第35話
ロズオブニアへ
ラ・カーム王国では政治・軍事にわたり最高機関はラ・カーム王であり、現国王ラ・ヌカがその重責をになっていた。
そして、国王の補佐機関として枢密院と魔術院がそれぞれ助言を与える役目を担っていた。
御前会議にて、今回の北部森林の戦いの分析と今後のイグニクェトゥアとの外交が話し合われた。
御前会議のメンバーは、ラ・ヌカ国王の他、軍部からはダナ・カシム北部方面軍団長、シュナイゼル近衛団長、アリヌ・リセ南部方面軍団長が、枢密院からはユー・ロウ院長、マル・ラキ副院長、魔術院からはレイ・ミス院長、ミナ・ザ副院長である。
口火を切ったのはダナ・カシムであった。
「イグニクェトゥアは今回の戦いで失ったのはドラゴン部隊だけで、戦力としてはかなりの大部隊を温存している、可能性としては近いうちの戦争もありうる」
「しかし、遠征には資金が必要だ、今回の遠征で相当の資金を浪費したであろうイグニクェトゥアには近い将来大規模な作戦が立てられるとは思われない」ユー・ロウ院長がそう反論した。
「今回、そもそも枢密院付属の諜報部はどのような働きをしていたのですか、イグニクェトゥア集結の情報があまりにも遅かった」軍部の意見を代表するようにダナ・カシムが言った。
「諜報部と言っても神ではない、イグニクェトゥアの動きが全てわかるわけではないのだよ」
「二十万の兵が集まっているのも分からないようでは、なんの役に立つかそれこそ資金の無駄でないのか」皮肉たっぷりにダナ・カシムが言った。
「やめないか、ダナ・カシム、諜報部からの情報があったからこそグリフォン部隊も間に合ったし、作戦のたてようもあった」魔術院のレイ・ミスが中立的な立場から言った。
「どちらにしても、イグニクェトゥアに対する警戒は必要だ、諜報部にしても北部方面軍にしても警戒は引き続き頼む」ラ・ヌカ国王がこの議論を締めくくった。
「はっ」その場にいる全員が声をそろえた。
「また、今回の戦闘においてはグリフォン部隊の戦功は大きい、がリザ・ゼロ術式に対する脆弱性も露見された、アリヌ・リセはその点なにかあるか」国王が質問した。
「はい、パク・ドラゴン部隊に対してこちらは数・質ともに圧倒しており、またドラゴンを召喚することができても今回の戦争でイグニクェトゥアが失った熟練のドラゴン部隊隊員の喪失を考えると、制空権においては圧倒的にわが軍の有利であると思います」アリヌが答えた。
「それは分かっている、リザ・ゼロに対する方針を陛下は聞いているのだ」枢密院のユー・ロウが苛立たしげに言った。
「リザ・ゼロを敵の魔術兵団が使う場合半径五キロほどの範囲内は完全にグリフォンは戦闘不能、もしくは撃墜されます」
「そこで、各大隊間の距離を現行の三倍以上とし、密集体型を取らずに接近、戦闘を行うことが効果的と考えます」
「グリフォン部隊には軍事費の六割がかかっている、その分の働きは期待しているぞ」ユー・ロウが言った。
「わかっております」アリヌは毅然と言った。
「みな、それぞれの任務ご苦労であった、特にダナ・カシムにおいては激戦であったろう、ロゼ師団長のこともすまなかった」国王がダナ・カシムを見ながら言った。
「陛下、もったいないお言葉です、いずれ冥府でロゼに会った暁には必ず伝えします」
「議論も出尽くしたようですし、今回は散会でよろしいでしょうか」魔術院のレイ・ミスが言った。
「そうだな、ここまでにしよう」国王の言葉で御前会議は終了した。
ラ・カームはラァとラナが寝ているベッドの横で必死に二人に呼びかけていた。
三人は今まで意識するだけで、言葉を交わさなくても意思疎通ができたのに、それも今はできない。
ラァもラナも手を握るといつもと同じ暖かさが伝わってくるが、近くにいるミルシャの術式がなければ生命の危険すらあるらしい。
魔術院からも水魔法のマスターが数名派遣され、交代でラ・キュリスとラ・ケアを唱えているが、ミルシャの術式の効果は格段に違うらしい。
王都に戻ってから一週間が経とうとしているが、二人の容体が改善する兆候はない。
「僕のせいか・・・」ラ・カームは自分を責める気持ちが抑えられなかった。




