第53話
その頃、近衛団本部ではシュナイゼルが焦っていた。
当初、皇子とサーシャについては、すぐに身柄を確保できると考えていた。
皇子たちは目立つし、服装についても特徴的だったので目撃情報も多く寄せられると思っていたが、王都を出てからの情報が全くなかった。
・・・まさか、魔術院がかくまっているのか?
しかし、あからさまに国王に逆らうことを魔術院がするとは考えづらかった。
近衛団保有の百機のグリフォンも王都を中心に探索させているが、今のところこれといった情報はなかった。
近衛団では、王都近隣の町に潜伏している確率が最も高いと考え、それ以上に船などを使い遠くへ行くということはないと考えていた。
皇子には王都以外に土地勘はないし、サーシャについては身寄りがないという情報しか得ていなかったためである。
シュナイゼルが思案に暮れていると、一つの情報が入ってきた。
『港町ユーラに二人と思われる人物が宿泊している』
それまでも、このような情報はあったが、この情報はかなり精度が高いようだ。
真偽を確かめるため、シュナイゼルは部下五名とともに、グリフォンに乗りユーラに向かった。
ユーラに着いたのはラ・カームたちが既に乗船した後であったが、情報の宿はすぐに見つかった。
荒々しく宿の扉を叩く
「誰だい」扉の奥から声がした。
「近衛団だ、開けろ」近衛団の一人が声を荒げた。
やれやれ、といった感じで扉が開かれた。
「お前が店主か」
「はい」物怖じせずに答える。
「ここに、若い女と十歳くらいの男の子が泊まっているか」
「さて、どうですかね、うちはお金だけ払ってもらえれば名簿の管理はしてないので」
「中に入らせてもらうぞ」シュナイゼルは言って宿に入った。
店主も近衛団だと分かると、先日のように抵抗することはなかった。
「近衛のだんなたちがなにをしているんです」
「余計な詮索はしないほうがいいな」団員の一人が話した。
「へえへえ」
シュナイゼルは玄関に残り、他の五名の団員は一つずつ部屋を調べて行った。
宿の部屋の数は十五部屋しかなかったので、捜索はすぐに終わった。
「団長、みつかりませんでした」一人の団員がシュナイゼルに報告した。
「誤報だったのか・・それとも・・・」シュナイゼルは呟いた。




