第415話 ボスとアーティファクト
「これはぁっ! この世に楽園があるなら、それはここですぅ!」
ニコルさんが「ふしぎなおどり」を踊っている、何だかMPを吸い取られそうな気がする俺だ。
まあ彼女の狂喜は、わからないでもない。一体何百年ここでクモたちが営巣していたのかはわからないが、長い間ここでクモが捕食していた魔物たちの持っていた魔石が、巣を焼き払ったあたりに、まるで工事中の道路に敷いた砂利のように散乱していて……まさに取り放題になっているのだ。
「適当にしておきなさいね。これから先、まだ探索するのだから」
「それはぁ、わかっているのですがぁ……目の前に魔石がこんなにあったら、拾わないわけにはいかないのが、金属性というものなのですよぅ……」
「……仕方ない子ね。ニコルの荷物は、ルッツが持ってあげなさい」
ああ、やっぱりそう来たか。一回目に潜ったときと同じく、素材で一杯になるニコルさんのザックからあふれた荷物は、容量四倍、重量四分の一というチートザックを持つ俺が、代わりにかつぐことになる。まあ俺が断れば、それは同じチートザックを持つメンバーのとこに行く。まだガキのクリステルか、エースアタッカーであるグレーテル……それはよろしくない。不本意ながら、引き受けるしかないよなあ。
それにしても、グレーテルにかかると五歳年上のニコルさんも「仕方ない子」扱いだ。ツェリやイレーネさんには上司として振る舞っているのに、何だかニコルさんだけには保護者みたいな我が幼馴染だ。まあ、あのゆるふわっぷりを見たら、守ってあげたくなるわなあ。
「さあ、そろそろ先に進むわよ。アヤカのゲシュペンストが、行手を掃除してくれているようだし」
実質的なパーティーリーダーであるグレーテルの指示に、俺たちがうなずいた、その時。
「魔力の、反応があります! それも複数!」
これまで一言も発していなかったデリアさんが、驚いたようなトーンで、声を上げる。それは何らかの魔道具かアーティファクトが、近くにあるということ。このフロアに魔道具を持った冒険者が他にいるとは思えないし……アーティファクトが存在する可能性が、極めて高い。
「ど、どっちの方角?」
「ええっと……すみません、魔力切れで」
「ルッツ、補充して差し上げなさい」
はいはい、奥様の命令なら仕方ない、役得を行使させていただくとしよう。俺はデリアさんがまとう上衣の胸元をくつろげ、もう何度目かの生おっぱいを右掌に納める。最初の頃は毎回大騒ぎして恥じらっていた彼女も、多少の邪念はあれど無害な行為だということを認めてくれたみたいだ。無遠慮に乙女の胸へ手を突っ込む俺にちらりと視線を向けて頬を紅らめたくらいで、あとは真剣な表情で魔力を探り始める。
「感じます、三百メートルほど離れたところに、三個の魔力反応を」
おお三個か、意外に多いな。アーティファクトの発見は数年に一回だっていうけど、俺たちはすでに一個のアーティファクトを見つけている。ここに三個が加われば……名目上のリーダーであるメルセデスの声望は、大陸中にとどろくだろう。彼女の目論見がばっちり的中となるのだが……。
「ゲシュペンストの反応が、消えました。全滅した模様です」
やはり、そんなうまい話は、そう簡単に転がり込んではこないらしい。先行させていた百体くらいの亡霊たちがアーティファクトらしきもののある場所にたどり着いたその時、ほとんど瞬時に消滅させられてしまったのだ。そんな火力を持つ魔物は多くない、きっとそいつは……フロアボスも兼ねているのだろう。
やがてゲシュペンストが一体だけ、フラフラと戻ってきた。慎重なアヤカさんはこういう時に備えて、後方に伝令役を残していたらしい。
「トカゲのような魔物が火を吐いて、亡霊たちを一掃してしまったようです。おそらく竜族……こんな地中に棲む竜族といえば」
「おそらく、リントヴルムですわね」
メルセデスが即答する。さすがは王立学校首席卒業の才媛だ、俺もこっちの世界に来てからいろんな本で勉強したけど、そんなレア魔物の名前まで覚えちゃあいないぞ。
「古代の魔物なのでみなさんはご存知ないでしょうけど、文献には記録がありますわ。今風の言葉でいえば地竜……大きさは五メートルから十メートル、主たる攻撃手段は炎のブレスと尻尾による打撃、最後は噛みつきとされていますわね」
名前だけじゃなく、すらすらとその能力まで出てくるところに、感心してしまう。本当にすごい記憶力……マジでアデルとタメを張れるのではないだろうか。それにしても十メートルの竜って、伝説級なんじゃないの?
「あまり無理をしない方がいいんじゃ……」「毒は持っているの? 魔法は?」
ヘタれた俺の台詞に、グレーテルの高音がかぶさってくる。
「ないと断言はできないですけれど、文献に記載はなかったですわ」
「なら、やりやすい敵ね。さっさと片付けてしまいましょ!」
はあ、そうだった。最近なぜか優しくなったからすっかり忘れていたけれど、我が愛しき幼馴染は、生まれながらの戦闘狂だった。地に足をつけて戦える好敵手を前にして、引くわけがない。俺は今日一番の、深いため息をついた。




