第39話
十月半ば、ラ・カームの下に書状が届いた。
十月三十日に皇子親衛隊発隊式を王宮で行うので、サーシャを連れてくるようにという内容であった。
サーシャの喜びようはたいしたものだった。
「私、王宮に行くの初めてなんです!」
「そうだったんですね」
「なにを着て行ったらいいのかしら」
「サーシャさんなら何を着ても似合いますよ」
「ラ・カーム様、そんな言い方すると彼女に怒られますよ」
「え、そうなの?」
「そうですよ、女の子はきちんとこれがいいね、とか言ってほしいものなのです」
「あ、そうなんだ、気を付けます」
「そこのところは、まだまだ殿下に教えられる余地がありそうですね」
「よろしくお願いします」
「そもそも、そんなにかしこまらなくてもいいじゃないですか、私はラ・カーム様の直属の部下なんですから、もっと横柄な言い方でもいいんですよ」
「いや、なんかそういうのは苦手で」
「まあ、そこがラ・カーム様のいいところなんですけどね」
二人のやり取りを見ながら、シュナイゼルも少しほっとした。
・・・ラ・カーム殿下も少しずつ元気を取り戻している、サーシャの人事については魔術院の推薦だったが、レイ・ミス院長の卓見というところか。
当日はそうそうたるメンバーが王宮に集まった。
主催者はラ・ヌカ国王であるから、国王が出席するのはももちろん、軍部からは北部方面軍団長のダナ・カシム、近衛団団長シュナイゼル、南部方面軍団長アリヌ・リセ、枢密院からは、ユー・ロウ院長、魔術院からはレイ・ミス院長が出席し、また王都にいるほとんどの王族・貴族が出席した。
ラ・カームは正装をして、ドレス姿のサーシャを連れて会場の中央にいた。
乾杯の音頭はダナ・カシムが行った。
「皇子親衛隊発足おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
音頭に合わせて会場から幾百の声が響いた。
皇子親衛隊には既に軍部・魔術院含めて応募者が殺到していたが、現状ではまだ拡大する予定はなかった。
そもそも、現状親衛隊の役割は皇子の護衛しかなかったので、今後皇子の成長とともに随時発展させていく予定であった。
華やかな宴の中、少しでも皇子の心象を良くしようとするつもりなのか、多くの出席者がラ・カームの下へ訪れた。
「ラ・カーム様がいてくだされば、イグニクェトゥアが降伏するのも時間の問題ですな」
「西のメノ・インヴォースまで遠征できるのではないか」
「レグニ・ヤーローに至ってはなにもせずとも軍門に下ります」
楽観的なことを言いながら、ラ・カームを称賛していた。
・・・僕は、
その中で、ふと見知った顔がいた。
「チナさん」
ラ・カームから声をかけた。
「あ、殿下、おめでとうございます」
「チナさんにお礼を言わなきゃいけないんだ、チナさんのプラスエンチャントの短剣がすごいんだよ」
「そうなんですか?お役に立てて光栄です。私はみなさんに引っ張ってもらって、今では王都の魔術院に行かせていただいているのです、マジシャンの称号までもらえたんですよ、ラナ様やラァ様、ラ・カーム殿下のおかげです」
「それは、おめでとう、ラァやラナも喜ぶよ」
「今日、お二人はいらっしゃらないんですか?」
それを聞くとラ・カームは寂しそうな顔をして
「ちょっと今日は気分が悪いみたいなんだ」
「そうなんですね、お二人にもお会いしたかったけど、ラ・カーム殿下の晴れ舞台に出席させて頂いただけでも光栄です」
「また、クアナ湖の話でもしよう、四人でさ」
「はい、是非」




