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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第九部 フィオの里帰り

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第446話 メルの気持ち

「どうだ、したか?」


 急にしおらしい娘になったメルセデスを送ってからベアトの宮に戻ると、いきなり安定の無表情のまま、ぶっ込まれた。


「した……って、何もないよ」


「……むう。本当に、何もなかったようだな」


 しばらく俺の反応を探っていたベアトが、小さく肩をすくめる。おそらく「精霊の目」スキルで、俺が何もヤッていないことを確認したのだろう。


 それにしても、この反応はないだろ。まるで俺と、あの悪役皇女がくっつくのを、期待していたみたいじゃないか。それって正妻がする反応じゃないよね?


「そうだ、そうなってくれるだろうと思って、二人きりになれるように送り出したつもりだったのだが……我が夫は意外に、据え膳を食わない主義らしい」


「何で俺がメルセデスとくっつかないといけないんだよ……だいたいあの子は、俺みたいな男……」


「そうかな。今日ばかりはメルが熱烈な告白をしたはずだが……」


 うっ、鋭いつっこみに、あのカフェで見せた悪役皇女がデレるシーンを、不覚にも詳細に思い浮かべてしまう俺……そしてそれはもちろん、ベアトの「精霊の目」スキルで、全部読み取られてしまう。


「なるほど。メルもなかなかやる。これなら我が夫も胸を射貫かれるであろうな」


「スミマセン……」


 謝るしかない俺だ。こんな高貴で可愛い嫁がいるというのに、他の女性に気持ちを向けられるとついグラっとなってしまうこんな男、王配としては最悪だよな。


「うむ。困った夫だが、そういうところはもうあきらめている。むしろ女を惹きつけずにはおかない最高の男を隣におくというのも、なかなか誇らしい気分を味わえるからな」


 たぶん褒められているのだろうと思うが、微妙に引っかかるコメントに、苦笑いするしかない。まあ惚れっぽい俺の性格は、転生前から変わっていない……元世界じゃルッツくんのような美貌も種馬性能も持ってなかったから、女性の方が寄ってこなかっただけさ。


「だが、メルならば抱かせても良いと思って、今日の場を作ったのだがな」


 おいおい、それって大丈夫なのかよ。もし俺がメルセデスに種付けすれば、彼女はSクラス魔力を手に入れ、帝国魔法使いの頂点に立つ。確かベアトは「仮想敵国の後継者候補を強化してどうするのだ」って言ってなかったか?


「それなのだが……メルが次期皇帝になる目が先日、ほぼ消滅した」


 何でも、皇太女たる姉が、二人目の女子を無事に産んだらしい。もはや姉の血統が途絶えることはありえなくなって……メルセデスはスペアとしての存在価値を、ほぼ失ってしまったのだという。


 こんな状況で帰国したとて、ろくな仕事も与えられない。むしろその優秀すぎる能力を脅威に感じる姉やその取り巻きから、生命を狙われる可能性が高いのだ。


「そんなわけで、あやつと腹を割って話したのだ」


「身の振り方について、ってこと?」


「そうだ。あやつは多少世間知らずだが、愚かな女ではない。自分の立場をきちんと理解して、帝国に戻る以外の道を探したいと言ってきた」


 まあ、それがいいんだろうなあ。もともと王立学校をぶっちぎり首席で卒業するほどの秀才なのだ。こっちの国で仕官すれば、宰相になるのだって決して夢じゃない。ベアトやアデルと手を取り合って、ベルゼンブリュックの輝ける未来を築いてくれるだろう。


「うむ、私も王都で文官職に就くのがいいと思ったのだが……メルの希望はちょっと違ってな。あやつは、このままバーデン領に残りたいと言うのだ」


「え、どうして?」


「何でも、帝国でも王都でもぼっちだったあやつにとって、実に居心地が良いらしい。どこへ行っても声をかけてもらえる体験が、新鮮なのだそうだ」


 ああ、それわかる。


 「魔の森」に現れた迷宮を探索し、最深部まで踏破。そして「アルテミスの聖剣」を含む貴重なアーティファクトをいくつもゲットしたというのに、それを全て領に献上した無欲で優秀で美しい「黄金姫」の名声は爆上がり。王都ではもちろんだが、直接彼女が姿を見せるバーデンでは、その熱気はまた数倍だ。


 レストランに出かければ見知らぬ住民から飲み物が差し入れられ、通りを歩けば子供たちがわあっと声を上げ、手を振ってくる。そんな持ち上げられっぷりに最初は戸惑っていたぼっち体質の彼女も、今やあちこちに顔馴染みをつくって、軽口などたたける相手が幾人もできたらしい。


「加えて、メルにはバーデンに残りたい、もっと大きな理由があってな。そこについても相談を受けていたのだ」


「ふうん、それって何?」


 そういえば、迷宮にまつわる論文に二年かかるとか言ってたっけ。魔物は湧くけどある意味自然に囲まれて静かな我が領が、執筆に向く雰囲気というわけなのだろうか。だけどそんなことなら、わざわざベアトに相談しなくてもいいような気がするなあ。


「我が夫の鈍さは相変わらずだ。もう気づいていてもよいと思うのだが……あやつは、ルッツのいるところで暮らしたいのだ」


 はあっ? どういうこと?


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