第52話
「ふう」安堵のため息を二人は同時にもらした。
「ラ・カーム様、すぐに着替えて、風邪ひきますよ」
「うん、僕の分まで荷物持たせちゃってごめん」
「そんなこと気にしないでいいから」
ラ・カームはずぶ濡れの服を脱ぐとタオルで体を拭いた。
「わ、サーシャ見てないでよ、照れるって」
「ラ・カーム様の体、筋肉がすごいなって」
「いつかもそんなこと言っていたよね」
「シスコンさえなければなのにぃ」
「そんなこと言われても・・・」
「それより、僕らの動きは諜報部がもうマークしている」ラ・カームが着替えながら言った。
「え・・いつ・・っていうか、諜報部ですか・・・」
「うん、近衛じゃなくって良かった、枢密院と軍部はあまり仲良くないからね」
「そうですね、ラ・カーム様が近衛団に捕まらなければ軍部の大きな失点となりますからね」
「ただ、逆に枢密院が軍部に貸しを作るってことで情報を流すことも考えられる」
「ですね、ロズオブニアまで四日かかるから、もしかしたらその間に接触してくる場合も考えられます」
「そうなったら、この前の宿みたいにはいかないだろうね」
「はい・・・」サーシャは言って少し渋い表情になった。
ラ・カーム王国は王家に権力が集中し、国権の最高機関は国王であるが、軍部・魔術院・枢密院はそれぞれ実質的な権力を握っていた。
軍部は、王家に忠誠を尽くし最高指揮官である国王の下に近衛団・北部方面軍・南部方面軍・ダ・ゴール自衛軍が存在する。
魔術院は王国の魔術師の育成・認定の他王家に対して様々な助言を与えていた。
枢密院は行政全般にわたり王家から委任されており、また王国金貨等の発行など経済面でも中心的な役割を担っている、さらには諜報部が枢密院指揮下にあり王国の治安維持や各種諜報活動も担っていた。
軍部・魔術院・枢密院は王家に従属しながらも、互いにある程度の緊張関係にあり、特に軍部と枢密院はことあるごとに対立して、魔術院が仲裁に入ることもしばしばであった。
ラ・カームとサーシャのロズオブニア行きについても、諜報部から枢密院院長ユー・ロウにはすでに報告が上がっていた。
「どうするかな」ユー・ロウは副院長マル・ラキに言った。
「一つは、近衛団にそのまま情報を流せば殿下確保の功績について我々の得点となります」
「まあ、そうだが・・・」
「次に、情報を伏せておくと、近衛に打撃を与えるとともに、殿下には貸しができます」
「ふむ」
「さらには、諜報部が独自に皇子確保に動くことも考えられますが、それは失敗したときの責任も含め、あまり推奨できません」
「殿下たちは今頃定期船か」
「そう思われます」
「サーシャが同行しているということは、魔術院が協力しているとみるべきだな」
「そこは、憶測の域を出ないかと」
「魔術院はなかなか尻尾を出さないからな」
「はっ」
「さて・・どうするか」ユー・ロウは顎に手を当てながら考えた。
今回、皇子の確保については近衛団に一任されていて、諜報部など他の機関にはなにも命令されていなかったことから、枢密院の判断も迷うこととなった。
「ロズオブニアへの定期船には、諜報部も同乗しているな」
「はい」
「今回は殿下の所在のみ把握しておく」
「しかし、ロズオブニアに入られると、こちらはそれ以降追跡できませんが」マル・ラキが指摘した。
「ロズオブニアに入っても殿下はなにもできないだろう、あそこのエルフたちも積極的にかかわることはないだろう」
「はい、そのように命じておきます」




