第二話 裏切りの火
爆ぜた大地の衝撃は、森の静寂を完全に破壊した。
土煙が舞い上がり、視界は一瞬にして閉ざされる。
だが、その中でも動く者がいた。
「遅い」
低く呟いたのは、服部半蔵。
煙の中を、風のように駆け抜ける。
次の瞬間――
ギィン!!
金属がぶつかり合う甲高い音。
長槍と忍刀が、火花を散らして交差する。
「相変わらずだな、半蔵!」
笑いながら踏み込むのは、猿飛佐助。
その一撃は重い。忍のそれではない。まるで戦場の武将のような力。
「忍びが正面から来るか」
「時代が変わったと言っただろう?」
佐助は槍を回転させ、地面を抉る。
ズドン!!
再び土が吹き上がり、半蔵の姿が掻き消える。
だが――
「変わっていないものもある」
声が背後から響いた。
ヒュッ――!
半蔵の刃が、佐助の首筋を狙う。
しかし、寸前で止まった。
「……なぜ止める?」
佐助は振り向きもせずに言う。
「まだ、殺す理由が足りぬ」
半蔵の言葉は冷たい。
だが、その奥には迷いがあった。
その一瞬の隙を、佐助は見逃さない。
ドン!!
肘打ちが半蔵の腹に叩き込まれる。
距離が離れ、二人の間に緊張が張り詰めた。
一方――
森の別の場所では、別の戦いが始まっていた。
「来るぞ!」
影丸が叫ぶ。
その直後、黒装束の忍たちが一斉に飛び出した。
数は十を超える。
いや、まだ増える。
「こんな数……!」
お凛が舌打ちする。
彼女の手裏剣が、次々と敵を倒していくが――
「倒しても、キリがない……!」
「違う」
影丸は静かに言う。
「こいつらは“足止め”だ」
「え……?」
その瞬間、空気が変わった。
ゾワリ、と背筋に走る悪寒。
「気づいたか」
低い声。
いつの間にか、背後にひとりの男が立っていた。
黒ではない。
深い“赤”の装束。
「貴様……何者?」
お凛が構える。
男はゆっくりと笑った。
「名乗るほどの者ではない。ただ――」
その目が、影丸を射抜く。
「かつての“同胞”を迎えに来ただけだ」
空気が凍りつく。
「……影丸?」
お凛の声が震える。
だが、影丸は答えない。
ただ、男を見つめている。
「久しいな」
赤装束の男が言う。
「お前は死んだはずだった」
影丸の声は低く、押し殺されていた。
「死んださ。一度はな」
男は首を鳴らす。
「だが、蘇った。“新しい忍”としてな」
その言葉に、影丸の目が揺れる。
「まさか……お前、“あの里”に……」
「そうだ」
男は笑う。
「忍を捨て、力を得た者たちの里――」
「……鬼火衆」
影丸が吐き捨てる。
その頃――
半蔵と佐助の戦いは、さらに激しさを増していた。
木々が折れ、地面が砕ける。
「楽しんでいるのか、佐助」
「当然だ!」
槍が唸る。
「忍として生きるなど、窮屈すぎる!力を解放しろ、半蔵!」
「……愚かな」
半蔵は一歩踏み込む。
「忍は“影”であればよい」
「違うな」
佐助は笑う。
「これからは、影が表に出る時代だ」
その瞬間――
森の奥から、悲鳴が響いた。
「影丸……!」
お凛の声。
半蔵の目が鋭くなる。
「……佐助、お前たちの狙いは」
「ようやく気づいたか?」
佐助は槍を構え直す。
「標的はお前ではない」
その言葉に、空気が一変する。
「影丸だ」
森の奥。
影丸は膝をついていた。
肩から血が流れている。
「弱くなったな」
赤装束の男が冷たく言う。
「かつては、里一番の忍だったというのに」
「……黙れ」
影丸は歯を食いしばる。
「お前たちは、忍ではない」
「その通り」
男はあっさりと認めた。
「だから強い」
次の瞬間――
影丸の首筋に刃が当てられる。
「連れていくぞ」
お凛が飛び出そうとした、その時。
シュッ――!
風が裂けた。
赤装束の男の腕が、弾かれる。
「そこまでだ」
静かに立っていたのは、半蔵だった。
「影丸は渡さぬ」
その一言に、場の空気が完全に支配される。
佐助も、赤装束の男も、動きを止めた。
「面白い」
佐助が笑う。
「ならば――奪うまでだ」
闇が、さらに深くなる。
そして――
本当の戦いが、今始まる。




