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「シンデレラ」なのに結ばれたのはまさかの姉でした  作者: 紅月エル
第二章 元悪役の波瀾万丈の王宮暮らし
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4 白薔薇の竜騎士

 このエレノアという登場人物を、アナスタシアはよく知らなかった。

 本編に出てきたかどうかも覚えておらず、だがしかし、所詮は侍女なのだから、この物語に大きく関わってくることはないだろう。


 薄桃色の髪に紫色の瞳。まず彼女を見て驚いたことといえば、その瞳である。この国には紫色の瞳の持ち主は珍しいため、最初は自分もまじまじと眺めてしまったものだった。しかし今考えたら普通に失礼なことだったので、ごめんなさいと心の中で謝った。

 他に彼女について分かることといえば、可愛い、それくらいである。

 エラほどまでではないけれど、胸元まで伸びた髪を二つに分けて結び、その綺麗な紫色の瞳がよく映えている。自分の知っている人の中では、二番目くらいに綺麗だと思う。


 だがしかし、唯一気になるのは……。


「姫様? わたしの顔、何か付いていますか?」


 ――妙に、まだ幼い少女にしては背が高いのだ。


「え? いえ、何でもなくてよ」


 お嬢様言葉には相変わらず慣れない。しかしそれよりも、彼女に対して疑問が浮かぶ。

 まあ、わたしだって割と背も高いし、おかしくはないと思うけど。だけど、何だかね……。

 少し肩幅も広い気がするし、少なくとも、今まで見てきた美少女とは、何かが違う気がする。

 アナスタシアのいぶかしげな視線に気づいたのか、エレノアはああ、と両手で肩を叩く。


「わたし、運動をやっていたんです。それも、五年間。だからじゃないですかね、普通より背が高くて肩幅も広いんです」

「ああ、そういうことだったのね。理解したわ」


 どうりで体格が引き締まっているわけだ。

 アナスタシアも昔、家族とよく追いかけっこをして遊んでいた。その度に怪我をして、手当てをしてもらっていたのを今でも覚えている。

 ……と、それは「運動」とはいわないか。


 そうこうしているうちに、やがて通路の奥あたりに、小さな扉が見えてくる。それが、通称「白薔薇の竜騎士」の控室だ。詳しいことは何も聞かされていないが、どうやら彼らはまだ結成されて間もないらしく、おまけにその多くが十五歳未満の少年だというのだ。


「まあ、騎士団といっても形だけですよ。彼らはこの国に留学で来ているだけで、専属ではないのです」

「え?そうなの?」

 

 不意に告げられたその事実に、アナスタシアはあからさまに驚いた顔をする。つまり、彼らは正式な専属騎士団ではないということか……。


「ちょっと複雑なのね。まあ、頑張って覚えるわ」


***


 騎士団と言われると、アナスタシアの場合、優雅で気品のある優しい男性ひとを思い浮かべる。

 主が危機の時には颯爽と駆けつけてくれて、あっという間に敵をなぎ倒していく。

 そうして最後には、主の手を取って「お怪我はありませんか」と優しく微笑んで――


 ……いや、これはある意味恋愛小説の読み過ぎというべきか。


 まあとにかく「白薔薇の竜騎士」も、そんな人たちだったら嬉しい。


 そう考えながら取っ手に手をかけると、中からドゴンという大きな物音がした。その途端、勢いよく扉が開く。

「うおっ」

 まだ若いその少年は、快活そうな見た目に金色の髪と翠の瞳をしている。アナスタシアより二つほど年下だろうか。

「あ、こらフレディ! まぁた上着を着ないではしゃいで」

 横にいたエレノアが、少年に注意するよう言い聞かせる。

 フレディと呼ばれたその少年は、むすっと頬を膨らませると、見知らぬアナスタシアに目を向ける。

 ……途端、睨むような視線を向けられたのは、気のせいだろうか。

「だれ、このひと」

 両手を組んでこちらを眺めるその目には、警戒と怒りが感じられる。何もした覚えはないが、今彼は相当頭にきているようだ。

 機嫌が悪いところ、申し訳ない。

「フレデリック殿下の婚約者の方よ。時期王妃となられるお方だから、失礼のないように」

 時期王妃……そんな日は、多分来ないと思うけれど。

「へえ? ま、よろしく」

 少し小生意気な少年だと思ったが、しかしここは年上らしく、こちらこそ、と笑ってみせる。

 ぷいっと顔を背けられた。

 ……顔が赤かったことは別として。

「あ、エレノア。おはようございます」

 寝起き、だろうか。もう午後を過ぎた頃だが、服が散らばった寝台のほうから、少年が歩いてくるのが見える。

 これまた十四歳くらいの、金髪碧眼の綺麗な少年だ。

 大きな窓から差し込む光に照らされ、髪の毛がより一層輝いて見える。フレディとはまた違った雰囲気で、どこか優しさを感じる。

「お客さんですか?」

 その丁寧な口ぶりに、アナスタシアはハッとして頭を垂れる。

「あ、アナスタシアです。どうぞよろしく」

「ボク、エリダヌスっていいます。気軽にエリスって呼んでください」

 随分と大人びた子だなあと思った。雰囲気や物言いからしてもそうなのだが、彼を取り巻くその空気すら落ち着いて見えるのだ。

 あの子とは、何だか仲良くやれそう。

 どちらかというと子供っぽいアナスタシアだが、まあ、頑張ろう。


「ったく、ざけんじゃねーよ! なんで僕が洗濯しなきゃなんないわけ!?」

「そんなこと言ったって、今日の洗濯係はキングでしょ」

「家事はヴィル専門だろうが」

「確かに得意だけど、決まり事は決まり事。これ常識」


 何やら喧嘩勃発のようだ。気になって目を向けたが、しかし瞬間、目の前に人が飛び込んできた。

 ……寝台から、ジャンプ、したのだろうか。

 べしゃっと、音を立てて、転がっていた服の上に倒れる少年。

「あ、ねえちょっとフレッド! んもう、服ぐしゃぐしゃにしないでよぅ……」

 先ほど口喧嘩を起こしていた一人が、フレッドという名の、これまた変わった明るそうな彼に近づく。

 なるほど、この少年は割としっかりしたタイプで――確か名を、ヴィルといったか――みんなをまとめる中心的存在、といったところか。


 いや、ちょっと待って。

 一回、状況を整理してみよう。


 未だ自分を鋭い視線で睨みつけているこの少年が、フレディ。

 寝間着姿のまま窓辺で読書しているのが、エリダヌス。

 服の上で寝そべっているのが、フレッド。

 そのフレッドに説教中なのが、ヴィル。

 そして先ほどヴィルと口喧嘩をしていたのが、キング。


 ……で、いいのだろうか。

 とりあえず名前と状況を把握して、ふう、と息をつくと。


「――ただいまぁ。……ん? どちら様ですか?」


 不意に背後で声がして、アナスタシアは心臓が飛び出るくらい驚いた。

 まだ一人、いたのか。

 ……だが。


 女の子?


 かと思うほど、綺麗で透き通った白い肌にふわりとした白金の髪。その右側の髪の毛には薄く黒っぽいメッシュが入っている。

 そのかわいらしさにぽーっと見とれていると、気がついた。

 彼女の周りに、たくさんの小動物がいることに。

「うわっ」

 リスが自分の肩に乗っかってきて、びくりと震えた。普段動物とふれあうことがなかったため、動揺と恐怖で怯える。


「あ、ごめんなさい。この子たちすぐに逃げちゃうので」


 ぺこりと礼儀正しく頭を下げる彼女を、アナスタシアはじいっと眺めてしまう。

 一瞬女の子、かと思ったのだが。


 違った。


 体つきは華奢だが、その声は紛れもなく、思春期の男の子のものである。他の子より少し高いくらいで、声だけ聞けば男の子だと思うだろう。

 それほど、彼女、いや彼は、中性的な見た目をしていた。


「ディア。顔を洗うくらい部屋の中でしたらどう? 動物が寄ってきて洗えないでしょう」

 そう、エレノアが声をかけると、ディアは、なんとも可愛らしい、その満面の笑みで言うのだった。


「――いえ。おれは、人間も動物も大好きなので!」


***


 その変わり者の集まりのような騎士団「白薔薇の竜騎士」は、この国からほど遠い、フェーゼント帝国というところから来たという。

 結成されて間もないその騎士団は、十三歳以上の優れた能力を持つものだけしか、入団を許されていない。

 そして、その厳しい入団条件を見事クリアした彼らは、つまり、優れた人材というわけだ。

 初対面からぶっ飛んでいる彼らに、初めは動揺を隠せないアナスタシアだったが、彼らがすごい人間であることに変わりはない。

 


 その、後に歴史的に名を刻むことになる騎士団の名を、正しくはこう言う。




「白薔薇の竜騎士」――ウェタ・ウィリア。

 

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