第五話 核の名
煙が、ゆっくりと晴れていく。
焼け焦げた森の中で、誰もが動けずにいた。
その静寂を破ったのは――
「“核”……だと?」
服部半蔵の低い声だった。
その視線の先には、余裕を崩さぬ男。
猿飛佐助。
「そうだ」
佐助はゆっくりと歩き出す。
焼けた地面を踏みしめながら。
「鬼火衆はな……ただの集まりではない」
「……何を言いたい」
「“中心”があるということだ」
その言葉に、空気が重く沈む。
「それが、“核”」
その一言が、場を凍らせた。
「誰なの……それは……」
お凛が思わず口にする。
だが、佐助は答えない。
ただ、視線を――影丸へと向ける。
「……まさか」
影丸の顔が、わずかに歪む。
「気づいたか」
佐助は笑う。
「そうだ。お前だよ、影丸」
空気が止まる。
「……何を、言っている」
影丸の声は、明らかに揺れていた。
「俺が……核だと?」
「正確には、“器”だ」
佐助は一歩近づく。
「お前の中にはな――眠っているんだよ」
「“本物の鬼火”がな」
「……嘘だ」
影丸は首を振る。
「そんなもの……俺は……!」
その瞬間。
ズキン――
頭の奥に、鋭い痛みが走る。
「ぐっ……!」
膝をつく影丸。
視界が歪む。
――炎。
あの夜の炎。
だが、違う。
燃えているのは、里ではない。
“自分自身”だ。
「思い出せ」
佐助の声が、どこか遠くから響く。
「お前は、選ばれたんだ」
――お前は特別だ。
――この力を、受け継ぐ器となる。
「やめろ……!」
影丸が叫ぶ。
頭を抱え、地面に倒れ込む。
「影丸!」
お凛が駆け寄ろうとする。
だが――
「来るな!」
影丸が叫んだ。
その声は、今までにないほど荒れていた。
「……近づくな……」
震える声。
だが、その理由は明らかだった。
ボッ――
影丸の体から、微かな炎が揺らめく。
「そんな……嘘でしょ……」
お凛の顔が青ざめる。
「影丸……あなた……」
「……そういうことだ」
佐助が静かに言う。
「鬼火衆が求めているのは――あいつ一人だ」
「お前たちは、すべて“ついで”だ」
空気が凍りつく。
「……くだらぬ」
その沈黙を断ち切ったのは、半蔵だった。
「何?」
佐助の目が細くなる。
「器だの核だの……」
半蔵は一歩、前に出る。
「そのようなものに、人を縛るな」
「……綺麗事だな」
佐助は笑う。
「力を持つ者は、その力に従うしかない」
「違う」
半蔵の声は、静かだった。
だが――
絶対だった。
「力をどう使うかは、“本人が決める”」
その言葉に。
影丸の瞳が、わずかに揺れる。
「……影丸」
半蔵は振り向かない。
だが、その声は真っ直ぐに届く。
「お前は、どうしたい」
沈黙。
炎が揺れる。
苦しみの中で、影丸は歯を食いしばる。
「……俺は……」
絞り出すような声。
「……忍だ」
その瞬間。
炎が、消えた。
静寂。
「ほう……」
佐助が興味深そうに目を細める。
「ならば、確かめるしかないな」
槍を構える。
「お前が、本当に“器”に抗えるのか」
「やめろ!!」
お凛が叫ぶ。
だが――
遅い。
ヒュン!!
佐助が一気に踏み込む。
その標的は――影丸。
しかし。
ギィン!!
その一撃は、届かなかった。
半蔵の刃が、すべてを止めていた。
「通さん」
その一言で、空気が凍る。
「……やはり、お前か」
佐助は笑う。
「ならば――」
その目が、狂気に染まる。
「ここで決めよう」




