オバサンは本気で仕事と勉強が好き 4
新連載を始めました。
「生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄 」
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こちらもよろしくお願いします。
教皇と彼の付き人のジョイに先導されて、まっすぐな廊下を進んでいく。
この建物は長方形なのかしら。
右側の窓からは自然豊かな景色が見えて、左側には等間隔に扉が並んでいる様子がマンションの外廊下みたい。
何より驚いたのが、まったく誰とも遭遇しないどころか人影さえ見当たらないことよ。
窓の外から周囲を見回しても誰もいないの。
護衛すら近寄らないように指示を出しているの?
「おや」
教皇が何かに気付いたようなので、彼とジョイの間から顔を覗かせて廊下の先に目を向けた。
おお、すごく背が高い人が壁に寄りかかって立っている。
本当に人間なのかと違和感を感じるくらいにスタイルがいい。十頭身くらいなんじゃない?
転生者ってゲームの影響なのか体型も二次元っぽくてスタイルがいいのよ。
あの人は背が高いから、それが強調されているのね。
肩の下あたりまで伸ばした髪はさらさらで、後ろで結わいているのにぱらぱら落ちてくるのか邪魔そうにかきあげるしぐさが色っぽい。
きっとお姉様たちが放っておかないんじゃない?
たぶんあの色がアッシュグレーってやつよね?
白髪が混じるような年齢じゃないものね。
「あの人がクロフよ」
そっとアレクシアが教えてくれた。
「え? すごいイケメンじゃない?」
「確か私より二十三歳年上……若白髪かも」
「シェリル、何を言っているの。ああいう髪色よ」
アレクシアに呆れた顔をされたけど、そこは重要よ。
「あ、そうなのね。じゃあ気を使わなくて大丈夫ね。よかった」
って、前に視線を向けたら教皇とジョイが私に注目していた。
「クロフに会ってまず若白髪を気にする女の子は初めてだよ」
「若い子でも、彼の見た目にまずは驚くのに」
若白髪かどうかも見た目でしょう?
「まあきみたちの場合……」
ジョイはちらっと殿下に視線を向けた。
「美形男子は見慣れているんだろうな」
「あなたの横にも、かなりの人がいるみたいだけど?」
ローズマリー様がそう答えたので、つい教皇に注目してしまったわ。
みんな同じよ。
ゲームの主要キャラが集まっているんだから、整った顔立ちの人ばかりよ。
ジョイだって殺し屋だから地味な顔ではあるけど、じゅうぶんに整った顔をしているんだから。
「何か揉めているのかい?」
うは。この声、聞いたことがある。
私が憶えているということは、たぶんこのキャラの声優さんは、ニュースかバラエティ番組でナレーションもしている人だわ。
いやあ、近くで見ると本当にイケメンだわ。
この中では唯一の三十代だから、大人の男性って感じが魅力的よ。
ただ、福笑いで完璧な場所に部品を置いてしまったら、整いすぎて無個性になってしまったような感じなの。
どこかで見たことがあるようなイケメンだわ。
他の子たちだって同じゲームのキャラだから、同じような印象を持ってもおかしくないのに、なんでこの人だけこんな感想になるのかしら。
……ああ、性格や感情が顔にまったく出ていないんだ。
さすが凄腕の情報屋。
「いや、揉めているんじゃなくてね、シェリルが面白いことを言うもんだからさ。部屋の中で待っていればよかったのに」
「部屋の中にアードモアの連中しかいないとわかっているのに? 冗談だろ」
この人までそんなふうに言うんだ。
うう……帰りたくなってきたわ。
「紹介しよう。彼はパーシヴァル・クロフ。彼が僕たちよりずっと早くこの世界に転生して、情報を共有できるように地盤を固めてくれたおかげで、こうして僕たちは連絡を取り合えているんだ。彼は僕以上に、神から指示をもらって動いているんだよ」
「そんな大層なもんじゃないさ。ほとんど神がお膳立てしてくれていたんだよ」
教皇とクロフは親しそうね。
神の声を聞く者同士、頻繁にやり取りをしているのかもしれない。
「初めて会うのは、そちらのふたりだね」
「ローズマリー・ワディンガムですわ。はじめまして」
「シェリル・アッシュフィールドです。お米を送ってくださってありがとうございます」
「あー、そんなこともあったな。面白いことをやっているから送ってやれって、神の声が聞こえたんだ」
神様、ありがとうございます。
おかげで炊き込みご飯が男子に大人気ですよ。
「今日は米が食べられるのかな?」
「すみません。お米は全部食べてしまいました。でも暖かくなったら田植えをして、試験的に米を育てることになっているので、秋には食べていただけると思います」
「また送ろうか?」
そんなに簡単に手に入る物なの?
「いいなあ。クロフ、僕にもくれよ」
「ああ、教皇は料理が出来るんだったな」
は? 学生だったのに教皇になって農業をやって、料理までできるの?
まあ、この方の両親はどのような方なのかしら。
どんな風に子育てをしたのか聞いてみたかったわ。
「マガリッジ風照り焼きチキンバーガーを持ってきたので、あとで食べてください」
「おお、それは嬉しい」
「参加していない人の分もあるぞ」
殿下はクロフとは軽く会釈しただけで特に会話をしていなかったので、ここでようやく声を聞いたわ。
「俺の分もあるのか?」
「あるさ」
「それは楽しみだ」
親しい男性同士って、こんな感じなのかしら。
レイフ様も笑顔で軽く頭を下げただけだし。
「この話はあとでゆっくりしよう。あまり待たせて、彼女の機嫌が悪くなると面倒だ」
教皇が目の前の扉に目を向けたので、自然と全員の視線が扉に集まった。
「はあ」
殿下がすでに疲れた顔でため息をついてしまっている。
私とローズマリー様がヘンリエッタ王女とやり合う情景が想像できるんでしょうね。
「開けるけどいいか?」
心配して教皇が殿下に聞いているわ。
「この子たちなら大丈夫じゃないか?」
初対面のクロフにそんなふうに言われるほど、私とローズマリー様って戦闘力が高そうに見えるの?
「それが心配なんじゃないか」
「俺や教皇もいるんだから、悪いようにはしないさ」
「おまたせーー!」
まだ会話の途中だったのに、教皇は明るい大きな声で言いながら一気に大きく扉をあけた。
部屋の中は先程の暖炉のあった部屋とほぼ同じ造りで、倍以上広かった。
奥の壁に並んでいる大きな窓から、ふんだんに陽の光が差し込んでいるので部屋の中は明るくて、そして暖かそう。
廊下も決して寒くはないのだけど、徐々に足元から冷えていくような気がしていたから、室内が温かいのは嬉しいわ。
中にいる四人の男女は、もう当たり前に綺麗な顔をした人達ばかり。
ただ、四人の距離感が彼らの関係をよく表していた。
たぶんあの煌びやかなピンクに黒いリボンのついたドレスを着ているのがヘンリエッタ王女でしょうね。
扉からまっすぐ進んでいった正面のソファーの中央に腰を下ろしている。
部屋には大きなテーブルはなくて、中央が開けられていてその周りにいろんな椅子が置かれているの。
たいていはソファーなのだけど三人掛けやひとり掛け、足を伸ばせる形の椅子まであるわ。
ヘンリエッタ王女は三人掛けのソファーに座っていて、周りはがらんと空間が出来ていた。
手前側は私たちが座るだろうと開けておいてくれたのかしら。
中央のスペースより奥の一番端に、いかにも貴族ですという服装の金髪の男性が遠慮がちに座っていた。
おそらく彼がウォルト・マドック公爵子息ね。
真面目そうで、頭がよさそうで、そして几帳面そう。
そして窓際の椅子に座っている男女がユーインとホーリーね。
平民だからと後ろのほうに座ったのかしら。
ふたりは他の人達よりは距離が近いけど、それでも間に誰か座れそうなくらいに距離を開けていた。
「これで全員揃った……」
「レオン!」
教皇の言葉を遮って、ヘンリエッタ王女が嬉しそうに目を輝かせて立ち上がり、こちらに駆け寄ろうと一歩踏み出した体勢で動きを止めた。
見なくてもわかる。
殿下が氷点下のまなざしをしているんでしょう。
「ヘンリエッタ、まずは紹介をしたいんだ。座ってくれないか?」
「紹介?」
ぎろっとこちらに目を向けて、まずはアレクシアを見て顔をしかめ、ローズマリー様、私と順番に睨みつけていくうちに、ヘンリエッタ王女の顔はどんどん不機嫌になっていく。
露骨に足元から頭の先まで値踏みするように見て、おそらく私たちは彼女の敵認定されたんでしょうね。
座るどころか、ずかずかとこちらに近付いてきた。
美人さんなのよ。
光を受けた髪がきらきら輝いて、大きなエメラルドグリーンの瞳が印象的な女の子だ。
スタイルだってよくて、ゴスロリ風ドレスから伸びるまっすぐな長い足に、リボンのついた赤い靴を履いている。
「あなたがヒロインでしょ」
彼女は、まっすぐに私の目の前まで歩いて来て足を止めた。
「はじめまして。シェリル・アッシュフィールドよ。あなたはどなた?」
礼儀のなっていない子供相手に敬語は必要ないわよね。
「はっ。わかっているくせになにを言っているの? あなたのせいで大迷惑よ」
「私のせい?」
「そうじゃない。転生者同士なんだから、私がカードを送ったら内密な連絡だってわかるでしょ? それを大袈裟に騒ぎ立てて、国同士の問題にまでするなんて」
へえ。そんなことを言うんだ。
「あなた、何を言ってるの?」
「大丈夫ですよ」
前に出ようとしたローズマリー様をそっと止めて、私のほうからも一歩踏み出した。
機嫌の悪そうな顔なんてしないわよ?
だってヘンリエッタはそういう反応を予想しているでしょ?
それか、男性陣に泣きつくと思っているかもしれない。
経験豊かなオバサンは、ご機嫌斜めで八つ当たりをしている子供の相手は慣れているの。
ゆったりとした笑みを浮かべて、声も穏やかに話しかける。
「あなたは、私が平民だと思っているの?」
「え?」
怪訝な顔をしたヘンリエッタは、なぜか私の背後に視線を向けた。
そしてもう一度私を見た時には、いくぶん引き気味になっている。
誰も私を庇おうとしないから予想と違って驚いているのかしら。
「私の家はお金だけはあるの。だから子爵家でも普通の伯爵家より大きな屋敷に住んでいるのよ。そんな私が手紙が届いた時に、自分で受け取りに行くと思う? しかもあの日は私の誕生日会があって大勢のお客様がいらしていたのに? あなた、私の誕生日に合わせてカードを送ってきたんでしょう? だったらそのくらいのことは想像できるわよね?」
ちょっと、そこで驚いた顔をしないでよ。
まさか考えていなかったの?
「そこに本名を書いて、シーリングワックスに王家の紋章の入ったスタンプを押しておいて、内密にするべきだった? 私のせい?」
「……それは……そうだけど」
「私の手元に届く前から大騒ぎになっていたわよ」
そこで反論しないということは、本当にどうなるかわからなかったということ?
この子、こういうことを言ってはいけないってわかっているけど……かなりお馬鹿さんじゃない?
あれ? 王位継承問題が出るほど聡明な王女じゃなかった?
天才少女って言われているのよね?
中身はキャリアウーマンのアラサーなんでしょ?
どうなってるの?




