつつ子供時代を思い出して金属をこねていた。
すると鉱石の鈍い塊が、徐々に金属の光沢を見せていく。勝手に精錬されていく様はまた不可思議な光景だ。
技術革新かというコメントも付いている。
炉で溶かして不純物を取り除くというのはかなりエネルギーを必要とする作業。それを人力で行えるというのは画期的だろう。
ただ量産できるかというと難しい。工業制手工業の様に人々が並んで金属を叩いている姿をイメージして、革新というよりは復古なのかとも思えた。
金槌で形を整えるというのも難しく、歪な剣のような物にしかならなかった。しかも銅の剣だ、武器には使えないだろう。
それでもダンジョン史に残りそうな出来事だった。
そのきっかけを作った事に内心でほくそ笑む。アラフォーになってくると承認欲求よりも、人知れず事を成したという黒幕感が嬉しかったりする……いや、目立ちたくないって個人の性質か。
何にせよ、これからの展開が気になる所だ。釘を使っての加工もできるよと伝えたい……伝えておくか。プラモ職人なんかがダンジョンでの加工にハマってくれたら、繊細な装飾品も作れそうだ。
ゲームではアクセサリーで能力上昇があったりするが、ゲームを踏襲しているダンジョンでもある気がする。
俺にはそうした才能はないから、できる人に丸投げするのだ。
そんな訳で俺は自分でやれることをやる。
今日は2階のボス部屋攻略だ。思い起こせば、1階でシールドグローブを手に入れた部屋もボス部屋だった。強力なアイテムを期待できる。
動画を見ていたら程よく夜明けを迎えていた。




