第七話 守るべきもの
森は、もはや森ではなかった。
焼け焦げ、砕け、原形を失った大地。
その中心に立つのは――
影丸。
ボォォォ……。
青白い炎が、静かに揺らめく。
だがその炎は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
荒れていない。
暴れていない。
ただ――“存在している”。
「……全て、燃やす」
感情のない声。
それは、もはや人のものではなかった。
「……影丸」
ゆっくりと立ち上がる影。
服部半蔵。
衣は破れ、血も流れている。
だが、その目は死んでいない。
「戻れ」
短く、ただそれだけを言う。
「対象、確認」
影丸の視線が向く。
「排除する」
ヒュン――
消えた。
ドン!!!
衝撃。
半蔵のいた場所が、完全に消し飛ぶ。
「速い……!」
地面に倒れたままのお凛が息を呑む。
だが。
「……遅い」
声は、すでに別の場所。
半蔵が背後に回る。
だが、その刃は振るわれない。
「……斬らぬのか」
いつの間にか、影丸が振り向いていた。
「斬れば、終わる」
半蔵は答える。
「だが――それでは意味がない」
その言葉に、わずかな“揺らぎ”。
「……意味……?」
「お前を取り戻す」
静かな宣言。
「……不要」
その瞬間。
ボォォォッ!!!
炎が爆発的に膨れ上がる。
ズドォン!!!
半蔵が吹き飛ばされる。
「半蔵様!!」
お凛が叫ぶ。
だが、身体が動かない。
その時だった。
「……やはり、そうなるか」
低く響く声。
ゆっくりと歩み出る影。
猿飛佐助。
「佐助……!」
お凛が睨みつける。
「安心しろ」
佐助は肩をすくめる。
「まだ壊すつもりはない」
その視線は、ただ一人。
影丸へと向けられている。
「完成したな……“核”」
「……識別、不能」
影丸が呟く。
「俺だよ」
佐助が笑う。
「お前に“道”を見せた男だ」
一瞬。
影丸の動きが止まる。
「……道……?」
「そうだ」
佐助は一歩踏み出す。
「忍として生き、影に消えるか」
「それとも――」
その目が、燃える。
「この力で、世界を塗り替えるか」
沈黙。
炎が、揺れる。
「……選択」
影丸が呟く。
その言葉に。
お凛の目が見開かれる。
「影丸……!」
彼女は、立ち上がった。
ふらつきながらも。
「聞いて……!」
影丸が、ゆっくりと振り向く。
「あなたは……そんな人じゃない……!」
「……不明」
「違う!!」
お凛は叫ぶ。
「あなたは、仲間を見捨てなかった!」
「私を助けてくれた!」
「何度も……何度も……!」
言葉が、震える。
「それが……あなたよ」
沈黙。
炎が、わずかに揺らぐ。
「……仲間……」
その時。
「甘いな」
佐助の声が、すべてを断ち切った。
「情に縛られる限り、お前は“未完成”だ」
その瞬間。
ズドン!!
佐助が踏み込む。
狙いは――影丸。
「完成させてやる」
槍が振るわれる。
だが。
ギィィン!!!
それを止めたのは――
半蔵だった。
「……邪魔をするな」
佐助が低く言う。
「する」
半蔵は即答する。
「それが、忍だ」
「まだ言うか……!」
ドン!!!
再び、激突。
だがその背後で。
影丸は、立ち尽くしていた。
「……選択……」
炎が、揺れる。
「俺は……」
そして。
ゆっくりと。
一歩を踏み出した。
向かった先は――
「……半蔵様の、側だ」
その瞬間。
空気が変わる。
「ほう……」
佐助が笑う。
「ならば――」
その目が、冷たく光る。
「斬り捨てるまでだ」
闇が、収束する。




