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ラ・カーム戦記  作者: 神名 信
39/70

第39話

十月半ば、ラ・カームの下に書状が届いた。

 十月三十日に皇子親衛隊発隊式を王宮で行うので、サーシャを連れてくるようにという内容であった。

 サーシャの喜びようはたいしたものだった。

 「私、王宮に行くの初めてなんです!」

 「そうだったんですね」

 「なにを着て行ったらいいのかしら」

 「サーシャさんなら何を着ても似合いますよ」

 「ラ・カーム様、そんな言い方すると彼女に怒られますよ」

 「え、そうなの?」

 「そうですよ、女の子はきちんとこれがいいね、とか言ってほしいものなのです」

 「あ、そうなんだ、気を付けます」

 「そこのところは、まだまだ殿下に教えられる余地がありそうですね」

 「よろしくお願いします」

 「そもそも、そんなにかしこまらなくてもいいじゃないですか、私はラ・カーム様の直属の部下なんですから、もっと横柄な言い方でもいいんですよ」

 「いや、なんかそういうのは苦手で」

 「まあ、そこがラ・カーム様のいいところなんですけどね」

 二人のやり取りを見ながら、シュナイゼルも少しほっとした。

 ・・・ラ・カーム殿下も少しずつ元気を取り戻している、サーシャの人事については魔術院の推薦だったが、レイ・ミス院長の卓見というところか。


 当日はそうそうたるメンバーが王宮に集まった。

 主催者はラ・ヌカ国王であるから、国王が出席するのはももちろん、軍部からは北部方面軍団長のダナ・カシム、近衛団団長シュナイゼル、南部方面軍団長アリヌ・リセ、枢密院からは、ユー・ロウ院長、魔術院からはレイ・ミス院長が出席し、また王都にいるほとんどの王族・貴族が出席した。

 ラ・カームは正装をして、ドレス姿のサーシャを連れて会場の中央にいた。


 乾杯の音頭はダナ・カシムが行った。

 「皇子親衛隊発足おめでとうございます!」

 「おめでとうございます!」

 音頭に合わせて会場から幾百の声が響いた。

 皇子親衛隊には既に軍部・魔術院含めて応募者が殺到していたが、現状ではまだ拡大する予定はなかった。

 そもそも、現状親衛隊の役割は皇子の護衛しかなかったので、今後皇子の成長とともに随時発展させていく予定であった。

 華やかな宴の中、少しでも皇子の心象を良くしようとするつもりなのか、多くの出席者がラ・カームの下へ訪れた。

 「ラ・カーム様がいてくだされば、イグニクェトゥアが降伏するのも時間の問題ですな」

 「西のメノ・インヴォースまで遠征できるのではないか」

 「レグニ・ヤーローに至ってはなにもせずとも軍門に下ります」

 楽観的なことを言いながら、ラ・カームを称賛していた。

 ・・・僕は、

 その中で、ふと見知った顔がいた。

 「チナさん」

 ラ・カームから声をかけた。

 「あ、殿下、おめでとうございます」

 「チナさんにお礼を言わなきゃいけないんだ、チナさんのプラスエンチャントの短剣がすごいんだよ」

 「そうなんですか?お役に立てて光栄です。私はみなさんに引っ張ってもらって、今では王都の魔術院に行かせていただいているのです、マジシャンの称号までもらえたんですよ、ラナ様やラァ様、ラ・カーム殿下のおかげです」

 「それは、おめでとう、ラァやラナも喜ぶよ」

 「今日、お二人はいらっしゃらないんですか?」

 それを聞くとラ・カームは寂しそうな顔をして

 「ちょっと今日は気分が悪いみたいなんだ」

 「そうなんですね、お二人にもお会いしたかったけど、ラ・カーム殿下の晴れ舞台に出席させて頂いただけでも光栄です」

 「また、クアナ湖の話でもしよう、四人でさ」

 「はい、是非」


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