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第四話 炎と影の境界


 夜が裂けた。




 青白い炎が、森を焼く。



 ボォッ――!!




 空気そのものが揺らぎ、地面が軋む。




「これが……鬼火……!」




 お凛は息を呑んだ。




 ただの火ではない。




 それは“意志を持つ炎”。


 触れれば焼けるだけでは済まない――命そのものを喰らうような、異質な力。


「遅い」




 低く呟いた瞬間――




 炎が弾けた。




 ドン!!




 赤装束の男が、爆ぜるような速度で踏み込む。




 だが、その前に立つ影は揺るがない。




 服部半蔵。




 彼は一歩、踏み出した。




 ただ、それだけ。




 しかし――




 世界が変わる。




 ヒュン――




 視界から、半蔵の姿が消えた。




「なに……?」




 次の瞬間。




 ギィィン!!




 刃と刃が、空中で激突する。




 火花ではない。




 影と炎が、ぶつかり合っていた。


「速いな……だが!」




 男は笑う。




 炎が腕から溢れ、刃へと絡みつく。




「これが加われば、どうだ!」




 ズドン!!




 斬撃が地面を割る。




 しかし、その一撃は空を裂いただけだった。




「無駄だ」




 声は背後。




 半蔵の刃が、男の脇腹へと走る。




 だが――




 ボッ!!




 炎が盾のように膨れ上がり、刃を弾いた。




「効かぬよ」




 男は振り向きざまに蹴りを放つ。




 ドン!!




 衝撃が走り、半蔵がわずかに後退する。




 その瞬間、森全体が静まり返った。


「……互角?」




 お凛の声が震える。




 だが、その隣で――




「違う」




 影丸が低く言う。




「あれは……測っている」




「え?」




「半蔵様は、まだ本気ではない」


 一方――




「余裕だな、半蔵」




 背後から、声。




 振り向かずとも分かる。




 猿飛佐助。




「加勢しないのか」




「する必要があるか?」




 佐助は肩をすくめる。




「そいつはまだ“未完成”だ」




「……未完成だと?」




 男の表情が歪む。




「貴様……!」




 怒りと共に、炎が膨れ上がる。




 ボォォッ!!




 先ほどの倍以上の火力。




 木々が一瞬で焦げ、地面が黒く焼ける。


「面白い」




 半蔵が、静かに構える。




「ならば――少しだけ見せてやろう」




 その瞬間。




 空気が変わった。




 風が止み、音が消える。




 まるで、世界が息を潜めたかのように。


「……影が、消えた?」




 お凛が呟く。




 違う。




 消えたのではない。




 “すべてが影になった”。


 ヒュッ――




 気づいた時には、遅い。




 男の背後に、半蔵が立っていた。




「なっ……!」




 振り向く間もない。




 ズバッ――!!




 刃が走る。




 炎が裂ける。




 そして――




 血が舞った。


「ぐっ……!」




 男が膝をつく。




 初めて、傷を負った。




「馬鹿な……炎が……」




「守りに頼るな」




 半蔵は冷たく言う。




「それでは、死ぬ」


「……く、くく……」




 だが、男は笑った。




 血を流しながら。




「やはり、あんたは別格だ」




 その目が、狂気に染まる。




「だからこそ……価値がある」




「何?」




 次の瞬間――




 男の炎が暴走した。




 ボォォォォッ!!!




 制御を失った炎が、四方へと広がる。




「まずい……!」




 影丸が叫ぶ。




「これは、暴走じゃない……!」




「何だというの!」




「自爆だ!!」


 空気が凍りつく。




 その威力は、周囲一帯を消し飛ばす。




 お凛の顔が青ざめる。




「逃げ――」




「動くな」




 半蔵の声が、すべてを止めた。


「……半蔵様?」




「ここで退けば、終わりだ」




 その目は、決して揺るがない。




「忍は――守るためにある」


 その言葉と同時に。




 半蔵は、一歩踏み出した。


「止める」


 炎の中心へ。




 ただ一人で。


 ドォォォォン!!!!




 爆発が、夜を呑み込んだ。


 静寂。




 そして――




 ゆっくりと、煙が晴れていく。


「……嘘でしょ……」




 お凛の声が震える。




 そこに立っていたのは――




 無傷の半蔵。




 その足元には、倒れた男。


「終わりだ」




 半蔵は静かに言う。




 だが、その時。




 カツン、と乾いた音が響いた。


「見事だ、半蔵」




 拍手と共に現れる影。




 猿飛佐助。




「だがな……」




 その目が細められる。




「これは“序章”に過ぎない」


「鬼火衆は、まだいる」




「そして――」




 佐助は、影丸を見た。




「“核”は、すでに動いている」


「核……だと?」




 半蔵の声が低くなる。


「影丸」




 佐助が笑う。




「お前が逃げたあの夜――」




 その言葉が、ゆっくりと落ちる。




「本当に終わったと思っていたのか?」


 影丸の瞳が、大きく揺れた。

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