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「シンデレラ」なのに結ばれたのはまさかの姉でした  作者: 紅月エル
第二章 元悪役の波瀾万丈の王宮暮らし
26/27

18 正体

 ずっと一人だった。

 何をするにもあいつの方が上、自分はその下。

 両親からも愛されて、自分はその次。

 先に生まれたから何だ、双子だからって何だ。

 双子の『兄』は、そんなに偉いものなのか?

 ――気に入らない。

 だから、兄の一番大切なものを奪う。

 兄の一番大切な、兄が夢中になるその女性(ひと)を。


***


 喉が締め付けられるように痛む。


 どうして?

 暗がりの中、アナスタシアは頭を抱えてうずくまった。理解できなかった。何が何だかわからなかった。


 あれは、一体誰だったのだろう。


 はっきりとはわからない。だが、あれは確かに――。


 瞬間、エレノアのことがわからなくなった。

 彼女の名前も、顔も、声も、


 ――性別も。


「うっ」


 急激に吐き気が襲う。胸の奥で何かがぐるぐると回り、それが徐々に身体を侵食していく。

 なんだろう、これは。

 考えるなと脳がそれを拒絶し、同時に胸からはどろどろした液体が流れている。この気味の悪い感覚を、アナスタシアは知っている。

 でも、現世ではない。


 何だっけ、思い出せないや。


 苦しみになら幾度だって耐えてきた。前世も現世も、昔も今も。

 だけどやっぱり、苦しいのは嫌だ。

 本当は、もっと楽に生きたかった。

 あらかじめ敷かれたレールの上を歩いて、そのまま没落人生を送ればよかったのだろうか。だけどそれではつまらないと思ったから、わざと外れて新しいレールを敷いた。

 だけどそれが、過ちだったというのだろうか。

 そもそも、前世のことなんて思い出さなければ。


 ――違う。

 そうじゃない。

 思い出さなければ、おそらく会えなかった人がいる。

 あんな気持ちにならなかった人がいる。


「……よし」


 ふうと、息を吐いた。心を落ち着かせようと、そっと目を瞑る。


「聞かなきゃ」


 真実を確かめなければ、何も始まらない。

 パッと目を開ける。おぼつかない足で鏡の前に立ち、髪を整える。

 平気。大丈夫。

 エレノアのことは、自分がよく知っている。そのはずだった。でも、知らない彼女を見た。だから、この目で確かめる。


 それだけだ。


***


 少年は、鏡の前に立つ。

 その中にいる自分に目を向ける。


 ――嫌いだ。


 何もかも。

 ……一体何度、死にたいと思っただろうか。

 あの事件が起きてから、ずっとだ。

 毎日と言ってもいいほど、あの出来事が夢に出る。生々しいその惨状を、鮮明に思い出す。

 忘れたくても、記憶がそれを拒む。忘れるなと拒んでくる。

 自分は、忘れたいのに。


 真っ黒な髪が、窓から差し込む陽射しに照らされる。

 目の前には、忌々しい真っ赤な目。

 大嫌いな自分の瞳。


 悪魔の目と、誰かが言った。


 あの事件が起きたあとだ。骨折して帰ってきた自分に対して、悪魔が制裁を加えたのだと。

 あの目と合った人間は呪われると。


「……馬鹿らしい」


 そんなことができるわけないのに。


『そうか?』


 ハッと、顔を上げる。

 目の前に、鏡の中に、弟の顔があった。


『実は間違ってないんじゃねぇか? だってわかんねえだろ、もしかしたら本当に、おまえは呪われてんのかも』


 ニヤリと、そいつは笑う。


『一体誰が証明してくれんだよ、おまえが殺してないって』

「違う。殺したのは僕じゃない」

『じゃあ他に誰が?』

「……それ、は」

『ほら。やっぱり犯人はおまえしかいない』

「――違う!」


 ……少年が叫んだ、その瞬間。

 バタンと、扉が開いた。

 ぎょっとしてそちらを見やると、少年は言葉を失った。


「――……エレノア?」


 扉の前で固まったまま、こちらに目を向ける少女。

 ――アナスタシアがいた。

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