第441話 人間の鑑定
たった今ガブリエラに対してしてやれることは、もうないだろう。秀才メルセデスも、古書に記されていないことは、語りようもない。俺たちはこの顛末を、同じ無属性の子を持つリーゼ姉さんに伝えることだけ決めて、解散した。
「あまり気にしないでくださいねっ! 帝国では貴族の子でも魔力なしなんてこと、よくあるんですからっ!」
ミカエラがカラッと割り切っていたのが救いだ。ティナが無属性だと分かった時のリーゼ姉さんは気丈にふるまっていたけれど、傍目にも無理しているのがわかる落ち込みっぷりだった。だけどミカエラは本当に、愛娘が魔法を使えない可能性を嘆かず、楽天的に受け止めているみたいで……本当にこの子は、根っから明るくて、芯が強い。
「そうですわね。帝国ではそんな子も珍しくないですけれど……魔法王国ベルゼンブリュックで貴族当主になるのは、厳しいですわね」
ミカエラが帰った後にぼそっとメルセデスが漏らす。高慢ちきなこの皇女も、同じ帝国出身で同い年、そして数奇な人生で苦渋をなめた末にようやく幸せをつかんだミカエラに、シンパシーのようなものを感じているらしい。
「当主になれなくても、必ず幸せにする。ガブリエラも、ミカエラも」
「……お願い、いたしますわ」
何やら今日のメルセデスはしおらしい。こんなしとやかな態度になった時の彼女は、まとう雰囲気にも生まれの高貴さが自然ににじみ出して、とても美しい。思わず手を伸ばしそうになったその時……。
「まあこれは、節操なくあちこちに種付けをした報いですわね。せいぜい責任、お取りになってくださいましね!」
上から目線で言い放つその姿は、いつもの悪役皇女に戻っていた。はあ、やっぱり俺は、この娘と相性が悪いらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
みんなが帰った後に、なぜか居残っているのは、ニコルさん。彼女の金属性魔法にもガブリエラはまったく反応しなかったけど、まだ何かあるのかな?
「奥様、ルッツ様、ご相談がありますぅ」
真剣な表情で訴えつつも、アニメ声の語尾がゆるふわになってしまうのは、彼女のキャラだ、やむを得ないだろう。
「どうしたの、ニコル?」
「あのですねぇ……私、ガブリエラ様の魔力属性がぁ、見えてしまったんですぅ」
「ええっ! ニコル貴女、人間の『鑑定』ができたって言うの?」
グレーテルが目をむくのも、当然のこと。金属性の「鑑定」は、ありとあらゆるアイテムの良し悪しや効果を見極められる、実に利用価値の高いスキルだけれど、制約はある……それは、鑑定対象が無生物であることだ。「鑑定」に関してはおそらく大陸一の腕前になっているであろうニコルさんは、たとえば鉱石を見ただけで鉱脈の将来性まで見抜けるスーパー鑑定持ちだが、それでも人間や魔物を鑑定することは、できていなかったのだ。
「そうなんですよねぇ。今までできなかったのに、さっきガブリエラ様に『鑑定』を使ったら、視えてしまったんですよぉ。無属性(白)、Sクラスってぇ……」
「そ、それはすごいね……」
無属性だけじゃなくて「白」なんて分類までつくんだ、メルセデスの言っていたとおりだな。そういや洗礼のもやもやが、白っぽかったしなあ。そうなるとティナは無属性「黒」になったりするのだろうか。
「それでぇ、おおよその体力や魔力もわかってしまうのですよぉ。一緒にいらっしゃったミカエラ様やコルネリアさんの鑑定も、できちゃいましたしぃ……」
マジか。今まで人間の鑑定は、できないものとされてきたが……鑑定に才能が振り切れているニコルさんは、その壁を突破してしまったということなのか。そうなると興味があるのは……。
「ねえニコルさん、俺の『鑑定』してみてくれない?」
そう、能力がおおむねわかるというのなら、元世界でRPGにいそしんだ俺としても、自分の力を知っておきたいじゃないか。
「はいぃ、じゃあ、失礼してぇ……」
精神を集中するニコルさんの様子を、ワクテカして見守る俺。だけどニコルさんの表情が、いぶかしげなものに変わる。
「ニコル、どうしたの?」
「鑑定、できませぇん……」
「あらあら。まあ、ルッツは不思議人間だもん、仕方ないよね。じゃあ、私を鑑定してみて?」
「それではぁ………………う~ん、やっぱり、できませぇん……」
不思議なことに、一旦できたはずのスゴ技が、さっぱり再現しないのだという。まあ、魔力「量」だけはチート級の俺や、伝説の勇者並みに強いグレーテルは、ちょっと鑑定の難度が高いのかもしれない。そんなわけでアゲハやチヒロを連れてきて試してみたが、結果は同じだった。
「そんなあぁ。夢みたいな『鑑定』ができたと思ったのにぃ……」
嘆き悲しむニコルさんをなだめ、しばらくこのことを口外しないことを約束させた。人間の「鑑定」ができるなんて思われたら、世の強者とされる者たちから生命を狙われることは確実だ。だけどひそかに人間の「鑑定」を試し続けることもお願いするのももちろん忘れない。これから俺たちの前に立ちふさがる敵の力を正確に測ることは、バーデン領の安全に、はかり知れない寄与をもたらすはずだからな。
この時俺たちはまだ、ニコルさんが「たまたま、まぐれで」鑑定に成功したのだと思っていた。もう少しよく考えればよかったと後悔するのは、後日のことになる。




