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ラ・カーム戦記  作者: 神名 信
60/70

第60話

 寝室に案内されてから、ラ・カームはソード・オブ・ラーについて考えていた。

 キヌアさんの言う通りかもしれない、でも、ソード・オブ・ラーがラ・カーム王国を創ったとも言える。

 あの剣を破壊するということは、ラ・カーム王国そのものを否定することに、ラ・カーム王国の衰退を招くのではないか。

 ラァとラナの命を助けるためにやっていいことなのか。

 ラ・カーム王国が成立したことで、奴隷のように扱われていた非市民階級は王国内でも、イグニクェトゥアですら市民権を得ることができた。

 ソード・オブ・ラーが失われても、時代が逆行することはないだろうけど・・。

 でも、二人を見殺しにするなんてできるわけがない、助けるためにはソード・オブ・ラーを破壊するしかない・・けど

 ラ・カームの頭の中で色々な考えが巡ってなかなか答えは出てこなかった。

 

 ラ・カームが葛藤しているとドアをノックする音がした

「はいっていいですか?」サーシャの声がした。

 「いいよ」ラ・カームは短く返事をした。

 「ソード・オブ・ラーのこと考えています?」

 「まぁ」

 サーシャは窓の方へ歩いて外を見ていた。

 「ここから見る森の様子好きなんですよね、今日は月が綺麗ですよ」

 「ああ、そういえば全然外も見てなかったな」

 ラ・カームはサーシャの隣に立って窓の外の景色を見ていた。

 「私にはほんとの家族はいません」

 「そうだよね・・・」

 「だから、ラ・カーム様のこと、どんなに苦しいのかも分からないです、でも、ソード・オブ・ラーといっても所詮モノです、ラァ様やラナ様の命とは比べようがないですよ」

 少し間をおいてからラ・カームが答えた。

 「所詮モノか・・・」

 「今の王国には、ソード・オブ・ラーなしでもイグニクェトゥアを退ける軍事力があります、この前の北部森林の戦いもそうじゃないですか、剣の一本や二本どうってことないですよ!」

 「簡単に言うなぁ、・・でも僕にはその選択しかないみたいだ・・・ありがとう」

 「お礼を言うのはお二人を助けてからですよ、お二人が意識ないうちにラ・カーム様を口説くのはずるいやり方ですから、お二人の目が覚めてから改めて勝負します」

 「はは、そのほうが僕にとっては大変なことになりそうだ」

 「逃げないでくださいよー」

 「どうも、その問題は答えが出る気がしなくて・・」

 「そろそろ部屋に戻ります、なにがあっても私はラ・カーム様の味方ですからね」

 「サーシャ・・ありがとう」

 「はい!」元気よく返事をしてサーシャは部屋を出て行った。


 朝になるとキヌアが三人分の食事を作ってくれていた。

 「わぁ!美味しそう」サーシャが声をあげた。

 森の山菜がメインのサラダとベーコンエッグにサンドイッチがそれぞれの椅子の前に置かれていた。

 「ありがとうございます」ラ・カームが礼を伝えて席に着いた。

 「お口に合えばいいのですが」

 「師匠の食事はおいしいんだよー、絶対ラ・カーム様も気に入ると思う」

 「いただきます」そう言ってラ・カームはサンドイッチをほおばった。

 「・・!美味しい!」

 「でしょでしょ!師匠の料理は半端なく美味しいんだから」

 「光栄です殿下」

 「師匠が上手すぎて私、料理は戦意喪失しました」

 「サーシャ、料理くらいはできるようになりなさい」キヌアがたしなめる。

 「はーい」サーシャは返事だけは元気にした。

 ラ・カームはそんな二人のやりとりを楽しそうに見ていた。


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