オバサンの家が集会場になる 4
そして今日もセリーナがよく犬と戯れている庭が見えるテラスには、ローズマリー様とコーニリアス様が座っている。
三日間、毎日よ。もうあそこはふたりの定位置になっているわ。
婚約解消の話が出て、ワディンガム公爵家には顔を出しにくかったってコーニリアス様が話していたから、我が家には好きなだけ遊びに来てくださいって両親が言ったのよ。
それが嬉しかったんでしょうね。
だったら今まで会えなかった分も会いたい! って毎日来ちゃっているわよ。
あまり気持ちを顔に出さない健気なタイプかと思っていたけど、そんなことはなかった。
大好きオーラ全開で、ずーっとローズマリー様を見つめている。
勉強していたって話していたって、ずーっとよ。
今日なんてついさっきまで、ノースモア侯爵夫妻までいらしていたのよ。
ノースモア侯爵夫妻はだいたいの事情はご存知だし、コーニリアス様がギルバートやノアとも親しくしていることを知っていたようで、
「あの子が友達のことを、あんなに楽しそうに話すのは初めてだったんです。是非今後もよろしくお願いします」
って、侯爵家の方がご挨拶されてしまって、うちの両親もびっくりよ。
うちはほら、ギルモア侯爵家の一員扱いなので、これでノースモアとギルモアが親しくなるのは両家にとってもプラスになるから大歓迎なんだけどね?
子爵家なのに、また高位貴族ばかりと仲良くなってしまっているわ。
コーニリアス様だけじゃないの。
ノアもユーインも、三日間連続で遊びに来ている。
ユーインなんて、昨日から泊まり込みよ。
「父も母も新しい生活の準備で浮かれてしまって、すっかり新婚気分なんです。母があんなに楽しそうにしているのを見るのはひさしぶりなんで俺も嬉しいんですけど、居心地が悪いんですよ。俺は邪魔をしたくないので、しばらくここにいさせてください」
ってユーインに言われて、うちの両親が断るわけがないわよね。
あらあらまあまあって笑顔で話を聞いて、すぐにギルバートの部屋の近くに泊まれるように手配していたわ。
でもユーインは複雑な心境のようよ。
「両親が幸せそうなんで俺も嬉しいんだ。だけど子供の前でべたべたすんなっての」
廊下で呼び止められたから何かと思ったら、盛大に愚痴られたわ。
「もしかしたら弟か妹が出来るかもしれない」
「年齢的にあり得ない話じゃないわね」
「いいんだよ。出来たら可愛がるよ。でもさ、自分の親がそういうことをしているって考えると、複雑な気分にならないか?」
「そういうことって?」
「…………」
答えられないくせに、そういう話を振るんじゃないわよ。
十一歳の子供同士でする会話じゃないでしょう。
ああ、ユーインは十二歳になったんだったわね。
何か月かでも私より年上なんだから、年下の女の子にそういう話を振っては駄目!
そのあたりはスルーするのが子供側の親への配慮よ。
仲が悪いよりずっといいじゃない。
「たしかに、アシュベリーの屋敷からホテルに逃げ込んだ時から考えると、嘘みたいに平和になった。クロウリーの人達とレオンのおかげだ」
「王弟殿下か大公殿下と呼ぶようにしなくては駄目よ。礼儀作法を学べるようにお母様が手配しているはずよ」
「いや、俺は社交界には出ないから」
「騎士になるにも必要なのよ」
「学園で習うよ」
三年で卒業するって言っていたでしょ。
貴族の子息は子供の頃から学んでいるから、試験だけ受けて免除になるの。
覚えがどんなに早くても、試験に一回でも落ちればその単位の授業は、何か月分も受けなくてはいけなくなるのよ。
「ギルバートと一緒に受ければいいじゃない」
「じゃあしばらく、ここに住むことになるな」
「通いなさいよ」
仲間と遊ぶのが楽しくなっているんでしょ。
ユーインが滞在しているからって、人工コアの核になりそうな鉱物について聞くという理由をつけてノアも通うようになり、
「時間が空いた時にひとりだと暇なのよ。ここに来れば誰かいるでしょ」
と言ってアレクシアも顔を出し、昨日はレイフ様までついてきた。
いつのまにか、我が家が集会場になっているんですけど。
「まあ、今日もお友達が遊びに来ているのね。屋敷が賑やかになっていいわ」
「シェリルにもギルバートにも友達が出来てよかった」
「みなさん、セリーナのことも可愛がってくれるからありがたいわ」
両親はのんびりしたことを言っているけど、大丈夫かなあ?
「ほら、取ってこーい」
ノアが投げたのはフリスビーよ。
犬に好かれれば、セリーナの好感度が上がるだろうからって、魔道省と一緒にフリスビー型の魔道具を作っちゃったのよ。
たしかに魔道具制作は魔道省の管轄だし、人工コアを一緒に研究しているグリーンハウ伯爵は元魔道具制作室の室長だったけど、よくフリスビーなんて作ったわね。
魔道具だからね。ただのフリスビーじゃないのよ?
変なところに飛んでしまったり犬が取り損ねたりした時に、対になっている装置を動かせば飛んで戻ってくるの。
「運動不足のおじさんたちが、昼休みに王宮の庭で遊んでいるよ」
運動不足なら、走って取りに行きなさいよ。
手元に戻ってきたら運動にはならないでしょう。
それにしても、王宮は平和だな。
ひさしぶりに顔を出したら、王弟殿下の執務室にもフリスビーが置いてあるかもしれない。
「へえ、魔道省はフリスビーを商品化するのか。じゃあ、クロウリー商会はサッカーボールを商品化しようぜ」
ユーインが得意げに取り出したのは、サッカーボールとほぼ同じくらいの大きさの魔獣の皮で作ったボールだ。
まだ完成品ではなくて、試作品がいくつも庭に転がっている。
元気のあり余っている男の子たちは、このボールを蹴って走り回りながら、どれが一番遊びやすいかテストをしているんだそうだ。
「サッカーってなんだよ」
ユーイン、ギルバートもセリーナも転生者じゃないんだからね!
発言には気を付けてよ。
「俺がつけた名前だよ」
「だからなんでサッカー?」
「なんとなく……」
「なんだ。ボールを蹴ることをアードモアではサッカーって言うのかと思った」
「違うし、あくまで仮の名前だからな。カルキュールの新商品にするんだろ? ギルバートがつけろよ」
「じゃあ私が考えるわ」
そう言いながら手をあげたら、
「僕が考えるから大丈夫」
「一緒に考えよう」
ふたりして無視するってどういうことよ。
ふん。ユーインが前世の名前を使ったフォローをしてあげたって言うのに失礼じゃない。
私がすっかり仕事から離れてしまったカルキュールは、いろんな商会がそろばんや鉛筆を作るようになっても、信頼できる商品を作るブランドとして人気がある。
フェネリー伯爵家で開発した魔道具も、いくつか販売しているのよ。
そして今度はボールの販売か。
この世界にもボールはあるんだけど、綺麗に装飾された球で蹴鞠のように遊ぶか、クリケットのようなバットでボールを打つゲームを貴族は好んでいるの。
広い場所を駆けまわってボールを蹴る遊びは、体力がいるから敬遠されるのかな。
今日はイールも来ているのでコーニリアス様まで加わって、庭でボールを追いかけて男の子たちは走り回っている。
犬まで……あの犬の名前は「ふわわ」だったわね。
ふわわまで走り回ってボールを追いかけているから、飛び掛かられてひっくりかえったりして、大笑いしているわ。
青春しているなあ。
テラスでそんな男の子の様子を見て笑っているローズマリー様もセリーナも、本当に楽しそう。
でも私はときおり、懐かしい夏休みの思い出のシーンに迷い込んだような、楽しいけどノスタルジックな気分になってしまう。
この子たちが、ずっとこうして笑っていられるといいなって、そんなふうに思ってしまうのは親の目線になっているからよね。
新しい人生なのに過去を引きずりすぎていると言われても、すぐには気持ちを切り替えることなんて出来なくて、でもパーシヴァルさんの意見も確かにそうだと納得するしかなくて……じゃあ、どうすればいいんだろう。
たぶん普段の私なら、ここまでは考え込んだりはしないんだろう。
王宮に行けば仕事の話を出来る人がたくさんいるし、殿下は私と同じような目線で周りを見ているから話しがしやすくて、これもまた私らしさだって思えたのかもしれない。
まだ十一歳だもの。
この世界は十五歳で成人だから、周りの子も大人になるのが早いでしょ。
学園を卒業して本格的に働くようになれば、いずれは周りの子とも同じ目線で話せるようになるわよ……って思えたんだろう。
でも、受験勉強を最優先しているせいで、ひとりで部屋にいることが多いでしょ?
今はローズマリー様と一緒に勉強しているけど、勉強中に雑談はしていられない。
仕事も出来ないし、商会にも何か月も行っていなくて、でも周りはどんどん変化していて、自分だけが取り残されているような気分だわ。
今年だけだってわかってはいるのよ。
私は勉強がしたかったんだからここでしっかり学ばなくちゃ、また後悔するわ。
でも、屈託なく笑うノアやユーインを見ていると、私には何か足りないんじゃないかって思ってしまう。
もしかしたらヘンリエッタやホリーも、こんな気持ちでもやもやしていたのかもしれない。
そしてそれぞれがやり方を間違えて……いいえ、周りに迷惑をかけるのは違うわ。
そこは同情の余地なしよ。




