第34話
帰路の馬車の中では全員が厳しい顔つきをしていた。
その中でラナが苦しそうな呼吸を始めた。
「ラナ様大丈夫ですか?」ミルシャが声をかけた。
「少し苦しくて」
ラナがそう言うとほぼ同時にラァも同様の症状に見舞われた。
「ラァ?」ラ・カームが声をかける。
ラァもラナも全身に熱が出て、ひどい汗も出ている。
ミルシャとラ・カームが体の汗を拭き、シュナイゼルは部下に命じて濡れた布を用意させた。
汗は拭きとれても、熱が下がる様子はなかった。
「普通の病気には効果はないはずだけど」言いながらミルシャが水魔法のラ・キュリス
とラ・ケア、それぞれに魔法ダメージ治癒と物理ダメージ治癒の術式をかけた。
そうすると、幾分二人の状態がよくなったようだが、二人とも意識がない。
「すまないが、ミルシャは王都まで術式をかけ続けてくれ」シュナイゼルが言った。
「はい」ミルシャも二つの術式を同時に二人にかけているので、相当な集中力が必要なはずだが、なんとかこなしていた。
「ラァ、ラナ」ラ・カームは自分の無力が悔しかった。
・・・敵襲が来た時も僕はなにもできなかった。今もそうだ。千年伝承の王子と言われても僕はシュナイゼル団長やミルシャ先生に守られているだけで、ラァやラナを助けることもできなくて。
ラ・カームの内心の葛藤も抱えながら馬車は一路王都へ向かっていた。
その頃、王都ラーでは北部森林の戦いで王国軍が勝利したこと、クアナ湖で不思議な発光現象によりサイレントキラーを撃退したことがもたらされ、市民はその二つの情報により、ラ・カームがイグニクェトゥア軍全軍を破った英雄だと噂していた。
「やっぱり千年伝承の皇子だ!」
「この世に降臨された神だと思うわ」
「ラ・カームの未来に光がもたらされた」
市民は口々にラ・カームを称賛し、神として心棒するものすらでていた。
王都にラ・カームたちを乗せた馬車群が到着したときは二十万を超す市民が熱狂的に迎えていた。
王都守護隊は馬車に近づかせないように、必死で王宮までの動線を確保していた。
「ラ・カーム殿下!」
「ラ・カーム王国万歳」
地響きのような歓声が王都を包んだ。
馬車の中でラ・カームはその声が遠く聞こえていた。
王宮には、パク・ドラゴンが先行しており事の詳細は伝えられた。
ラ・ヌカ国王とナスタシャ王妃は車寄せまで直々に迎えに来ていた。
「このたびは私の力不足です、どのような処罰も受ける覚悟です」シュナイゼルが首を垂れながらラ・ヌカ国王に言った。
「シュナイゼル、大義であった、咎めはない」
ナスタシャ王妃は意識の戻らないラァとラナを侍女に寝室へ運ばせた。
「ラ・カームお帰りなさい」ナスタシャが言った。
「母上、すみませんラァもラナも意識が・・・」
ナスタシャは責任感で顔が真っ青になっているわが子をぎゅっと抱きしめた。
「ラ・カームあなたはなにも気にしなくていいから」
「学校のほうも少し休みになるし久しぶりに王宮でゆっくりしてなさいね」
「母上」ラ・カームは今まで張りつめていた緊張感が切れ、涙がとめどなくあふれていた。
・・・もっと強くなりたい。




