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ラ・カーム戦記  作者: 神名 信
62/70

第62話

 ラ・カームが稽古をしている間にキヌアに対し、ロズオブニア行政庁から呼び出しがあった。

 ロズオブニアは魔法と機械の発展が目覚ましく、農作業から輸出用機械製品の製造までほとんどエルフたちが関わらずに自動的に生産される。

 それゆえ、ロズオブニアの住民は労働というものから解放されている。

 エルフたちは、その長い生涯を好きな研究や剣術、魔法・芸術などの分野に費やすことができた。

 政治にはあまり興味がないエルフが多く、行政庁はあるが当番制で十名程度の議員が選ばれ、国の実務はその議員によって運営されていた。

 ただし、ロズオブニアの利害に大きく関わる事案については全住民の投票で過半数を得なければならない。

 キヌアが行政庁に呼ばれたのは、ラ・カームの件についての事情聴取であった。

 「だいたいの話は聞いているが、キヌアのやっていることはロズオブニアとラ・カーム王国との政治的な緊張を生みかねない、なぜ君はそんな重大なことを勝手に進めている」議員の一人がキヌアに問いかけた。

 「私は義理の娘のボーイフレンドが困っているのをほっておけないだけです」

 「事はそんなに軽いものではないだろう、茶化しているのか?」

 「ロズオブニアはイグニクェトゥアとラ・カーム王国の戦争を千年もほったままだ、その間にどれだけの悲劇が起こっているとお考えですか」キヌアは少し強い口調で言った。

 「我々は、相互不干渉によってロズオブニアの平和を保っている、それを変更するような決定はなされていない」

 「そんなことは分かっています、ですが、いい加減調停に乗り出すべきではないでしょうか、両国が戦争状態にあったほうが都合いいのかもしれませんが」

 「君のご高説を聞くために呼び出したわけじゃない、君はロズオブニアの住民として重大な違反を犯している、このままでは君は国外追放となるということだ」それまで黙っていた議長がキヌアに告げた。

 「ロズオブニア議会がそのように決定したのなら、それでけっこうです」キヌアは言い放って、席を立った。


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