オバサンは子供に笑顔でいてもらいたい 5
「でもきみは前世で身に着けたスキルばかりを活用しているだろう?」
「あ……」
「きみだけじゃない。レオンやレイフもそういうところはあるけれど、彼らも政治や統治なんて前世では無関係だったからね。新しく身につけたスキルもあるんだろう。でもきみの場合、記憶が戻るまでは無口で人付き合いが下手な子だったんだってね。計算が得意で仕事の手伝いをするのが好きだったのは、無意識に前世で覚えたスキルを活用したかったんだろう」
でも子供らしく友達と遊ぶことも喧嘩をすることもなく、屋敷と商会の往復ばかりでは、新しい物に接する機会も少なかった。
そうして記憶が戻ってオバサンがしゃしゃり出てきて、前世のスキルをフル活用してしまった。
「年を取ると新しい物を覚えるのがめんどうになったり、新しいことをするのがこわかったりするもんなんだろう? きみはまだ十一歳の子供なのに頭の中が年寄になってしまっているよ」
「年寄りはひどいわ」
「だってそうだろう? 魔法はこわい。恋愛は前世で懲りている。子供と仲良くするのは無理。十一歳のきみは本当にそれでいいのかい? 新しいことにチャレンジしないで、前世でつらい思いをしたことは避けて、今回の人生で本当にオバサンになった時に、今度は子供の時にしか経験できないことを、ちゃんと経験すればよかったって後悔するんじゃないかい?」
う……言い返せない。
失敗のないように、自分の得意分野にだけこだわって、他は理由をつけて見ない振りをしてきている自覚はあるわ。
国家公務員になりたいのも安定した仕事に就きたいからだもん。
「でもまだ十一歳よ。恋愛なんてもっと後でいいし、魔法だって必要な物だけ使えればいいのよ」
「きみの人生だから、それでいいのなら俺はかまわないけどね。この守護力アップはバレないようにしたほうがいいよ」
「そうね」
「きみがなかなか新しいスキルを覚えないから、たぶん神が幸運にかなりの数のポイントを振ったんだろうな。子供のうちにある程度スキルに振らないと、そのスキルを伸ばせなくなるんだよ。子供の時が一番成長するからね」
なるほど。確かにそれはそうね。
今と三十になってからでは、スキルの伸び方も変わるわね。
「それできみが興味を持った物にどんっとポイントを足しているのかもしれない。普段から自分の心に念じたり、よし、こうするぞって決意を口にしてはいないかい?」
「してる。何度もしているわ」
「それだ」
そんなんでスキルアップになるなんて、誰も思わないわよ!
「あ」
ふと、出しっぱなしになっていたインベントリの中を何気なく覗いて、そういえばあれがあったんだと気付いて、中に入れてあった袋を取り出した。
「これ、急に呼んだのに来てくれたお礼よ。たぶんちゃんと使えると思うから、持って帰って」
「へえ、お土産をもらえるとは思わなかった。ありがとう。これは…………」
あら? 袋を開いて中身を覗き込んだまま、パーシヴァルさんは眉をよせて黙り込んじゃった。
うーーん。やっぱりまずかったのかな。
でもほら、新しいことにチャレンジしてみたほうがいいんでしょ?
チャレンジした結果がそれなのよ。
「これは、何かな?」
「笑顔が引きつっていますよ?」
「誰かに見せた?」
「誰にも見せられないから、パーシヴァルさんにあげちゃおうかなあって」
「何を言ってるんだよ。真面目にこれは何!? 人工コアはまだ出来ていないんだよね!」
「声が大きいですよ」
「ああ」
そうだろうとは思ったけど、しっかりパーシヴァルさんも魔法が使えるのね。
外に音が漏れない結界を張って、袋の口を大きく開いてテーブルに乗せた。
「どれも安定した人工コアじゃないか。まだ核になる物質が決められなくて研究しているんじゃなかったのか?」
「そうなの。それでノアが、いろんな組み合わせを作ったから、試しに暇な時に作ってみなよって核になる物質を何種類かくれたの。だから作ってみたのよ。チャレンジしたの」
「そしたら全部成功したと……」
「でも私以外の人はまだ成功していないから、ここで出すのはまずいでしょ?」
「面白過ぎて笑えない」
どういう状況よ。
もしかすると他の人と私とでは、コアの作り方が根本的に違うのかもしれない。
でも、その作り方まで私が発見して安定したコアを最初に作った偉人にはなりたくないのよ。
ノアとはコアの作り方について何度も話をしているから、きっと私の作り方もある程度は察して自分でやってみてくれているはずよ。
あの子ならきっと作れるから、それまでは隠しておきたいの。
「もっとこわいのは、私のやり方でも他の人には出来なかった場合よ」
「俺に渡そうとするな」
「でも殿下にもノアにも渡せないじゃない」
「しまえ。そこにしまっておけ」
「ちゃんと使えるんでしょ? もったいないでしょ」
「受け取らないぞ」
えーー、けっこう純度の高いコアが出来たのに。
一個一個は小さいけど、いろんな物に使えると思うのよ?
「なんでそう変な才能ばかりあるんだ?」
「変なってなによ。他には何もしていないわよ」
「妙に人に好かれたり、きみと会って人生が大きく動き出す人がたくさんいるじゃないか。ユーインだって大公領に住むことになったんだろう?」
「それまで私のせいにされても困るわ」
じゃあどうしようかな、これ。
あ、壊してもう一度核に戻せば、またコアを作って暇つぶしが出来るんじゃない?
「これってどうやって壊せばいいのかしら」
「壊すな! そんな純度の高いコアを買ったら、いくらになると思っているんだ!」
「えー、チャレンジしろって言ったくせに理不尽」
それにさっきから文句ばっかり言ってさ、パーシヴァルさんのイメージがだいぶ変わったわよ。
今までは格好つけていたんじゃないの?
そのせいで、いつの間にかタメ口になっちゃっていたわ。
「そんなんだから、神々がおもしろがるんだな」
「あー、ヒーローとヒロインは、神様にも先の人生が読めないって誰かが言っていた気がする」
「神にとってはほんの短い人生を生きる人間の未来なんて、あまり興味がないからいちいち未来を見たりはしないだけかもしれないが、それでもきみは面白いみたいだよ」
「あなたはどうしてそんなことを知っているの?」
「いつもやり取りする神が教えてくれるからさ。暇だと話しかけてくるんだ。とはいっても、用事がない時は一か月に一回くらいだぞ」
そうなんだ。
必要な時以外は関与しないのかな。
「じゃあ俺もそろそろ帰ることにするか」
「本当に持って行かないの?」
「やばい物を俺に押し付けようとするな。ああ、これを渡しておこう」
パーシヴァルさんが差し出したのは、小さな黒い箱だ。
開けたらイヤホンのような形のものがひとつと、名刺入れのような箱がはいっていた。
「これは何?」
「今日みたいなときは、俺と直接やり取り出来たほうがいいだろう」
「直接? 他の国にいるのに話せる魔道具なんてあるの!?」
「そこにある」
おかしいでしょう!
そんな魔道具があったらフェネリー大伯父様が知らないはずがないわよ。
もっと魔道具作りが進んでいる国があるってこと!?
「ああそれは、神にもらった」
パタンと箱の蓋を閉じて袋にしまった。
こんな物を持っていることがばれたら大騒ぎになるじゃない。
「変なものを渡さないでよ。いらないわ」
「あったほうが便利じゃないか?」
「遠くの国にいる人と話が出来る魔道具なんて、存在しては駄目よ」
「クリスタルには渡してあるんだが」
「親子だからまあセーフ」
殿下はそれで今日もパーシヴァルさんに連絡をとれたのね。
「神様はあなたを依怙贔屓しすぎじゃない?」
「きみに言われたくはないな」
「私は神様と会話なんてしません」
「俺はその分、いろいろやらされているんだよ」
しばらく渋っていたけど、袋を押し付けたらどうにか受け取ってくれたわ。
オーパーツなんて持っていたくないのよ。
「まあいいか。直接連絡するなんて言ったらレオンがうるさいかもしれない。じゃあな」
あっという間にパーシヴァルさんは転移でいなくなってしまった。
こちらから別れの挨拶をする暇もなかったわ。
うーん、このコアは自分で持っているしかないのかあ。
ノアたちがコアを完成させた後なら出しても平気かなあ。




