第15話
ミルシャとシュナイゼルが二人を見ながらも辺りを警戒していた。
「団長、さすがですね、殿下のあの動き。団長の教育のたまものですね」
「いや、殿下には生まれ持っての才能があるね、ミルシャもよく稽古をつけた」
「イグニクェトゥアの動きどう思われます?」
「千年伝承の殿下たちはイグニクェトゥアからすれば放置できないだろう」
「魔術院は我々の知らない情報まであるそうですよ」ちょっと怒ったようにミルシャは言った。
「俺も部下にさぐらせているが、どうやら儀式についても色々見解があるようだ」
「私は魔術院のスパイではないですからね」
「分かっているよミルシャ、話は戻るが」シュナイゼルは前置きをして。
「イグニクェトゥアに関しては北部方面軍が抑えているからな」
「ダナ・カシム団長ですか」
「あいつは北部方面軍だけで、イグニクェトゥアの首都クェトゥアまで侵攻すると豪語しているからな」
「そんな無謀な作戦できませんよ、あの筋肉バカはなに考えているのですか」
「しかし、北の戦線についてはあいつ以外には任せられないだろう」
「たしかにそうですけど・・・」ミルシャはため息をついた。
旅館からラナが出てくると、ラ・カームとラァ、ミルシャとシュナイゼルが話しているところが見えた。
・・・私の居場所ってないのかな。
「ラナ」ラァが呼んだ。
「ラ・カームが果物取ってくれたよ」
「あ、ありがとうラ・カーム」
「大丈夫?少しぼっとしていたみたいだよ、ラナ」
「ううん、なんでもないよ」
「疲れたんじゃない?ずっと座りっぱなしだったし」
「大丈夫だよ、ラ・カームありがとう」
「ラ・カームはラナに優しいのね」
「ラァのことも心配しているよ」
「ついでみたいに言われている感じがぁー」
「違うよ、ラァ」
「ごめん、ありがとう、ラ・カーム」
「これ、美味しいね」ラナが果実を食べながら言った。
「うん、美味しいよね」とラァ
「ミルシャ先生たちにもってさっきたくさん取っておいたから、またあとで食べよう」
「馬車の運転手さんも近衛団の人なんでしょ?持っていかないといけないね」
「御者さんね、私たちは乗っているだけだけど、大変そう」ラァも同意する。
「旅館の中も、多分近衛団の人多かったと思う」
「イグニクェトゥアにすれば僕たちを暗殺するか誘拐することも考えているだろうからね」ラ・カームが厳しい表情で言った。
「うん・・・」ラナがうなずく。
「二人は俺が守る、絶対に触れさせないから」
「ラ・カームを守るのが私たちの役割だからね」とラァ
「そうだよ、ラ・カームはこの国の新しい伝説になるんだよ」ラナも言う。
「守護結界が張れるようになるまでは、二人は通常の魔法しか使えないんだからさ」
「私たちはどちらかがいればいいんだよ」ラァ
「そんなこと二度と言うなよ」ラ・カームが本気で怒っていた。
ラ・カームが怒ることは稀でラァは少し驚いてしまった。
「ごめんなさい・・・ありがとう」消えそうな声でラァが言った。
五人はまた馬車に戻った。
「ここからは次の休憩所まで四時間くらい走ります。気分が悪くなったりしたら言ってください」ミルシャがこの後の説明をした。
「はい!」三人はそろって答えた。
馬車は舗装された街道を順調に走っていた。
昼食は先ほどの旅館で提供された鶏肉の蒸し焼きに採れたてのキノコのサラダだった。
それにラ・カームが取ってきた果実も食べていた。
「美味しいね」ラァが言った。
「うん、この鶏肉美味しい」ラ・カーム
「キノコさんも美味しいよ」ラナも続ける。
「殿下の取ってこられた果実も美味しいですよ」ミルシャも果実をかじりながら言った。
「そういえば、シュナイゼル団長もプラスエンチャント武器を持っているんですよね」一番先に食事が終わったラァが尋ねた。
「はい」とシュナイゼル
「どんな効果があるんですか」
「私の剣はロッドの代わりになります。使い勝手は良いのですが、正式なミスリルロッドほどの魔法の威力が出ません」
「シュナイゼル団長は南部方面軍の団長の時に、レグニヤーローとの戦闘で大活躍だったそうじゃないですか」
「団結力だよミルシャ。俺一人の力でなんとかできたものではない」
「そうかもしれませんが、団長のファ・ブロウと剣技のコンビネーションは近衛団の中でも相当な話題になっていますよ」
「ファ・ブロウは炎魔法の中で最も使いやすい対人用の魔法だから使い勝手もいいのだよ」
「私も殿下と一緒に団長に稽古をつけてもらったほうがいいかもしれませね」
「ミルシャ先生、団長のことが好きなんですか?」ラナが突然爆弾発言をした。
「え・・・なにを言っているんですか、わ・・わたしは近衛団の一員として尊敬しているだけで・・」ミルシャは顔を真っ赤にしていた。
「せんせー照れている」ラァも続けた。
「二人とも、失礼だよ」ラ・カームが二人をたしなめる。
馬車は不自然な沈黙の中走っていた。




