73 2人の皇帝職
マダム・ローズ
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい。
そうですよね、急ですよね。ごめんなさいね、今から説明しますね。」
(ギヨティーヌさんよりコチラの方が手強そうですね…… アルコルさんに関する資料が無いだけに打つ手が限られますが…)
マダム・ローズは一息ついて、お茶で口を湿らす。
それはギヨティーヌも、そしてマノンも同じだった。
マダム・ローズ
「マノンさん、わたくしが、
〈どっちが侵略した、どちらが正しかった、間違っていた。戦争で誰がそれを決めるのでしょう〉と質問しましたら、
貴女は〈勝った者が決めます〉と、お答えくださいましたね。」
マノン
「はい、お答えしました。」
マダム・ローズ
「詰まりそれは、勝った者が〈新しい世界秩序〉も決めると言うことです。
この、流行病が『第3次世界大戦』の序章だとして…
私たちが勝てば事実を後の世代へ伝えることが出来るでしょう。
しかし、私たちが敗れれば事実は隠蔽されて、この病気のことさえ歴史から消えかねません。」
マノン
「ぁ……」
マダム・ローズ
「ズバリ言いますね。
貴女のお父さまは、とてもお気の毒なことでした。」
ギヨティーヌ
「マダム、それをどなたからお聞きになったのです!
そういったお話しを持ち出されるのは… ズルいでは有りませんかッ! もうお話しはこれで終わりです!!
マノンさん行きましょう!」
❥アルコルちゃん★彡は、マノンの上半身を後ろより抱き連れて行こうとする。
廉貞が手をかざし「念力〜」の発動体制へ、ピクリと振動するテーブル。
貪狼・文曲は、少女の左右両脇へ素早く付いて、
ギヨティーヌが席を蹴り、彼女に立ち退くことをうながした。
だが、マダム・ローズはお茶のカップを持ち――――
マダム・ローズ
「良いのですか? わたくしは後で個別にマノンさんとお話ししますよ。マノンさんは聞いてくださるでしょう。
それでも良いのですね。
マノンさん、貴女には沢山のお仲間がいらっしゃるのですね、うらやましい限りです。
計らずも皆さんのことを少しだけ見せて頂きました。
私にはこんなに怒ってくれる仲間なんていません。居ても娘とその家族が… 少しは心配してくれるでしょうか…」
マノン
「お師匠さま、わたしはマダム・ローズのおっしゃることを、うかがいたいです。」
マダム・ローズ
「ありがとう、マノンさん。誤解の無いようにお話しして置きますが。
お父さまのことは、わたくしが独自に調べさせて頂いたモノで、ギヨティーヌさんと何ら関係はありません。
これだけは断らせて頂きます。」
マノン
「はい、解りました。」
ギヨティーヌ
「マノンさん……」
マダム・ローズ
「貴女のお父さまのことはお聞きいたしております。大変お気の毒なことで御座いました、お悔やみ申し上げます。」
マノン・マドレーヌは立ち上がって、右手を胸へ当て一礼し、
マノン
「お心遣い、ありがとう存じます。」
と、お礼を述べ、
ギヨティーヌたちも落ち着きを取り戻し、椅子へ座り直す。
少女の父親は2人いる。
1人は、彼女の育ての親である、アンドレ・マドレーヌ。そして、少女をケモイチ村へと連れて来た、アラン・フリュイだ。
2人共に、ウォーウイルス感染症にまつわる出来事で、その尊き命を失った。
マダム・ローズ
「姑息と、ののしられても仕方がありません…
それでも、マノンさんと共有したい真実が有るのです!」
ギヨティーヌ
(真摯な態度をとられれば、生真面目なマノンさんはそれに応えざるを得ない。
あゝ、マノンさんの性格も把握しておられますのね、マダム…
皆のいる前でこのお話しをなさっているのも、計画の内。わたくしたちは、マダム・ローズの術中にハマって仕舞ったのですね……)
マダム・ローズ
「我が国『ラ・キャン帝国』では800年前より、
政治を行う ❝皇帝❞ と、聖心を司る ❝マハートマー❞ のお2人の皇帝職で成り立ってまいりました。
その ❝皇帝❞ と ❝マハートマー❞ が今、対立させられる危険が迫っているのです。
これは150年前の近代化の際にも起こった危機でした。しかし当時の帝国の指導者たちは賢明に立ち回り、お2人の皇帝が争うことなく近代化へ至ることが叶ったのです。
ですが今回は… 教育制度の腐敗なども相まって、お2人の皇帝職による国家の運営を、知らない者たちが多いのです。
マノンさんはどうですか? お2人の皇帝のお話しを授業で教わったことは有りますか?」
マノン
「いえ、2つの役職をお2人で担っておられるとは、聞いたことが有りません…」
マダム・ローズ
「でしょうね、貴女が悪い訳では無いのです。歴史教科書に、この事実が掲載されなくなり、
ただ外圧で近代化が起こったかのように、改変されて仕舞いました。
実際には当時の ❝皇帝派❞ ❝マハートマー派❞ が共に手を携え協力し合い、なされたことだったのにです。」
マノン
「そうだったのですか…」
マダム・ローズ
「そうなのです。」
マダム・ローズは一息つかれ、
マダム・ローズ
「150年前は幸いにも回避できましたが。今回もこのお2人を争わせようとする動きを、回避しなければなりません。
そのためには ❝皇帝側❞、❝マハートマー側❞ の双方に、このことを理解している人物が必要なのです。」
ギヨティーヌ
「そ…」
(それをマノンさんに、ヤレとおっしゃるのですか?!
と、言って仕舞いそうになりましたわ〜 ココは口を挟んではいけない場面ですね…
しかし、こんなことを、わたくしにヤラせようとしていたなんて……)
マダム・ローズ
「貴女が歴史を変えませんか、マノンさん。」
マノン
「……」
ギヨティーヌ
(これ絶対、わたくし用に考えてた口説き文句ですわよ〈歴史を変えませんか〉なんて… マノンさんには〈歴史を守りませんか〉の方が効きそうですけれど。
ハッ!〈マノンさんの代わりに、わたくしが婚約者になります。〉と、
わたくしが言い出すのも狙ってのことなのでしょうか?!…… やりますわねマダム・ローズぅ…
―――― マノンさん困ってますわぁ〜〜)
マノン
「考えさせて頂いて、よろしいでしょうか。」
ギヨティーヌ
(上手いっ、上手い返答の仕方ですわマノンさん!)
マダム・ローズ
「もちろんです、ただし長くは待てません。
良いお返答をお待ちしておりますね、マノンさん。」
ギヨティーヌ
(… 存外たやすく、ココはお引きになりましたわねマダム・ローズ……
マノンさんを皇太子の婚約者に担ぐのは本気のようですが、
まさかこんなことを考えていらしたなんて――――)
マダム・ローズ
(次の手は… あの方に任せることといたしましょう。)
中庭のフェニックスは未だ、飛び立つ気配はない。




