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「シンデレラ」なのに結ばれたのはまさかの姉でした  作者: 紅月エル
第二章 元悪役の波瀾万丈の王宮暮らし
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3 姫とエレノア

「我が王国第一王女。名をセレンディーネよ」


 胸を張って言う彼女の言葉に、アナスタシアは目を剥いた。

 金色の長く美しい髪は、毛先を桃色に染め、緩くカールされている。身綺麗で優雅な雰囲気を漂わせるセレンディーネをまじまじと眺めながら、

「王女の名前くらい、その小さな脳みそでも覚えられるでしょう」

 と発せられたセレンディーネの言葉をなんとなく反芻してみた。だがやがて、それは本心からではないと知ると、ああ、この子はあの世で言う「ツンデレ美少女」なんだなあと勝手に解釈した。


 いや、仮にそうでないとしても、そういうことにしておこう。それがいい。そういうキャラもいたほうが、夢がある。


「ちょっと、聞いているの?」


「いえ、何でも……」


 可愛い子には裏があると言うが、彼女の場合はそこらの、例えば他でもない自分よりかは、随分とマシな性格をしていると思う。むしろそれが萌え対象の「ツンデレ」なら、前世の記憶があるアナスタシアの場合、逆に好きになってしまうタイプだ。

 正直、彼女とは反目し合わずに、仲良くやっていけたらと思っている。

 セレンディーネは近くにあった赤い椅子に腰掛けると、腕を組んでアナスタシアを眺めるように見る。


「あなたのことは昨夜見かけたわ。確か、階段で転んだ子に手を貸してあげていたわね。あまり認めたくはないけど、まあ、優しいってことにしてあげる」


 ――これは、褒められた、ということでいいのだろうか。

 何だか初登場でいきなりデレ炸裂といったところだが、けれど、普通に……嬉しい。


「でもまあ、うまくやってくれたものね。あなたがあそこで倒れなければ、舞踏会は万事順調にいっていたのに。もしかして、病でも患っているの? こんな言い方はしたくないけれど、あまりにも重病なのなら、別邸にご案内するわよ。わたくしにうつされても困るし、まず病人が兄の婚約者なんて、正直歓迎しないですしね」


 セレンディーネの赤い唇から発する、溢れ出る、というより、ある意味まくし立てるようなその言葉に、アナスタシアはどう答えればよいのか迷った。

 でもまあ、自分が病だとかそういうわけではないから、ここはありのままに話すべきなのだとは思うが……


「答えないということは、病にかかっているということでよいのね? わかったわ。フレデリックにそう伝える」


「いえいえあのそういうわけではっ」


 一方的に決められては誤解を生みかねない。席を立って必死に両手を広げたアナスタシアは、ふっと溢れた彼女の笑顔に一瞬どきりとした。


「あなたって面白いのね。気に入ったわ」


 そういうと、セレンディーネは、不意に両手をきゅっと握ってきた。


「いいわ。――これからはお互い仲良くしましょう?」


 その時、体中がゾクゾクするような悪戯的な笑みが浮かべられたのは、いうまでもない。


***


「――つまり、姫様は成り行きでここにいる、というわけですか?」


 セレンディーネが去った後、アナスタシアは部屋に残っていた侍女――先ほど、自分の身支度を手伝ってくれた――エレノアと、優雅なティータイムを楽しんでいた。

 本来ここはどこぞの貴族様とお茶会するところなのだろうが、生憎新参者のアナスタシアには、貴族の友人も知り合いもいないため、こうして仲良くなった侍女と話をするしかなかった。しかしエレノアは、年も近いためかよく自分の話を聞いてくれるし、彼女の話も面白いため、嫌な気はまったく感じなかった。ただ、本当にこれでも王子の婚約者なのか、自分でも疑いたくなってくる、もちろん、婚約者になったからここにいるだけで、本心では早く抜け出したいと思っているのだが。


「大変でしたね。侍女の分際でこんなこと言ったら失礼なんですけど、フレデリック殿下って、恋人とかいたこと、あるんでしょうか」


 そう、一人愚痴るように呟くエレノアをよそに、アナスタシアは彼のことについて少し考えていた。

 前世の芸能界にでもいそうな美少年だし、性格は悪くとも一人くらい恋人がいたとしてもおかしくはない。だが王子という立場からして、そうそう女性と交流することって……。


 いや、一つだけ、あるのではないだろうか。


「もてたりとか、するのかな? あの人……」


「あー、どうでしょう。よく恋文をもらっていると聞きますが、まだ正式に縁談の話はあがっていませんね」


 やはりそうか。恋文くらいなら、誰でも彼に送ることができる。

 本当にもらっているなら、自分なんかじゃなく、その中から選んだりとか、すればよかったんじゃない。

 そう思うのも無理のないことだが、しかし、なぜ彼が自分を選んだのか、そこがどうしても納得いかないのだ。直接聞こうにもチャンスがないし、何より、前世の話を信じてもらえるかも微妙だ。

 いや、信じる人こそ、もしかしたらありえないのかもしれない。


「どうかしました?」


 ぐいっと、エレノアが顔をのぞき込んでくる。その表情にどぎまぎしながらも、何でもない、と頭を振る。

 物事にはタイミングというものがある。出会って一日も経っていないのに、いきなり前世の記憶があるなどといわれても、信じられるはずがないのだ。


「そうだ、姫様。明日、フレデリック殿下主催の狩りがあるんですけど、一緒にどうです? あ、病み上がりだからさすがに無理かな……」


 フレデリック主催、というのがあまり気にくわなかったが、だが、せっかく誘われたのだ、ここは婚約者としてイベントに参加するのも悪くない。


「ええ、いいわよ。やりましょう、狩り!」


 今までは屋敷でひっそりと、しかも女四人で過ごしていたため、狩りというものに触れたことがなかった。だからこの際、庶民には体験できないことも試してみればいい。

 うん、むしろそうするべきだ。

 今の自分には、刺激が足りない。なにか、ここでも夢中になれるものを探さないと。


「じゃあまずは、騎士団の面々に会いに行きましょうか」


 そう言ったエレノアの表情には、どこか、行きたくないという感情が見て取れた。

 ……そんな気がした。

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