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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第八部 新迷宮に挑む

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第421話 乾燥魔法?

「〇▽※$$#@……」


 メルセデスが杖を片手に、俺にはさっぱりわからない言葉で詠唱を始めたけれど、ちょっと見は何も起こっていないように感じられる。一分くらいそれが続いた後、小さなため息を一つついて、彼女が杖を下ろす。


「貴方、信じていなかったんでしょう? 自分で確かめてみてはいかが?」


 挑戦的な言いようがカンに障るけど、確認しないわけにはいくまい。目の前に置かれたサイ角を手に取った俺は、思わず目をむいた。


「か、軽い!」


「ほほほほ。やっとおわかりになりましたの? 帝国魔法使いの力、思い知ったでしょう」


 いやいや、帝国うんぬんじゃない、こんなことできるのはお前だけだろ。そう言い返したいのを、ぐっとこらえる。実に見事だ……こんなスゴ技ができる水魔法使いを、俺も知らない。


 その時、気が付いた。目の前でメルセデスがやった業は、むしろ金属性の錬金術に優れた魔法使いがやる技術なのじゃないかと。


 俺の知る金属性で、最も魔法制御力に優れているのは、王女クラーラだ。彼女は生まれつきの魔力が少ないハンデを背負いながら、努力で伸ばせる魔法制御力を徹底的に鍛えた。その結果として、木酢液から木クレオソートを抜き出したり、ワインからアルコールだけ取り出したりという「抽出」ができる。同じようにメルセデスは、角の中に含まれている水を「抽出」で除去したのではないか。その考えを口にすると、彼女の眉がキュッと上がった。


「当たりですわ。さすが男の身で新しい魔法をいくつも開発したという侯爵閣下は、魔法への理解が深いですわね」


 これは褒めているのではなく、むしろ魔法の使えない俺への皮肉なのだろう。


「す、すばらしいですぅ。これで素材が全部……さすがは、帝国の高貴なお方ですねぇ」


「そのとおりよ。さあ、魔物の角をお出しなさい!」


 ニコルさんのゆるふわボイスでヨイショされ、ドヤ顔をしているメルセデスの前に、サイもどきとトナカイもどきの角が並べられる。まあこの皇女はまだ知らない……ニコルさんのゆるふわは、実は怖いんだぞ。その声に癒され甘やかされているうちに、知らず知らず重たいものを乗っけられてしまうのだ。


「端っこからやって参りますわ、〇▽※$$#@……」


 得意満面の表情で、高らかに呪文を唱えるメルセデス。ま、こいつはぼっち体質だ。褒められることなんか珍しいから、舞い上がっているんだろう。


 だけど大丈夫かな。魔物の角は、たぶん六十体ぶん以上ある。それに、サイの角ならまあ、一つ乾かすのに対した魔力は使わないだろうけど……トナカイの角は大きく重く、しかも水分をたっぷり含んでいる。あれを乾かそうとしたら、並みの魔力では続かない気がするけど……。


「ふっ、ふう……さすがに私でも、この数は厳しいですわね」


 二十分後。さすがの悪役皇女も、肩で息をしていた。そろそろ魔力が切れそうなのだろう。これまで三十体ぶん近く片付けているのだから、大したものだとは思うのだが……こいつの振る舞いを見ていると、褒める気になれない俺だ。


「ここまで頑張っていただいたのですからぁ、もう少しやれますよぅ、皇女殿下ぁ!」


 出たぞ、地獄の追い込みが。声がアレだから思わず油断してしまうけど、ニコルさんはやめさせてくれないのだ。まったくそうは見えないけれど、俺のまわりにいる女性の中で、闇一族以外で労働が一番ブラックなのは、間違いなく彼女だからなあ。仕事のためなら残業夜勤休日出勤なんでもありの彼女を見ていると、ついつい元世界で社畜だった自分を思い出してしまう俺だ。そして彼女は、自分だけでなく他の女性にも、それを要求する……たとえ相手が、皇女様であっても。


「さ、さすがに……」


 これ以上は無理だと言いたいのだろうが、あれだけドヤった後だけに、言いづらいのだろう。一瞬こっちをチラリと見たりしているけど、知らぬふりをする。俺が触れて、魔力補充をしてやればいいのだろうけど……さすがにさっき、痴漢扱いされて平手打ちを喰らったことにはまだ納得いっていないぞ。魔力が欲しいのなら、せめてそっちから頼んでくれないとな。


 メルセデスはまだ、ぷるぷる震えながら逡巡している。つくづくこういう無駄な意地や誇りってのは、生きていくには邪魔なもんだよなあ。この世界の人たちも、そろそろ気づけばいいのに。


 見かねたらしいグレーテルが、小さな肘打ちをかましてくる。まあここは確かに、こっちが大人の度量を示してやるべきときなのかもしれない。そう思った俺が口を開きかけたとき、先んじてメルセデスの高音ボイスが耳を打った。


「ル、ルートヴィヒ閣下! わ、わ、私に触れる許可を差し上げますわ」


「触れる? 私は皇女殿下に、女性としての興味は抱いていませんけれど」


 ようやくお願いする気になったようだが「言い方!」と百遍くらい説教したい気分だ。助けてやる気になっていた俺だけど、ついつい意地悪な応対をしてしまう。だってこの皇女、何かイラっとするんだもん。さっきのボス戦後、一瞬この娘が可愛く見えてしまったのは、気の迷いに違いない。


「そ、そういういやらしい話と違いますわ! わ、私に……」


「……はい?」


「お、お願いです、私に、魔力を下さいませっ!」


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