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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第八部 新迷宮に挑む

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第432話 ギミック探し

「メル様、どうやって仕掛けを見つけようとおっしゃるの?」


 首をかしげるグレーテルだ。さもあろう、罠や仕掛けを鑑定できる金属性魔法使いならともかく、水属性であるこの皇女に、何ができるというのだろう。


「できるかどうかはわからないわ。ただ、ルッツ様のおっしゃる通り壁に何かギミックがあるなら、可能性はありましてよ」


 彼女が何を狙っているのかわからないけど、成功しなくても無害なものなら、やらなきゃ損というもの。俺たちはメルセデスが目を閉じ、小声で詠唱を始めるのを見守ることにした。


 皇女の頭上で空間の揺らぎが起こり、徐々に水球を形づくる。まあここまではいっぱしの水魔法使いなら、息をするようにやってみせる業だ。だが水球が両腕でやっと抱え込めるくらいの大きさになったところで、彼女は一つ気合を入れた。


「はっ!」


 その声に呼応して、水球が一気に広がって、床に垂直な一枚の膜になる。その膜は静かに移動して……つるりとした光沢を放っている、大理石みたいな石壁に貼り付いた。


 この皇女殿下が一体何をやりたいのか、さっぱりわからない。水膜は石壁をしっとりと濡らしたけれど、垂れてくる気配はない。右手を左胸に当てて深呼吸する彼女は、何かを測っているようだ。あ、もしかして。


 俺がその狙いに気付いた時、メルセデスの吊り目が、カッと開いた。


「視えましたわ!」


「ねえメル様。何が『視え』ましたの?」


「簡単に説明するのは難しいですけれど……そちらの侯爵閣下は、なにか気付きのご様子ね?」


 いきなり俺に話を振ってくるの、やめてくんないかな。まあ、仕方ない。


「水が染み込んでいくところを、探しているんじゃないでしょうか?」


 そう俺が言ったとたん、彼女の吊り目が二割増し大きくなった。


「さすが、と言って差し上げますわ……続けてくださらない?」


「一枚の石壁のようですが……一定の大きさの石を組み合わせ、接着して造るものですね、だから必ず壁には石の継ぎ目があります」


「そうですわね。それで?」


 俺がスラスラと答え始めたことに、皇女は少し驚いたような様子だけど、その黄金色した瞳は、相変わらず挑戦的な光を放っている。


「すぐそこにアーティファクトがあるのなら、きっと何かの仕掛けを解くと、この壁のどこかが開くのでしょう。ですがそんなギミックを設置するには、可動部を必ず設けないといけません。動かない継目は漆喰なんかで埋めますから水はなかなか染み込みません。だけど動く継ぎ目にはサッと水が吸い込まれる……殿下はそうやって、動かせる石を探しているのでしょう」


「正解ですわ。魔法に造詣が深いという評判は、嘘ではなかったようですわね」


 どうやら褒められているらしいが、言い方にいちいちトゲがあるのが悪役令嬢だ。まあ俺のこれは、魔法知識がどうこういう話じゃなく、元世界で毛細管現象を学んでいるからで、偉くもなんともないのだが。


「光栄です。しかし殿下の認識力はすばらしいですね。こんな大きな面積に水膜を展開して、水の動きをすべて追跡できるとは……我が姉リーゼでも、そこまでは難しいかも知れません」


 ここは正直な感想を述べておく。実際、畳十数枚ぶんくらいの面積に広がった水の、ほんのわずかな動きをトレースするなんて繊細な魔法は、ベルゼンブリュック最強の水魔法使いリーゼ姉さんでも、かなり難しいだろう。


 ふと気付けば、高慢皇女の頬がチークでも刷いたように紅く染まっている。もしかして……ジャイアン級いばりん坊のくせに、褒められると嬉しいのか、この娘は?


「わ、私が優秀なのは当たり前でしてよ。そ、そんなことより……この石板は四辺すべてが隙間になっています、動かせるはずですわ」


 何だかやけに動揺しつつも、メルセデスは重要な情報を伝えてくる。彼女が指差す先には、四十センチ四方ほどの大理石……一見気がつかないけど、確かによく見れば、隣の石との継目が、漆喰で埋められていないようだ。


 反射的にその石に手をかけようとすると、柔らかな手とゆるいアニメ声が俺を押し留める。


「だめですよぉ。何が仕掛けられているか、わからないんですからぁ」


 ニコルさんの言う通りだ。石をはずした途端に毒ガスがぷしゅーなんてことになったら、一発でお陀仏。思わずわくわくして不用意な行動をしてしまったが、ここはリアルに危険な迷宮最深部なのだ、ナメてはいけない。


 あわてて手を引っ込めると、ニコルさんはゆるふわの微笑を一つ投げて、くだんの石に向かって真剣な目を注ぐ。いつもにない緊張した顔で何かぶつぶつとつぶやいて……振り向いたその表情は、すでにいつものゆるふわに戻っていた。


「大丈夫ですよぅ。特に危険な罠はないみたいですねぇ。押せば引っ込む仕掛けみたいですぅ」


 グレーテルがうなずくのを確認して、今度は慎重につるつるした大理石に掌を置いて、ぐっと押し込む。ニコルさんの言ったとおりにそこの部分がボコっと奥に引っ込んで……何か機械が動くような音がする。


「ここにも可動部がありますわ、離れた方がよろしくてよ!」


 メルセデスの声に、ミカエラがあわてて飛び退くと。彼女が寄りかかっていた石壁がゆっくりと動き始める。観音開きのような形でぱかりと開いた壁の向こうには、不思議な灯りがともる空間が広がっていた。


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