第60話
寝室に案内されてから、ラ・カームはソード・オブ・ラーについて考えていた。
キヌアさんの言う通りかもしれない、でも、ソード・オブ・ラーがラ・カーム王国を創ったとも言える。
あの剣を破壊するということは、ラ・カーム王国そのものを否定することに、ラ・カーム王国の衰退を招くのではないか。
ラァとラナの命を助けるためにやっていいことなのか。
ラ・カーム王国が成立したことで、奴隷のように扱われていた非市民階級は王国内でも、イグニクェトゥアですら市民権を得ることができた。
ソード・オブ・ラーが失われても、時代が逆行することはないだろうけど・・。
でも、二人を見殺しにするなんてできるわけがない、助けるためにはソード・オブ・ラーを破壊するしかない・・けど
ラ・カームの頭の中で色々な考えが巡ってなかなか答えは出てこなかった。
ラ・カームが葛藤しているとドアをノックする音がした
「はいっていいですか?」サーシャの声がした。
「いいよ」ラ・カームは短く返事をした。
「ソード・オブ・ラーのこと考えています?」
「まぁ」
サーシャは窓の方へ歩いて外を見ていた。
「ここから見る森の様子好きなんですよね、今日は月が綺麗ですよ」
「ああ、そういえば全然外も見てなかったな」
ラ・カームはサーシャの隣に立って窓の外の景色を見ていた。
「私にはほんとの家族はいません」
「そうだよね・・・」
「だから、ラ・カーム様のこと、どんなに苦しいのかも分からないです、でも、ソード・オブ・ラーといっても所詮モノです、ラァ様やラナ様の命とは比べようがないですよ」
少し間をおいてからラ・カームが答えた。
「所詮モノか・・・」
「今の王国には、ソード・オブ・ラーなしでもイグニクェトゥアを退ける軍事力があります、この前の北部森林の戦いもそうじゃないですか、剣の一本や二本どうってことないですよ!」
「簡単に言うなぁ、・・でも僕にはその選択しかないみたいだ・・・ありがとう」
「お礼を言うのはお二人を助けてからですよ、お二人が意識ないうちにラ・カーム様を口説くのはずるいやり方ですから、お二人の目が覚めてから改めて勝負します」
「はは、そのほうが僕にとっては大変なことになりそうだ」
「逃げないでくださいよー」
「どうも、その問題は答えが出る気がしなくて・・」
「そろそろ部屋に戻ります、なにがあっても私はラ・カーム様の味方ですからね」
「サーシャ・・ありがとう」
「はい!」元気よく返事をしてサーシャは部屋を出て行った。
朝になるとキヌアが三人分の食事を作ってくれていた。
「わぁ!美味しそう」サーシャが声をあげた。
森の山菜がメインのサラダとベーコンエッグにサンドイッチがそれぞれの椅子の前に置かれていた。
「ありがとうございます」ラ・カームが礼を伝えて席に着いた。
「お口に合えばいいのですが」
「師匠の食事はおいしいんだよー、絶対ラ・カーム様も気に入ると思う」
「いただきます」そう言ってラ・カームはサンドイッチをほおばった。
「・・!美味しい!」
「でしょでしょ!師匠の料理は半端なく美味しいんだから」
「光栄です殿下」
「師匠が上手すぎて私、料理は戦意喪失しました」
「サーシャ、料理くらいはできるようになりなさい」キヌアがたしなめる。
「はーい」サーシャは返事だけは元気にした。
ラ・カームはそんな二人のやりとりを楽しそうに見ていた。




