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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第九部 フィオの里帰り

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第453話 拍手の力

 ニコルさんの鑑定能力は、今後のバーデン領にとって、実に有用なものだ。


 人に対して「鑑定」ができることは、いろんな意味がある。


 領民が持つ本人も気づいていないスキルを見つけ出せば、すごい人材が次々探し出せる。だがそれ以上に役立つのは、領外から来た者のスキルを確認できることだ。


 仕官を求めてきた者がスパイや暗殺の密命を帯びてくるのは、よくあること。だけど「鑑定」で妙なスキルを持つ者を見つけて排除できれば、そのリスクをとても低くすることができる。これまではベアトを王都から呼んで、「精霊の目」で悪意を確認してもらっていたけど、彼女も最近はますます忙しいからなあ。


 そして、人の能力が鑑定できるということは、もちろん魔物に対してもその効果を期待していいだろう。魔物の能力をきちんと見積もることができれば、勝率はググッと上がる。「魔の森」に隣接し、いつどんな魔物が現れるかわからないバーデン領にとっては、垂涎のスキルだ。


 そんなわけで俺も、ニコルさんの「鑑定」に大きな期待を寄せていたのだが……どうもそのスキルはいつでも発動できるというものではなく、何か条件がそろわないと使えないらしい。


「さっきと、いったい何が違うのでしょうねぇ……」


 いつも楽天的に微笑んでいるニコルさんも、さすがに落胆を隠せない。


「う〜ん、俺にも違いがわかんないなあ」


 そう、さっきから俺たちは、同じ部屋にいる。そこにいるメンバーも、変わっていないし、窓の外で天気が急に変わったわけでもない。動かしたものといえば、アゲハがメモ用の筆記用具を持ってきたことくらいで……その後もニコルさんの俺に対する鑑定は発動していたから、この要因も関係なさそうだ。


「うぷ〜、む〜!」


 考え込む大人たちの沈鬱な雰囲気を感じ取ったのか、ガブリエラが可愛らしく怒りだした。いかんいかん、ここはこの小さな天使のご機嫌を取らねばなるまい。


「うん、ガブリエラは可愛いね、お母さんそっくりだよ」


「うきゃあ!」


 俺の言葉に頬を染めるミカエラも愛しいが、俺が少し構っただけで紫の目をくりくりと動かし、喜んでくれる娘の可愛さは、また格別だ。ガブリエラはその両腕をぱたぱたと活発に動かして、そのモミジみたいに小さく白い両掌が、ふにゅっと触れ合う。


「……あっ、み、見えましたぁ!」


 プライスレスな気分を味わっていた俺の背後で、ニコルさんが珍しく慌てた声を出す。振り向けばいつもは垂れている彼女の目が、驚いたように大きく見開かれているのが見える。


「ミカエラ様のスキルが、見えますぅ……『豪速』、それから称号もぉ……『隕石娘』と『天使』ってぇ……」


 なるほど。彼女が得意とする石打ち攻撃のすごい威力は、「豪速」スキルの助けを借りているのかもしれないな。それにしてもこの称号は……隕石娘はわかるけど、「天使」って。俺の中では確かに天使だけど、彼女は結構無慈悲な殺戮を、顔色も変えずにやらかすけどなあ。まあ元世界でも「天使」は優しいだけじゃなくて、結構残酷なこともしてたような気もするし、納得するとしよう。


「ふうん? ニコルさんが私を『鑑定』できたことはよかったですけどっ、さっきできなかったことが急にできるようになったのは、なぜなんでしょうねっ?」


「それがぁ、なぜなんだか私にもぉ……」


 ニコルさんも当惑顔をしている。だけど俺にはその理由が、さっき頭の中に突然ひらめいたんだ。


「あのさ、最初にニコルさんが人間の『鑑定』に成功したのは、ガブリエラの洗礼式だったよね」


「ですねぇ……」


「それで今日も、『鑑定』が二回成功したときには、必ずガブリエラがそこにいる」


「で、でも、それを言ったら私やルッツ様も、そこにいたじゃありませんかっ?」


 頭の回転が速いミカエラが、すかさず反応してくる。そう、そこは俺も疑問だった。それに、今日はガブリエラがいた時でも、鑑定を失敗しているしね。


「うん、ただガブリエラがそこに『いる』だけでは、ダメなんだと思うんだ」


「というとっ?」


 ミカエラが食いついてくる。やっぱり愛娘のことになると、彼女も必死だ。


「ここから先は俺のひらめきっていうか思いつきなんだけど……ガブリエラが『拍手』してくれることが重要なんじゃないかな」


「へぇ?」「はあっ?」「拍手って?」


 女性陣が一斉に突っ込んでくる。まあちょっと突飛な発想なんだけど……さっきニコルさんが鑑定成功する直前に、ガブリエラがその可愛い両掌を合わせたのが、すごく印象に残ってしまったんだ。何にも根拠はないんだけど、もしかしてこれ……ガブリエラが「拍手」してくれることが鍵なんじゃないかと、突然ひらめいてしまったのだ。


「え~っ、さすがにそれは、ないですよぅ……」


「え、あ、でも……ルッツ様のおっしゃることなら、信じていいのかもっ!」


 ニコルさんとミカエラが俺の思い付きに、あれこれ興奮しつつ意見を戦わせる。だけど俺の背後から一言だけ口をはさんだアゲハは、実に冷静だった。


「それなら、実験すればよろしいのです」


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