第418話 炎の宝剣
今回の獲物はなかなか良いものだった。地竜の革も骨も上等の素材になるし、その肉は最高級とされており、そもそも市場になど出回らない珍味だ。そして飛び切り大きく、ピジョンブラッドのルビーのように鮮やかな紅に輝く魔石もすばらしいもので……さっきからまた、狂喜したニコルさんが「ふしぎなおどり」を披露してくれている。
「ニコル、気持ちはわかるけど、今回の目的はメル様にアーティファクトをもたらすことなのよ、本題に戻りましょう」
「はっ、そうでしたぁ!」
その時にはもう、デリアさんが探知した「複数の魔力」源を、俺たちは見つけていた。ラスボスホールの隅っこの方に、幾つかの武器や装備が落っこちていて……そいつが魔力を放っているのだという。
「これが、アーティファクト?」
「おそらくは。アーティファクトの武装を身につけた冒険者の一団がリントヴルムに挑み、敗れたのでしょう。現代では冒険者がアーティファクトを二つも三つも手に入れることは不可能ですから……数百年、いえ千年以上昔のことだったのでしょうね」
「納得いたしましたわ。遠い昔にはこの迷宮も、冒険者には知られた存在だったのでしょうね。だけど地竜を倒せないまま時が過ぎ、いつしか魔の森に飲み込まれて忘れ去られたということでしょう……千年越しの攻略なんて、ロマンですわ! すばらしい論文、いえむしろ叙事詩が書けますわ!」
アヤカさんの推測に、メルセデスが表情を輝かせつつ食いつく。この子にとって迷宮は、自分の名を上げるための道具でしかないのかと思っていたけれど……どうやらそれは違うようだ。もちろん皇女として名声は必要だけれど、彼女はこの迷宮攻略を、かなり純粋に楽しんでいるらしい。
「本当ですわね。ですがまずはこのアーティファクトを見定めないといけませんわ。ニコル、どう?」
グレーテルに促されたニコルさんだけど、まだ言葉すら発せられないほど、アイテムをためつすがめつしている。彼女がこんなに時間をかけて鑑定をしている姿は、珍しいのだが……。
やがてニコルさんがふうっと、深く息を吐く。
「間違いなく、これは三つともぉ、一千年以上前のアーティファクトですぅ」
彼女が指し示す先には、一振りの剣、さらにメイスと、サークレットが一つずつ。サビもまったく浮いていないところを見れば、おそらくすべて、無垢の魔銀で造られているのだろう。地金の価値だけでもすごいお宝だ。
「まずはこの剣ですけどぉ……少量の魔力を注ぐと、持ち手の属性に関わらず、火の力が宿るようですぅ。誰でも魔法剣士になれるわけですねぇ。強力な武器ではあるのですけどぉ、火属性のリントヴルムとは、相性が悪かったようですねぇ」
そうだな、火を吐く竜に火の魔剣で挑んでもなあ。だけど火属性以外の戦士……たとえばグレーテルに持たせたら、相乗効果で面白いことになりそうだ。同じようなことを幼馴染も思ったようで、その口角が少し上がる。
「じゃあこの剣は、イレーネが持ちなさい。光と火を切り替えながら戦えば、不利な属性相性はなくなるでしょうから」
無造作に宝剣を掴み上げると、まるで立食パーティーで料理でも取り分けるかのように、ひょいと差し出すグレーテルに、イレーネさんの方がビビりまくっている。
「し、しかし奥様、このような国宝級のアーティファクトを、私のような……」
「今回の探索で得た宝物の処分は、私に任されているわ。メル様も、ベアトお姉さまも承知されてる。その私が言ってるのよ、その宝剣を持つにふさわしい騎士は、貴女よ」
きっぱりと言い切るグレーテルの姿を見つめるイレーネさんの目が、二割増し大きくなって……そこに決意の光が満ちる。
「な、なんたる光栄……このイレーネ、残る生涯のすべてを、奥様とそのご家族に、捧げさせていただきます!」
ひざまずいて感動の涙をとめどなく流すイレーネさんの肩に、グレーテルが宝剣の刃を軽く当てる。まさに「騎士の誓い」の場面だ。
ずいぶん簡単に、宝剣の扱いを決めちゃったもんだ。おそらくは、我が幼馴染の直感なんだろうなあ。
だけど、今のベルゼンブリュックでグレーテルを除いたら、イレーネさんに勝てる魔法剣士なんて、何人もいないだろう。アヤカさんやツェリなら勝てるのだろうけど、彼女たちの戦闘スタイルは、この宝剣……中世風のブロードソードを振るうのには向かないだろう。
それに「奥様の家族」を、彼女が守ってくれるのは、実に頼もしい。
ヴィーはまあ、心配ないだろう。すでに類まれな光属性の素質を発揮し始め、グレーテル自身による英才教育も始まっているのだから。ちょっとした賊や暗殺者の一山くらいなら、サクッと片付けるだろう。
だけど、もう一人の子ハルトには、心配しかない。もちろん男の子だから、身を守る魔法なんか使えるはずもないのに、おそらくこの子は不本意ながら、この国で一番価値が高い男児になってしまっている。
俺のSSランク種馬っぷりはもうどうしようもないくらい知れ渡ってしまっている。その俺と、英雄とも勇者とも讃えられるグレーテルの間に生まれた超良血のハルトに、次代の筆頭種馬としての期待が目一杯かかっちゃうのは、誰にでもわかる。そして、ハルトはすでに俺のモバイルバッテリー能力を色濃く受け継いでいる。そのへん気づかれたら、豪華護衛陣を抱える俺に手が出せないぶん、手薄なハルトをさらってとりあえずバッテリーとして使い倒し、思春期まで育てたら種馬として搾り取り放題、なんてことを考える奴も、いそうだからなあ。
どうやらレーアはハルトを守る気満々のようだけど、オークジェネラルの子である彼女はおそらく、魔法系が苦手だ。そこにイレーネさんが加わってくれたら……めっちゃ安心だ。今回の探索、俺にはあんまり美味しくないと思ってたけど、これが最大の恩恵になるのかも知れないなあ。




