第478話 森人〇リ(見た目)と……
「こんな話があったんなら、教えてくれよ……」
「ぷぷっ……申し訳ございません。ベアト様からは『絶対ルッツに告げるな、教えればあ奴は、逃げだすかもしれないからな』と厳命されておりまして」
情けない顔で抗議する俺に、笑いをこらえるアデル。どうやらこの件は、最初から仕組まれていたようだ。
俺たちは、大樹のでっかい枝に守られた広場に宿営地を借り、月明かりの下で族長の「相談」へどう対応するか、話し合っているところだ。
「グレーテルはベアトの意向、知ってたの?」
「もちろんよ。私はルッツの女性関係を、管理する役目だからね」
くっ、知らぬは俺ばかりなり、というわけだったのか。ここんとこ、週末にバーデンを訪れたベアトが、グレーテルとこそこそ密談をしていた様子には気付いていたけれど、まさかそれが、俺の種付け相談だったとは。
「も、申し訳ございません、私は……」
「ああ、フィオには伝えなかったわ。フィオは嘘がつけないし、ルッツが好きすぎるから、きっと隠し通せないだろうと思って」
グレーテルにからかわれ、また長耳を染める姿は実に愛しいものがあるのだが……確かにフィオは、密謀向きではないよなあ。そういう意味で、一番そういう方面に向いているアヤカさんは……。
「申し訳ございません、私は存じておりました。ルッツ様に隠し事をした罰はいかようにもお受けいたしますが……この件は、なさるべきだと思います。必ずルッツ様ご自身のおためになることでしょう」
三つ指をついて深くしとやかに頭を下げられると、それ以上突っ込めない。まあ多少の差はあれど、みんな俺のために良かれと思って、森人たちへの種付けを勧めてくれているんだなあ。
ま、仕方ないか。あとはできるだけ少ない数で済むように、グレーテルあたりに交渉してもらうしかないだろう。
「うん、まあ百人くらいなら、イケるよね?」
一瞬、幼馴染が鬼に見えたぞ。おいおい、百人種付けするまでここを出られないとか……想像するだに怖いじゃないか。
「何も一気に百人としろってわけじゃないわ。森人は人間の数倍寿命が長いのだから、気も長いはずよ。何年かかけて、ゆっくりと進めればいいと思うわ」
その言葉にホッとした俺だが……残念ながらこの幼馴染は、甘くなかった。
「だけど、初年度種付けは、頑張ってしっかりと実績を残してもらわないといけないわね。まずは、二十人くらい一気にいくからね」
ま、初年度種付け成績が、その後のマーケティングに大きく影響するのは、競走馬の種馬さんと同じだが……いきなり二十人とか、やめてくれよ。
「森人をルッツ様のお味方にするには、そのくらい必要でしょう」
「偉大な種を、我が一族にいただきたいです……」
「ルッツ様のためになるのなら、ぜひっ!」
「ああ、嫉妬の炎が益々燃えます……」
「それだけの女性に子供を授けることができれば、交渉もずいぶん楽になりますね」
しかし、グレーテルの宣言に、妻たち愛人たちが一斉に賛同する。それも後ろになればなるほど微妙なニュアンスを含んで……もちろん最後の交渉うんぬんとかいうやたらと実利的なご意見は、ベアトの意を受けたアデルのものだ。
何でも今回種付けの謝礼として、一族が崇める大樹の葉と花蜜を受け取ることになっている。ベルゼンブリュック随一の薬師であるクラーラが、究極の薬とされるイリクシア開発の材料として、それを熱望しているのだとか。あの控えめな努力家の願いならば、不本意ながらかなえてやらねばならないだろうなあ。
もはや、あきらめるしかないか……俺は、全面降伏のため息をついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「やあ、さっそくで済まないね、よろしく頼むよ。」
ここは、見覚えのある部屋。大樹の洞にベッドやら何やらをしつらえた、森人一族のおしゃれな公営ラ〇ホだ。
族長の要請を渋々ながら受け入れることを伝えると、さっそく今日から種付けをしたいという話になり……頼みのグレーテルも「するんなら、早くしちゃいなさい」的な反応で、まったく守ってくれる気配がない。かくして逡巡する俺はこの特別寝室に強制連行され、最初のお相手と対面させられているところなのだ。
だが、俺はまだ当惑している。だって、目の前にいる女性が、どう見ても人間でいえばせいぜい、十三~四歳ってところなんだもの。若草色の髪とオレンジ色の瞳、中性的な顔の造作に、スレンダーな身体、そして長い手足という、いかにも森の精霊に愛されそうな容姿には惹かれるものがあるが、とにかく見た目が若すぎるのだ。
「ボクはピエラ。族長から聞いてるよ、キミの種をもらえば子供が……それも、強い力を持つ子が授かるんだってね。ボクもぜひ、我が子をこの手に抱きたいんだ」
おいおい、若いだけじゃなくボクっ娘か。まあ俺は元世界ラノベに登場するボクっ娘が大好物だったが、実際に見るのは初めてだ。
「いや、だけど君、子作りするには若すぎるんじゃないの?」
「ああ。この見てくれで随分誤解されるのだけど……安心していいよ。ボクは四十歳だし、もちろんそういう経験だって、あるさ」
え、四十歳? どう見てもフィオの方が年上に見えるんだけど?
「森人は二十歳くらいまで人間と同じように齢をとって、そこで止まるケースが多いね。だけどたまにボクみたいに、早い段階で肉体的加齢が止まる者がいるのさ」
「じ、じゃあ、身体が未成熟だってことなんじゃ……」
「中身はしっかり成熟しているから、心配ご無用さ。それに人間は、ボクみたいな娘が好きな男が多いって聞くけどな?」
そ、そんなことは……あるかもしれない。そういや洗礼のお相手の一人、妖精族の血を引くフィリーネさんは、もっと見た目が幼くて……そのせいでとっても盛り上がったっけ。そして俺の暴れん坊将軍が、このシチュエーションに早くも、自己主張を始めている。
結局のところ今夜も、俺は自分が猿だということを、自覚することになった。




