61 羽を手にした者
○【オ・ソレイユ領を鳥瞰す】
神々が降り立つ
ターラーラヤ山脈の峰々
音は遠く、雪は深く
渓流は銀の糸となり
大地の記憶を海へと運ぶ
南国はオ・ソレイユの海の波
人々の波、木々の波々を見渡し
蒼穹の遙か彼方へ
太陽を翼へ織り込み
灯冴ゆる朝の不死鳥
○【オ・ソレイユ中央病院、中庭フェニックスの木陰】
アルコル
「マノンちゃん、ギヨティーヌさま、
お茶にしませんか? お疲れになったでしょう。」
ここ南国オ・ソレイユでは、カナリーヤシの木をカナリーフェニックス、フェニックスと呼ぶ。
その、フェニックスの木陰に設えた椅子とテーブルに、
地味目なメガネとメイド服、栗色の髪のメイドのアルコルが、お茶と2色ドーナツの支度を整え立って待っていてくれる。
廉貞
「2人とも早く来るの〜」
青銅製オートマトンに憑依する幽霊ファントームの廉貞が、以前は火焔牢獄の炎に焼かれ〈ドナテッロのダビデ像〉のような裸の美少年であった。
しかし現在は膝上のスカートをはく〈ヴェロッキオのダビデ像〉の姿で、C:。彡 タコ魔物のタコハチを膝に乗せ、すでに席へ付いている。
ギヨティーヌ・タタンの教育係で、
野薔薇のように赤い髪を後ろでまとめた、マダム・ローズ・タルトも、着席して彼女たちを待っていて、
マノンと、ギヨティーヌが肩甲骨まである萌葱色の髪を、ふわり空気を抱かせて座ると、
待ちかねた様子で口火を切った。
マダム・ローズ
「マノンさん、『不死鳥の眼』の力で、いま何処にフェニックスが居るのか判りますか?」
マノン
「今は… 上空を、この上を飛んでいます。」
マダム・ローズ
「どの辺りですか?」
マダム・ローズは立ち上がり、持参の双眼鏡を雲一つ無い青空へ向ける。
廉貞
「オートマトン・アイ〜」
オートマトンの廉貞も、タコハチを抱いたまま立ち上がり、
その高性能の眼が極小さな音をさせながら焦点を合わせると、日輪を反射させ滑空するフェニックスを発見できた。
廉貞
「あそこに飛んでるの〜」
マダム・ローズ
「何処ですか?!」
廉貞
「あそこなの〜」
廉貞が指差す先へ双眼鏡を合わせれば、マダム・ローズの瞳にも捕らえられるフェニックス。
マダム・ローズ
「見えました、わたくしにも見えました!
初めて見ましたー、感動しますね。
フェニックスの羽を手にした者は、フェニックスを追うと言われていますから…
マノンさんは、その運命から逃れられないでしょう。」
マノン・マドレーヌはその言葉に少し恐縮し、また恥ずかしそうにも見える。
マノン
「はい、精進します。」
マノンの様子を察し、師匠のギヨティーヌは話題を変えて、
ギヨティーヌ
「ここには、ロワ王国からの人たちも検疫で留め置かれていますのね。」
マダム・ローズ
「ウォーウイルス感染症が、ロワ王国から引き起こされたのは、外交問題になるのを避けているだけで、
ギヨティーヌさんの言からも明らかですから。
ラ・キャン帝国は、電磁波と高周波による ❝転移阻害❞ をトロールさんたちの協力を得て、ターラーラヤ山脈で強化するそうですよ。」
マノン
「そう何ですか✨ (U^ω^) ✨」
マノンは現実的なウォーウイルス対策を聞いて、嬉しそうである。
ギヨティーヌ
(マダム・ローズ・タルトは、先の大戦で夫が戦死なさり、恩給はあるものの職を求めて、わたくしギヨティーヌ幼少の頃より、教育係としてやって来て下さった才女ですわ。
帝国遺族会に属するマダム・ローズには、各方面より様々な情報が入りますから、❝タタン・ド・オ・ソレイユ家❞ の、貴重な情報源となっています――――)
マダム・ローズ
「実は、他でも〈ウォーウイルスの症状では?〉と思われる症例が旅行者から出ています。」
マノン
「… お師匠さま、サラマンダー・パウダーが有ります!」
『サラマンダー・パウダー』とは、
火の精霊獣 ❝サラマンダー❞ より精製された、朱色に輝くウォーウイルス感染症の特効薬だ。
ギヨティーヌ
「サラマンダー・パウダーの特許申請は、わたくし共の方で出して御座いますわ。
サラマンダー成分の特許は、他に何処からも出ておりませんでした。」
(石鹸・洗剤の開発も成分は特許ですから。手なれたモノですわね!)
マダム・ローズ
「ご商売にするお積もりが、あるんですね。」
ギヨティーヌ
「もちろんです、マダム。
利益の出る事業にいたしませんと、サラマンダー・パウダーを製造・販売する従業員さんたちの、お給料を稼がなければなりませんもの。
ちゃんと経済が動かせるお金儲けにすれば、お金の臭いを嗅ぎ付けた方々が動いて下さいますし、邪魔しようとする者も出て来ません。
口先でどのような美辞麗句を並べようと、慈善事業でやる方など実際には居られませんから!」
マダム・ローズ
「流石に抜かりはありませんね――――」
ギヨティーヌ
「ただ… ワザとウォーウイルスを感染させているようにしか、見えませんでしたの……
そこは気になる処です。」
ギヨティーヌは弟子のマノンを見やる。
❝ケモイチ村❞ や ❝トロールの丘❞ で起こった惨事は、誠に不幸な出来事であった。




