第474話 進化版死霊使い
野趣あふれる河原の野天風呂に興奮した子供たちが、きゃあきゃあと騒いでいる。
その声を背中に聞きながら、さっきの魔法についてああだこうだと語り合っているのは、俺と妻たち……アヤカさん、そしてグレーテルとフィオだ。
「驚いたよ。アヤカさんは火属性の魔法まで使えたんだね」
「信じられないけど……アヤカもルイーゼ殿下のように、『二属性持ち』なの?」
俺たちの問いに、アヤカさんは柔らかく首を振って否定した。
「いいえ、昔も今も、私自身の魔法属性は『闇』一本、火魔法などろうそく一本点けることもできません」
「いや、だってさっき目の前で……」
「あれは、私の能力ではありません」
うん? 何だか謎かけみたいで、アヤカさんの言っていることがさっぱりわからないぞ。その時、首をかしげている俺たちの後ろでじっと話を聞いていたフィオが、遠慮がちに口をはさんだ。
「あの……アヤカ様。それはもしや、魔法使いの死霊……ゲシュペンストに術を発現させたということでは?」
「ええ、その通りです。さすがは使役系の魔法に通じておられるフィオ様」
え? じゃああの時アヤカさんのとなりにいた白い影は、火属性魔法を使える死霊で……アヤカさんがそれを従えて、火球を放つように命令したということなのか?
「私がこの旅についてきたのは、もちろんホノカの目付け役というのが主な理由ではありますが……もうひとつ、目的がありました。それは、魔の森でさまよう冒険者の霊を、集めることです」
いやまあ、アヤカさんが死霊を従える能力を持っていることは、よく知ってる。この間踏破した新迷宮では、百を数えるゲシュペンストを従えて、まさに無双したのを目の当たりにしているからなあ。ちと怖いけれど、ある意味あちこちにいる死霊を戦力にできるというのは、すごいことだ。
だが、あのゲシュペンストたちは確かに強かったけれど、数にものを言わせてゴリ押しするだけで、属性魔法なんか使っていなかったぞ?
俺の怪訝そうな表情に気付いたのであろう、アヤカさんがふわりと微笑んだ。
「そうですね。迷宮のゲシュペンストはスキルも魔法も使えず、その思考もはっきりしないものでした。ですがたった今、私に従っている死霊はそれとはまったく違います。個々に意思を持っていますし、ある程度の会話もできます。そして生前の知識やスキルを保持していて……魔力さえ分けてあげれば、その能力を私たちのために使ってくれるのです」
それはすごい。だけど、迷宮のゲシュペンストと、彼女に従っている魔法使いの霊は、いったい何が違うのだろう。どっちも、人間の死霊なんだろうに。
「ええ。迷宮に集っていたゲシュペンストも、もともとは人間の魂……それぞれ記憶とスキルを持っていたに違いありません。ですが死霊は、魔力の補給がなければ、徐々に生前のことを忘れ、明確な意思を持たない霊体に変わっていくものなのです」
なるほど。あの迷宮は千年ほど放置されていたらしいし……その間魔力を与えられなかったことで、彼ら死霊は自分がかつて人間だったことも忘れ、たださまようだけの存在になり果てたのだ。
それに比べれば、魔の森を徘徊する冒険者の霊は、亡くなってから数年か、長くても数十年といったところ、生前の記憶を残していても不思議はない。そしてみんな魔力に飢えていて……アヤカさんのあふれだすほど豊かな闇属性魔力を与えてやれば、無条件で懐いてくるのだろう。
「そうか。アヤカさんは、いろいろなスキルを持つ冒険者たちの霊をそばに置くことで、どんな攻撃にも対応できるようにしようっていうわけなんだね」
「はい。闇属性の魔法は、どうしても暗殺や誘拐、抑圧や支配に関わるものが多くなります。過日のように魔物が押し寄せた時、あるいは戦争になって多数の敵兵が襲ってくる時には、お役に立ちにくいのです。どんな場面でもルッツ様の御身をお守りできるようになるためには、異なる属性の死霊を常に持っておくことが有効でしょう」
そうか、アヤカさんはそこまで、考えていてくれたのか。二言目には「生命に代えてもルッツ様を……」って口に出す闇一族の忠誠ぶり、頼れるけど危ういものを感じていたんだ。死霊を使うことで戦いのバリエーションが増えて、アヤカさんや一族の者たちの危険が少しでも減るというのなら、俺に異存があろうはずがない。
「一度支配下に置いてしまえば、あとはルッツ様から授かったあふれる魔力のほんの一部を分けてあげるだけで、陣容が維持できます。ですから今回の旅の中で、できるだけ多くの魂を、お味方に取り込んでおきたいのです」
「それで、さっきの火魔法使いをもう仲間にしたわけだ」
「はい。先の戦いで死んだ帝国水魔法使いが一人、そしてもう一人土魔法使い冒険者の霊も加わっております」
「すごいな、アヤカさんは実質、闇、火、水、土の四属性使いってわけか」
うん、アヤカさんの考え付いたこの魔法運用は、実にすばらしい。死霊術という使いどころの難しい魔法を、用途多彩な万能魔法に変えたのだ。
ホノカに勧めているテイマー修行も、同じ目的なのだろう。彼女のとがったスキル「魅了」を、さまざまの魔物を支配することにつなげることで、精神魔法特化のホノカを、万能系の術師に変えていこうとしているのだ。
「ええ。ホノカがあれを極めれば、私の死霊術と併せ、異なる性質の力、そして数の力で攻めることができるようになります。個の戦いでは無敵であろう『奥様』と力を合わせれば、バーデン領はどこの国にも負けることはなくなるでしょう」
アヤカさんが誇らしげに胸を張る。そんな姿勢をとると彼女の偉大な胸部装甲がどうしても気になって……俺の邪悪な視線を感じたのか、アヤカさんは少し頬を染めて、襟をかき合わせた。




