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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第八部 新迷宮に挑む

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第413話 亡霊の大行進

 二回目の迷宮探検は、一気に進んだ。もう九階層まではアーティファクト探知の必要はないしな。多少は新しい魔物が湧いているけどそんな奴らはうちの頼れる前衛たちが交代で、まるでブルドーザーのように力押しで片付けてしまう。


「うん、もう先頭は、イレーネにまかせてよさそう。本当に、強くなったわね」


 グレーテルの賛辞に、くっころイレーネさんが誇らしげに胸を張る。張っても張らなくても変わらない我が妻のそれとは違って、イレーネさんは実に強力な胸部装甲をお持ちだ。思わずガン見してしまうのは、俺も男の子なんだから仕方ないだろう。


 前回アヤカさんが従えたゲシュペンストは、八階層で野生化していたが……アヤカさんの気合一発で従順な犬たちに戻った。そんなわけでまた俺たちは亡霊どもをぞろぞろ引き連れた不気味な大名行列に戻ったわけなのだが……もはや気味悪さにも慣れた。ミカエラに至っては彼らをなでなでしたり、べらべらと話しかけたりしている……あの能天気っぷりは、やっぱりどこかファニーに似ているなあ。


 一方、いつまでも亡霊の存在に慣れず、いつもびくびくしている奴らもいる。それはクリステル坊やと、意外なことにメルセデスだ。坊やは俺の六つ年下だって聞いてるからそれも無理ない話かもしれないが、あのいばりん坊皇女が亡霊が近づくたびに身を縮める姿は、なんだか新鮮だ。もの言いたげな俺の視線に気づき、慌てて背筋を伸ばして肩をいからせている様子を見ると、笑うしかない。


「わ、笑うなんて不敬ですわ!」


 目を吊り上げて怒られても、怖くもなんともないぜ。だって君は幽霊が怖い、お子様だもんな。さんざん軽く見られた仕返しだ、余裕の笑みなど送って、せいぜい悔しがらせてやろう。


 そんなこんなで九階層までは一気に突っ走り、いよいよ未踏の十階層だ。


 この階は入り組んだ通路を進む一般的な迷宮のイメージとは違って、天井が高くてだだっ広い空間のようだった。だけどなぜか一面に樹木がびっしりと生えていて……まるで森みたいだ。光合成ができないのにどうやって生きているのかとか、考えてはいけないのだろう。おそらくこいつらの栄養分は光や炭酸ガスではなく、魔力系のなにかなのだ。


 だけど俺たちの攻略速度は、木のおかげでずいぶん遅くなってしまった。だって樹木の枝が横に広がって……視界が制約されるぶん、どこから魔物が飛び出してくるか、気を配らないと危険だからな。


「う~ん、面倒ね! ギーゼラさんの火魔法で焼き払ってしまいましょ!」


「ダメですっ、グレーテルお姉様!」

「私もそれはマズいと思います、奥様」


 グレーテルのおおざっぱ極まりない提案を、ミカエラとイレーネさんが慌てて抑える。そう、冒険者として働いたことがあるメンバーは、実質この二人だけなのだ。


「地下で火事を起こしたら、煙が晴れるまで動けなくなりますっ!」

「息も苦しくなりますし、最悪は……」


 そうだよね。迷宮に給排気設備があるなんて聞いたこともないし、こんな閉鎖空間で大火事を起こしたら、酸欠になりかねないわなあ。


「あ、貴女たちがそう言うんだったら……仕方ないわね」


 俺様マインドの我が幼馴染も、この二人のことは信頼しているらしい。渋々といった風情で矛を収める姿をみて、ほっと胸を撫で下ろす俺だ。


「ゲシュペンストを斥候に出して進めば、ある程度安全かと」


 さすがはアヤカさん、いい手を考えるもんだ。誰にも異存があるはずもない。音もなくさあっと亡霊どもが前方に飛んで……魔物が騒ぐ音がちょっと聞こえたけれど、まもなく静かになった。


「さあ、進みましょう。アゲハ、目印をつけていくのを忘れないように」


 こんどはアヤカさんが先頭に立つ。そう、こんな視界の利かない場所での行動は、闇一族に一日の長がある。彼女の命令に従って、アゲハが近くの幹に忍び刀で何やら不思議なマークを彫っていく。


 樹木の間をすり抜けていくと、足元にゴブリンやオークの死骸が転がっている。おそらくアヤカさんが飛ばしたゲシュペンストたちが、露払いをしてくれたのだろう。


「アヤカの魔法は、とても便利ね。場所を選べば私でも勝てないかも」


 グレーテルが感心している。まあ確かに、死霊や死骸の類を際限なく従えられるというのなら、それは補給もいらず死も恐れない軍隊を率いているのと同じことだ。単騎なら最強のグレーテルでも、苦戦を免れまい……ド〇ル閣下の言葉じゃないが、戦いは数なのだ。


「でもしょせんは死霊ですから、こういうこともあります」


 そう言ってアヤカさんが指差す先には、白く巨大なクモの巣がいくつも張って……イノシシくらいの大きさがある黄色の胴体に赤と黒でおどろおどろしい紋様が描かれた、ばかでかいクモが、十数体いた。脚を広げると二メートルくらい、威圧感のある魔物だ。亡霊たちは確かにここを通ったはずなのだが、オークなんかは倒しても、クモはスルーなんだ。


「ゲシュペンストには、敵意を向けてくるものだけと戦うように命じていますので」


 なるほど。巣に引っかかった生き物には素早く攻撃を仕掛けてくるクモだけれど、亡霊はクモの糸に捕らわれることなく、するっと通り抜けてしまう。当然、クモが亡霊たちを襲うこともなく……結果として戦いは起こらず、亡霊たちはこんな厄介な敵をそのままに、先に行ってしまったというわけか。


「うん、ようやく私たちの出番ね! 任せておいて!」


 もちろん張り切ったその言葉は、愛しき幼馴染のものだった。



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