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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第九部 フィオの里帰り

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第468話 一旦あきらめよう

「方法があるのか?」


 思わず食いついてしまう俺。だって、異世界くんだりまで飛ばされて来たっていうのに、俺に授かった能力は子作りだけ。勇者とか剣聖とか賢者とは言わないが、何かファンタジーっぽい厨二病的な能力が一つくらい欲しいっていう野望は、ずっと持ち続けていたんだ。


「確実とはいえませんが……」


 謙遜するフィオだけど、いつも控えめな彼女がわざわざ提案してくるのだ。きっと根拠があるに違いない。


「私たちが仲間に意思を伝える行為は、おそらく魔力にメッセージを乗せて、魔物や動物に向けて飛ばすことなのだと思います」


「なるほどね」


「ルッツ様は莫大な魔力を持っておられますけど、魔法の使えない男性です。ですから離れたターゲットには、魔力を届けることができないのだと思います」


「うん、納得だ」


「ですけど、ルッツ様に抱かれた私たちにはわかります。身体を直接触れさせれば、極上の魔力が奔流のように流れ込んでくるのです。その魔力に、願いを込めることはできませんか?」


 フィオの論は理路整然として、実にうなずけるものだ。彼女の仮説が正しければ、懐いた魔物の身体に触れながら命令すれば、流れ込む大量の魔力に乗せて、俺の願いが届く可能性がある。これは早速、実験してみるしかあるまい。


 猫くらいの大きさがある森ネズミを、ぐっと胸に抱いてみる。すでに俺が持つ魔力の味を知った雌ネズミは、唯々諾々と身を任せ、目をとろんとさせている。


(誇り高き我が小さき眷属よ! 汝の主たる我の命を聞き、あの赤き実を我が手に!)


 ネズミのもふもふした毛皮の感触を確かめながら、俺はできるだけ簡単な命令を頭の中で唱える。ちょっと台詞回しが厨二病くさくなってしまったのは、元世界でラノベを読みすぎたせいか。


 と、これまで俺の魔力に酔っていた森ネズミが、急にしゃんとしてその頭を上げ、俺が指し示す方を向いた。そこにはターゲットである、この地方特産の赤くて小さいリンゴ。


(行け!)


 とどめとばかりに気合を入れれば、ネズミは俺の胸から弾けるように飛び出し、リンゴを盛ったカゴに向かって一直線に走り出した。これはすごい、たかがネズミとはいえ、俺の命令で、魔物が動いているんだ。


 女性絶対上位的世界観のおまけとしか思えないチート能力を授かった俺だけど、ようやくこのファンタジー異世界に挑む「自分の力」を手に入れたんだ。感慨もひとしおってもんだなあ。


 だけど俺の感動も、そこまでだった。


「あれ? リンゴは?」


 我が眷属は目的である果物カゴの脇をひょいと通り過ぎ、その先にたまたま置いてあった、ワインのおつまみ用チーズにかぶりついていた。


「何だよ……ただチーズに引かれただけか」


 喜びが大きかっただけに、落胆も大きいってもんだ。だけど、様子を見ていたフィオの解釈は、意外なものだった。


「いえ、ルッツ様の指示は、届いています。この子の動きは、命令に従い、それを果たそうとする者のそれです」


「じゃあ何で、『リンゴを持ってこい』って言ってるのに、『チーズを食って』しまうんだい?」


 俺の疑問に、フィオが考え深げな表情になる。


「ルッツ様の命令は、伝わっています。ですけど『不正確に』伝わっているのだと思います。行けという意思は伝わっても、目標までしっかり伝えられていないのではありませんか」


 そういう考え方もあるか。


「じゃあ、どうしたら命令を正しく伝えられるようになるのかな?」


「……それはやはり、修行あるのみなのでは?」


 うぐっ。普段は優しいフィオだけど、己の術のことになるととたんにスパルタになるのはなぜなんだ。これはまあ、この世界の女性あるあるなのだろうなあ。


 というわけで、俺はそれから数日、森ネズミを相手にひたすらテイマー修行をしている。


 さんざん俺の「特別な魔力」を注ぎ込んだせいか、この雌ネズミはすっかり俺になついてしまった。俺の姿をみつけるとマッハで走ってきて、撫でろとばかりに頭を突き出すか、いきなり俺の胸に飛び込んでくる。ペットと思えば、なかなか可愛いもんだ……魔物だけどな。


 そこまで慣れても、やはりネズミ嬢は俺の思った通りに動いてくれない。


 俺が指差したモノにはきちんとアタックしてくるから、命令に従う気はあるみたいだ。だけどそのモノを壊せと言われているのか食えと言われているのか、それとも持ってこいと命ぜられているのかは、さっぱり理解できていないらしい。おかげで俺は連日、魔物の歯形がついたリンゴをいくつも食わされる羽目になっている。


「もう一歩だと思うのです。ルッツ様には最高の魔力があるのですから、魔物と繋がることができないはずはありません。触れ合って魔力を流すことで一歩前進したのですから、あと一歩……」


「もう一歩って、魔物相手に何をすればいいんだ?」


 何気なく言い返した俺の言葉に、フィオがその目を大きく見開き、一瞬で頬を紅に染める。


「い、いいえ、何も、そこまでしろというわけでは。た、確かに、有効だと思いますが……」


 うん? 俺、フィオがこんなにキョドって恥じらうような事、言ったかな?


「同じ魔物でも、さ、サキュバスみたいな魔物であれば……」


 ああ、そういうことか。人間の女性と関係を深めるみたいに、夜の運動会を一緒にすれば、魔物とも深くつながれるって、フィオは言いたいんだ。だけど、とりあえず相手はネズミだからなあ……。


 結局のところ、それから先はいくら頑張っても、大きな進歩はなかった。もちろんネズミ嬢と、夜の関係を育むこともなく……できるようになった芸はといえば、俺が投げたお手製のフライングディスクを、拾ってくるくらい。これって、犬でもできるよね?


 こうして俺に対する「テイマー育成計画」は、あえなく失敗に終わったわけだけど……この修行は、後に俺の生命を救うことになる。


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