第479話 翌朝もトラブル
「うっ、き、筋肉が痛い。さすがに起きられないよ……」
ボクっ娘がその華奢な身体を、ベッドの上でじたばたともがかせている。経験はあるというので遠慮なく、スケベ大国日本では当たり前の技を、あれやこれやと試したのがいけなかったのだろうか。
「結構喜んでくれたように思ったんだけどな?」
「も、もちろん、すごく良かったけど……そ、そうじゃなくて! や、やりすぎって言葉を知らないのかい、キミはっ!」
うん、多少猿だったことは認めよう。その幼げな外見に背徳的な刺激を受けてハッスルしまくった俺は、日付が変わる頃まで休みなく、延長戦付きのトリプルヘッダーで奮戦してしまったのだから。
だがなぜか、この身体は連戦の疲れをまったく感じていない。何なら朝のもう一戦だって、イケるだろう……ま、お相手がこの状況だから、しないけどさ。
思うに、夜の戦闘経験を重ねるたびに、そっちの方面は強くなっている気がする。剣術だの体術だのという実用的な戦闘能力の伸びは止まった気がするのだが……やはり俺の転生チート能力が、夜のあれこれに極振りされているらしいことに、ため息をつくしかない。
ま、仕方ない。これが種馬ってもんなんだろう。
「ごめん、ピエラさんが、すごく良かったから、つい夢中に……お詫びに、マッサージをしてあげようか?」
「うん、お願いしていいかな……お、う、ゔぁああ!」
「つ、強すぎた? 少し緩めようか?」
「い、いや、い……痛いけど、ぎもちいい、ぞのままぁ……ゔぅっ!」
グレーテルが夜の運動会後に必ず要求する筋肉ほぐし術は、このちっちゃな身体には強烈すぎたらしい。だがお相手は、よだれをたらさんばかりにして続けることを要求してくるのだ。そういやグレーテルも言ってたなあ、俺の親指から発せられる魔力が身体に突き刺さってくる感覚が、イタ気持ちよくて最高なのだと。まあ、死ぬことはないだろうし、もうちょっと啼いてもらうとしよう。
そして二十分ばかり。さんざん絶叫していたピエラさんの声が聞こえなくなったことにふと気付く。俺の下でうつ伏せになっている彼女の様子を窺えば、幼なげな口を半開きにして、眠ってしまっていた。
やれやれ。とりあえず、ご満足いただけたのかな? だけどこれがあと十九人続くのかと思うと、遠い目をするしかない俺だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
当分目覚めそうもないピエラさんを大樹の中に残し、俺はふらりと散歩に出る。もう陽はすっかり昇っていて、森人たちはめいめい己の労働を始めている。狩猟に行く者、果樹園で手入れをする者、クラフトに勤しむ者……本当に森人の女性たちは、働き者なのだよなあ。
だがそれはあくまで、森人の「女性」に限った話だ。働いている人たちの中に、男の姿はない。まあ森人は男性が極端に少なく、十五人か二十人に一人くらいしかいないって話を聞いてはいるけど……たまに目に触れる男は、午前中から酒を飲んでいるか、木々の間に吊るしたハンモックでだらだら寝ているか。
そういや、フィオが言ってたなあ。子供ができにくく、しかも男が少ない森人社会では、働かないくせに男が威張っているのだとか。彼らは種付けを唯一の役割として、他には一族に貢献する行為を、一切やらないのが常なのだそうだ。う〜ん、ある意味男にとっては天国なのかもしれないけど……働いて社会に貢献するのが国民の義務だと日本国憲法で叩き込まれてきた俺に、里の男が送るまったりライフは合いそうもない。
そんな男の一人が、酒臭い息を吐きながら近づいてくる。
「ん、お前が話題の『種馬』か?」
おいおい、なんだかずいぶん失礼な奴だな。
前回訪れた時と違って、森人の多くを占める女性たちは、俺たち一行を熱烈に歓迎してくれている。それは彼らの守り神たる大樹を救ったこと、そして次期族長であるフィオに精霊の力を取り戻させたこと、そして次代を担う子を一族にもたらしたこと、そんな功績が彼女らにそうさせているのだが……どうも森人の男たちの目には、俺たち人間族がただの邪魔者に映るようだ。
「用が済んだらさっさと帰れ。ここは誇り高い孤高の民が住まう里だ。精霊も使えない人間のいるべきところじゃねえ」
「そういう君は、精霊の力が使えるのかい?」
「何だとぉ! 誇り高い森人をバカにするのか!」
うん、バカにしてるよ。正確に言えば「誇りばかり高くて何もしない」君たち、だめんずのことをね。
「俺はただ、君が言ったことをそのまま返しただけだけどね」
「こ、この野郎!」
森人は穏やかなイメージがあったけど、こいつは違ったらしい。痛いところを突かれたのか、怒りに耳まで真っ赤にした彼が振り下ろす拳を、俺は軽くバックステップしてかわす。だめんず森人くんは酔っ払っているせいかたたらを踏んで……木の根っこにでもつまづいたのか、つぶれガエルみたいに派手にうつ伏せになって転んだ。
「て、てめえ、やりやがったな……」
いやいや俺、まったく手を出してないから。そう言い訳する間も与えてくれず、酔っ払いだめんずは森人特有の細剣を抜き放つ。さすがに俺が攻撃に備えようと身を硬くしたその時、華奢な身体が、俺の前に立ちふさがった。
「この方は、私の大切なつがいです。それを傷つけようとするならば、私と精霊が相手をしますよ?」
アッシュゴールドの髪をなびかせるその若い女性は……もちろん俺の妻、フィオ。その頭上には彼女の契約精霊サラマンダーが、主人の敵なら焼き殺してやろうと、小さく炎を吐いている。
「さあ、どうしますか?」
「けっ、女に守られるとは。やっぱり人間の男はサイテーだな」
最低なのは働かないお前だ。そう言いたいけど、ここで暴れたら次期族長であるフィオの立場を悪くしかねない。胸の中で百まで数えて……ようやく怒りを抑えた俺だった。




