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令嬢ギロチン  作者: 近太夫
2の巻 令嬢立志伝
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61/74

61 羽を手にした者

○【オ・ソレイユ領を鳥瞰ちょうかんす】



 神々が降り立つ

 ターラーラヤ山脈のみね

 音は遠く、雪は深く

 渓流けいりゅうは銀の糸となり

 大地の記憶を海へと運ぶ


 南国はオ・ソレイユの海の波

 人々の波、木々の波々を見渡し


 蒼穹そうきゅうの遙か彼方へ

 太陽を翼へ織り込み

 灯冴ひさゆる朝の不死鳥フェニックス



○【オ・ソレイユ中央病院、中庭フェニックスの木陰】



アルコル

「マノンちゃん、ギヨティーヌさま、

 お茶にしませんか? お疲れになったでしょう。」



 ここ南国オ・ソレイユでは、カナリーヤシの木をカナリーフェニックス、フェニックスと呼ぶ。

 その、フェニックスの木陰にしつらえた椅子とテーブルに、

 地味目なメガネとメイド服、栗色の髪のメイドのアルコルが、お茶と2色ドーナツの支度をととのえ立って待っていてくれる。



廉貞れんてい

「2人とも早く来るの〜」



 青銅製オートマトンに憑依ひょういする幽霊ファントームの廉貞が、以前は火焔牢獄の炎に焼かれ〈ドナテッロのダビデ像〉のような裸の美少年であった。

 しかし現在は膝上のスカートをはく〈ヴェロッキオのダビデ像〉の姿で、C:。彡 タコ魔物のタコハチを膝に乗せ、すでに席へ付いている。


 ギヨティーヌ・タタンの教育係で、

 野薔薇のように赤い髪を後ろでまとめた、マダム・ローズ・タルトも、着席して彼女たちを待っていて、

 マノンと、ギヨティーヌが肩甲骨まである萌葱色の髪を、ふわり空気をいだかせて座ると、

 待ちかねた様子で口火を切った。



マダム・ローズ

「マノンさん、『不死鳥フェニックスの眼』の力で、いま何処にフェニックスが居るのか判りますか?」


マノン

「今は… 上空を、この上を飛んでいます。」


マダム・ローズ

「どの辺りですか?」



 マダム・ローズは立ち上がり、持参の双眼鏡を雲一つ無い青空へ向ける。



廉貞れんてい

「オートマトン・アイ〜」



 オートマトンの廉貞も、タコハチを抱いたまま立ち上がり、

 その高性能のまなこ極小ごくちいさな音をさせながら焦点を合わせると、日輪を反射させ滑空かっくうするフェニックスを発見できた。



廉貞れんてい

「あそこに飛んでるの〜」


マダム・ローズ

何処どこですか?!」


廉貞

「あそこなの〜」



 廉貞が指差す先へ双眼鏡を合わせれば、マダム・ローズの瞳にも捕らえられるフェニックス。



マダム・ローズ

「見えました、わたくしにも見えました!

 初めて見ましたー、感動しますね。


 フェニックスのはねを手にした者は、フェニックスを追うと言われていますから…

 マノンさんは、その運命から逃れられないでしょう。」



 マノン・マドレーヌはその言葉に少し恐縮きょうしゅくし、また恥ずかしそうにも見える。



マノン

「はい、精進しょうじんします。」



 マノンの様子を察し、師匠のギヨティーヌは話題を変えて、



ギヨティーヌ

「ここには、ロワ王国からの人たちも検疫で留め置かれていますのね。」


マダム・ローズ

「ウォーウイルス感染症が、ロワ王国から引き起こされたのは、外交問題になるのを避けているだけで、

 ギヨティーヌさんのげんからも明らかですから。


 ラ・キャン帝国は、電磁波でんじは高周波こうしゅうはによる ❝転移阻害てんいそがい❞ をトロールさんたちの協力を得て、ターラーラヤ山脈で強化するそうですよ。」


マノン

「そう何ですか✨ (U^ω^) ✨」



 マノンは現実的なウォーウイルス対策を聞いて、嬉しそうである。



ギヨティーヌ

(マダム・ローズ・タルトは、先の大戦で夫が戦死なさり、恩給おんきゅうはあるものの職を求めて、わたくしギヨティーヌ幼少の頃より、教育係としてやって来て下さった才女ですわ。


 帝国遺族会に属するマダム・ローズには、各方面より様々な情報が入りますから、❝タタン・ド・オ・ソレイユ家❞ の、貴重な情報源となっています――――)


マダム・ローズ

「実は、他でも〈ウォーウイルスの症状では?〉と思われる症例が旅行者から出ています。」


マノン

「… お師匠さま、サラマンダー・パウダーが有ります!」



 『サラマンダー・パウダー』とは、

 火の精霊獣 ❝サラマンダー❞ より精製された、朱色に輝くウォーウイルス感染症の特効薬とっこうやくだ。



ギヨティーヌ

「サラマンダー・パウダーの特許申請とっきょしんせいは、わたくし共の方で出して御座いますわ。

 サラマンダー成分の特許は、他に何処からも出ておりませんでした。」

(石鹸・洗剤の開発も成分は特許ですから。手なれたモノですわね!)


マダム・ローズ

「ご商売にするお積もりが、あるんですね。」


ギヨティーヌ

「もちろんです、マダム。

 利益の出る事業にいたしませんと、サラマンダー・パウダーを製造・販売する従業員さんたちの、お給料を稼がなければなりませんもの。

 ちゃんと経済が動かせるお金儲けにすれば、お金の臭いを嗅ぎ付けた方々が動いて下さいますし、邪魔しようとする者も出て来ません。


 口先でどのような美辞麗句びじれいくを並べようと、慈善事業でやる方など実際には居られませんから!」


マダム・ローズ

「流石に抜かりはありませんね――――」


ギヨティーヌ

「ただ… ワザとウォーウイルスを感染させているようにしか、見えませんでしたの……

 そこは気になるところです。」



 ギヨティーヌは弟子のマノンを見やる。

 ❝ケモイチ村❞ や ❝トロールの丘❞ で起こった惨事は、誠に不幸な出来事であった。

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