第450話 鑑定できた?
子供部屋に入ると、一見十四、五歳に見える凛々しい少女が、俺の姿を見つけて騎士の礼をとる。腰にはしっかりと中剣が佩かれていて、どこから見ても可憐な護衛騎士だが、茶色の髪からピンクの豚耳が二つ、可愛らしくのぞいている。もちろんそれは、俺とグレーテルの養女、レーアだ。
「お父様っ! お帰りなさい、今日はみんな、遊び疲れてお昼寝中ですよ」
まだ三歳ちょっとだというのに、体格だけではなく言葉遣いまですっかり思春期少女のものになったレーア。さすがは上位種魔物の血、恐るべしだ。だけど俺を呼ぶ語尾が少し弾んだのが、子供らしく慕ってくれてることを表しているようで、とても愛しい。思わずその上半身を、ぎゅうっと抱き締める。髪から漂うひなたの香りが、とても心地よい。
「ふふっ、こうして真っ先に抱きしめてもらえたのは、役得ですね。あとでファニー様に叱られそうです」
オレンジ色の瞳が、まっすぐ見上げてくる。魔物と人の間に生まれた子だというのに、その目には一点の邪気もなく、ただ俺を父として慕ってくれていて……ついつい抱いた腕に力を込めてしまう。
「お父様は、強いから好き。でも、ファニー様をこんなに強く抱かれては、ダメですよ。普通の女の子は、壊れやすいのですからね」
何か年上のお姉さんにお説教されている気分だが、まあいいとしよう。この子は自分を「普通」じゃないことを自覚して……だけどそれをまっすぐに受け止めて、前向きに生きている。いい子すぎて、涙が出そうだ。こんな素直で大人な子に育ったのは、やっぱりグレーテルのスパルタ教育のおかげなのだろうか。
「あらぁ、ルッツ様、お帰りだったのですねぇ」
背後からかけられたゆるふわアニメボイスに、愛娘の身体を解放して振り向けば、予想通りのひとがいる。栗色のふわふわヘアーを揺らせて、垂れ気味の目を優しげに緩めるこのひとは、もちろんニコルさんだ。
「うん、さっきアデルに送ってもらったんだ。いろいろ面倒なことが終わったから」
その「面倒なこと」は、メルとの婚約にまつわるあれこれだ。愛人たちにとってはちょっと地雷になりかねない発言なのだが……。
「そうですよねぇ、おめでとうございますぅ……お姫様を二人もその手にされるのは、さすがルッツ様ですねぇ」
ありがたいことにニコルさんにとって、俺の「妻」というタイトルは、さして魅力を感じるものではないらしい。彼女にとって俺は「すばらしい魔力をくれて、ケチらず高価な錬金素材を買ってくれる気前の良いボス」であるらしく、ベタベタすることも他の女性にヤキモチをやくこともなく、ただただ俺を甘やかしてくれる。
「ところでぇ、そろそろトウチュウカソウがなくなりそうなんですよぅ。経費を出してもらっていいですかぁ?」
え、こないだ百金貨で購ったはずのトウチュウカソウ、もうなくなったわけ? 東の国からはるばる渡来する貴重な薬材なんだそうで……元世界の冬虫夏草と同じものなのかどうかは、門外漢の俺にはわからないが。
「ルッツ様ぁ、お願いしますよぅ……」
ダメと言われることなど想定していないとしか思えない、あざと可愛いおねだりには、全面降伏するしかない。渋々うなずけば、ぱあっとその顔が輝く。
「わぁい、ルッツ様は太っ腹だから、大好きですよぅ!」
おいおい、君が好きなのは俺自身じゃなく、俺が買ってやる錬金素材だろ。それがわかっていても、甘々の笑顔に癒されてだまされてしまうのも、また俺だ。
「うまくいったみたいですねっ!」
ニコルさんと対照的な弾むアニメ声の持ち主は、もちろんミカエラ。大きくくつろげた胸元から尊い白桃がのぞき、そこにチョコレート色のちっちゃな頭が一生懸命しゃぶりついている。
「あ、ミカエラ様ぁ、ダメですよぅ。殿方に授乳を見せたりしてはいけないのですぅ……」
意外と言っては失礼だが、ごく保守的な感覚を持っているニコルさんだ。
「大丈夫ですよっ、ルッツ様しか見ていないのですからっ! それにうちの旦那様は、おっぱいが大好物ですからねっ!」
うぐぐ、反論できない。さすがはミカエラ、何年も俺のそばについてくれていただけのことはある。だが、君はスケベの真髄を知らないようだ。堂々と見せるおっぱいよりも、何かの拍子にチラリとのぞくそれの方が、何倍も美味しいのだぞ。
「そうですねぇ……ルッツ様は本当にぃ、おっぱいが好きですよねぇ……」
あいづちを打つニコルさんは、手のひらサイズのミカエラとは違う、立派な胸部装甲をお持ちだ。俺の邪悪な視線を感じたのか襟元を素早く直して、あきれたような目で俺を見た彼女が……驚いたようにその垂れ目を見開いた。
「えええぇ〜っ!」
「どうしたの、ニコルさん?」
「ル、ルッツ様の能力が、見えてしまったのですぅ!」
え、それって、どういうことなの?




