第451話 優秀な秘書
「ね、落ち着いて、ニコルさん。それって俺を『鑑定』できたってこと?」
固まっているニコルさんに声をかけても聞こえているのかいないのか……今度はミカエラの方を見て、垂れ目を驚きで丸くしている。
「ガブリエラ様の能力も、見えますぅ! 洗礼の日、以来ですぅ!」
「やっぱり、無属性(白)なのですかっ??」
ミカエラが食いつく。「どんな魔力でも……私とルッツ様の子ですから」とか可愛いことを言ってくれていた彼女だけど、もちろん娘の将来が、気にならないわけはない。
「はいぃ。無属性(白)の、Sクラスに間違いありませぇん! スキルも見えますよぅ……」
それはすごい。スキルはニコルさんの「鑑定」や、メルの侍女デリアさんの「魔力探知」みたいに、魔力の大小と関係なく生えるやつだ。自分のスキルに気付かないまま生涯を送るケースも多いのだそうで……ニコルさんの「人物鑑定」とでもいえるスキルが使えれば、隠された才能をガンガン探し出せるぞ、バーデンの将来は明るいぜ。
「でっ、が、ガブリエラはどんなスキルをっ??」
さらに食いついてくるミカエラだ。そう、まともな魔法が使えない可能性が大きいガブリエラにとって、役立つ固有スキルを持っているかどうかは、これからの人生の可能性を、大きく左右することになるからな。たとえば攻撃魔法なんか使えなくても、「鑑定」一本あれば、左うちわで食っていけるのが、この世界なんだ。
「ええとぉ……『拍手』っていうスキルなんですけどぉ……」
「「拍手??」」
思わずミカエラとハモってしまう。なんだそれは、拍手するだけなら、俺でもできるぞ。まあ確かにガブリエラはさっきから、お腹いっぱいになって満足したのか、そのモミジみたいにちっちゃな手をフリフリして、ぺしぺしと何回か「拍手」しているように見えなくもない。可愛さ満点、威力絶大ではあるのだが……別にスキルがなくても、両掌を打ち合わせるくらい、どこの子でもできるだろうよ。
「ニコルさんの能力では、どういうスキルなのかはっ、わからないのでしょうかっ!」
「そうなのですよぅ。スキルの名前ははっきり見えるのですが、使い道は……」
「そうですか……でもっ、スキル持ちだってわかっただけでも、大きな進歩ですねっ! ニコルさん、ありがとうございますっ!」
ちょっとだけがっくりしたそぶりを見せたけど、次の瞬間にはいつもの快活能天気娘に戻るミカエラ。本当にこの娘は、芯が強いよなあ。
「でっ? ルッツ様の能力も『鑑定』できたのですよねっ? 結果が気になりますっ!」
そうだな。魔法の使えない身とはいえ、俺も自分の能力が気になるところだ。人間の鑑定なんかできるのは、この大陸におそらくニコルさんだけ。この機会にしっかり自分のできることを把握しておけば、今後何かと役に立つだろう。
「ええとお……」
ニコルさんが何かを探している。
「ミカエラ様、ちょっとだけルッツ様をお願いいたします」
首をかしげるミカエラに役立たずの俺を託し、パパッと動いたのは俺の護衛兼秘書である、アゲハだ。十数秒後、彼女はペンとインク、そして一枚の便箋を持って戻ってきた。
「これを、お探しですよね?」
ニコルさんが、無言のままこくこくとうなずいて、早速何かを書き記し始める。何だよ、メモが取りたいのだったら、そう言ってくれればいいのに。
「『鑑定』は、高い集中力を必要とするスキルなのだそうです。余分な言葉を発したら見えているものが消えてしまいそうだったので、言葉にできなかったのでしょう」
なるほど。明晰なアゲハの解説に、うなずくしかない俺だ。本当にこの娘は知識もあるし、細かいところに気がついて、よく動いてくれる。俺の護衛ということになっているけれど、ミカエラが現役復帰した今は、秘書としての色が濃くなっていて……いまや公式な業務の準備や調整については、彼女にどっぷり依存している。感謝感謝だ。
「そう思っていただけるのであれば……ぜひ明晩、お情けをいただきたいです」
うっ。結局ここに行ってしまうのが、この娘の微妙なところだ。
「何で今夜じゃなくて、明晩なの?」
「今宵は、『奥様』と同衾なされることに決まっておりましょう。私はその後でよろしいのです。ルッツ様が他の女性を抱く姿を想像して胸に燃えた激しき悋気の炎が、己を抱いていただいた時の歓びを、二倍にも三倍にもしてくれるのです」
ああ、安定のパターンだ。好かれていることは確かだと思うのだが、この若干変態チックというか、粘りつくような愛が、めちゃくちゃ重い。
「ああ、奥様の香りを残したルッツ様と、想いを交わすのが待ち遠しいですわ……」
ミカエラはあきれ顔だけど……彼女もこれがアゲハの通常運転だとわかっている。小さなため息をついて、ガブリエラをもう一度抱き直す。そんな時ようやく、ゆるふわアニメ声が、作業の終了を告げてきた。
「やっとぉ、ルッツ様の鑑定結果がぁ、出ましたよぉ……」




