三章 ~新年 ちょっと回想・邂逅~
あやめさんの家で書初めをした後、私は中田君に家まで送ってもらっていた。まだお昼だから一人でも大丈夫だとは思ったけど、「折角だから」と言う中田君に半ば押し切られる形で、ついてきてもらった。
「確か、この辺でしたよね?」
「あ、うん。そう」
そういえば、中田君には前にも家まで送ってもらったっけ。あの時のことは思い出したくないけど……でも、中田君の「秘密」を知ったのもあの日だった。そう考えると、ある意味記念日と言えなくもない。
「あれ? お姉ちゃん?」
「え? あ、花乃子」
あれからもう大分経つなぁ、とか考えていたら、妹の花乃子に出くわした。初詣から帰ってきたのだろうか。
「何? どっか行ってたの?」
「うん、ちょっとね」
あやめさんのところで書初めしてました。とはいえ、花乃子はあやめさんに会ったことないし、言っても分からないだろうけど。
「で―――そっち、誰?」
すると花乃子が、中田君のほうを(何故か睨むようにして)見やった。そういえば、中田君と花乃子が会うのはこれが初めてだ。
「初めまして。桜さんの級友で、中田優てす」
「……どうも」
し、下の名前呼ばれた……多分、花乃子が妹だって気づいて、名字が同じだろうからとそうしたんだと思うけど。それにしたって、それこそあの時以来だから、ちょっと面食らった。
「妹さん、ですよね?」
「う、うん、妹の花乃子」
「花乃子さんですか。いい名前ですね」
「……どうも」
花乃子、さっきから「どうも」しか言ってないよ……っていうか、もしかして中田君が苦手なの? 普段は人見知りもしないのに。
「じゃ、じゃあもうこの辺でね」
「そうですか? もう少し送りますけど」
「だ、大丈夫だよ、花乃子もいるし」
ともかく、これ以上二人を一緒にしておくと、花乃子が何かしでかしそうで怖い。前にも似たようなことがあって、その時は結構大事になったし……。
「そうですか。では、私はこの辺で」
「うん、じゃあね」
中田君と別れて、私は花乃子と家路に着いた。
「お姉ちゃん……さっきの人、友達?」
家に着いてから、花乃子がそんなことを尋ねてきた。さっきの人って……いうまでもなく中田君だよね。
「う、うん……一応」
今日、私のことを友達だって言ってくれたし、私も友達って呼んでもいいんだよね……?
「ふーん……お姉ちゃんに友達がいたんだ」
うぅ……我が妹ながら、中々にきついことを言ってくれる。……でも、私の中ではあやめさんのほうが強いんだよね、「友達」って。中田君はなんていうか……いい言葉が思いつかない。
「なんか髪とか目の色変だったけど……もしかして外人?」
「日本人だよ、確か」
そういえば、その辺りのことは詳しく知らない。……よく考えたら、私ってほんとに中田君のこと知らない。大きな「秘密」は知ってるけど、それにしたって殆ど何も分からない状態だし。
「お姉ちゃん……あの人、あんまり関わらないほうがいいと思う」
「え……?」
花乃子がそんなこと言うなんて、一体どうしたのだろうか?
「だって、なんか変なんだもん。得体が知れないっていうか、人がいいように見えて実は極悪人みたいっていうか」
確かに得体の知れないところはあるけど、中田君は優しくて思いやりがあるいい人なんだけどなぁ……まあ、今日はちょっとあれだったけど。
「大丈夫だよ、中田君は。聖人君子みたいな人だから」
「聖人君子って―――っていうか、中田「君」……? え、あの人男なの!?」
あ。花乃子、中田君のことを女の子だと思ってたみたい。確かに見た目女の子だし、普段と違って私服だったから、初対面なら見間違えるのも当然だけど。
「男の子だけど……普段からあまり、性別とか意識しないから」
「お、お姉ちゃんが男と友達って……ううん、あれは男じゃない、男の娘。だから問題ない―――はずなんだから」
花乃子が何かぶつぶつと呟き始めたけど、細かい内容は聞こえなかった。花乃子は時々、私にはよく分からないことを口走ったりするし、将来が少しだけ心配。
「お姉ちゃん!」
「な、何……?」
かと思えば、花乃子が突然叫びだした。どうしたんだろうか、急に。
「いくら相手が男の娘だからって、油断してたら食べられちゃうんだからね!」
「お、男の娘……? 食べられる……?」
また花乃子が変なことを言い出した。それからも「刑法百何十条」がどうとか叫んでいたけど、殆ど理解出来なかったので聞き流すことにした。




