第54話
乗船二日目、二人は狭いベッドの上で目を覚ました。
「おはよう、ラ・カーム様」
「ん・・おはよー」眠い目をこすりながら、ラ・カームが言った。
「かわいぃ」言いながらサーシャはぎゅっとラ・カームを抱きしめた。
「わ、サーシャ苦しいよ」
「だって、ラ・カーム様がかわいいからぁ」
「あ、うん・・・でも、僕は密航だからあまり声出さないほうがいいよ」
「ですね、密航は罪が重いですからね」
「あと三日、僕は部屋にこもってないといけないね」
「ですね、追跡のほうもどこまできているのか、諜報部は乗っているとみたほうがいいでしょうね」
「でも、ここまで来れたってことは、諜報部は情報収集だけなのかもしれない」
「ですかね、まだ断定しないほうがいいでしょうね」
「たしかに」
ラ・カームが部屋に残って、サーシャは船内の様子を見にいくことにした。
ロズオブニアのエルフは人間とはあまり交わらないが、多少の交易はしていた。
ラ・カーム王国からは、特産品の金の装飾品などがもたらされ、ロズオブニアからは精密な機械などが輸入された。また、ロズオブニアはイグニクェトゥアとも交易をしていた、
ロズオブニアの機械類に関しては製造方法含めて全く不明であった。
ロズオブニアの機械は、ロズオブニア特産のクリスタルを動力源とすることで、懐中時計から金鉱掘削用の機械まで幅広いものがあった。
商船が行きかうほどの流通量ではないが、ロズオブニアの機械は王国内でとんでもない高値がつき、認められた少数の商人たちは多くの富を手に入れていた。
今、ロズオブニアに行く船に乗っている者も、ほとんどは商人であった。
定期船は順調に進んでいた。
「お嬢さん、珍しいね」サーシャは四十代くらいの男性から声をかけられた。
「わたしですか」
「ロズオブニアに観光で行く人はいないだろ、おじょうちゃんは何をしに行くんだ」
「言わないといけないんですか」
「いや、そうじゃないが、珍しいと思ってね」そのまま男は黙り込んだ。
・・・やっぱり怪しまれるか。
この定期船にサーシャのような若い女性が乗っていることが不審だった。
サーシャは足早に客室に戻った。
「どうだった?」ラ・カームが尋ねる。
「あまり情報は集められませんでした、私が乗っていることのほうが違和感あって、目につく行動は控えたほうがいいようです」
「たしかにそうかもしれないね」
それからロズオブニアの港に着くまで、ラ・カームは客室に閉じこもっていたし、サーシャも食事など以外は客室からなるべく出ないようにしていた。
そして、ユーラを出て四日目の朝、とうとうロズオブニアに着いた。
手筈通り、ラ・カームは、到着直前に船から飛び降りて、泳いで港から少し遠くの岸に着いた。
ロズオブニア地方は、ラ・カームに比べるとかなり寒かった。
海岸から少し入ると巨大な森となっていて、その森が侵入者を拒んでいるように見えた。
ラ・カームとサーシャは再び落ち合い、ラ・カームの着替えが終わるとこれからの予定について確認した。
「キヌアさんと、どう落ち合うの?」ラ・カームが聞いた。
「師匠にはこの船で到着すると伝えてあるので、多分このまま待っていれば合流できると思います」
「船に諜報部の人乗っていたかな・・・」
「さあ、どうでしょう、多分乗っていたとは思いますが、気配は感じなかったですよね、どちらにしても、ロズオブニアに入ってしまえばもう追っては来れないと思います」
「だね、キヌアさんに迷惑がかからなければいいけど」
「師匠は私を拾ったときからもう人間界に関わっているんですから、大丈夫です」サーシャが堂々と迷惑気なことを言った。
二人が話していると、森の方から長身のエルフが歩いてきた。
瞬間
「ししょぉ~」叫んでサーシャが走っていった。
サーシャがエルフに抱き着く。
「久しぶりだな、サーシャ」
エルフはまだ二十代の青年のように見えた。
髪は金髪で青い瞳、尖った耳をしていた。
「初めましてラ・カーム殿下、キアヌと申します」サーシャに抱き着かれたまま、キアヌがラ・カームに伝えた。
「初めましてキアヌ様、ラ・カームと申します、ご迷惑をおかけします」
「殿下お気になさらず、話はサーシャから聞いていますので」
「あ」抱き着いている手を放して、サーシャは二人の間に立った。
「えっと、こちらがラ・カーム殿下で、こちらがキヌア師匠です」照れながらサーシャが二人に言った。




