四章 ~新学期 晴天の霹靂~
冬休みが明けて、学校が始まった。つまり、年明けから一週間くらい経過したのだけれど、夢は相変わらずやめの家に居候している。何がしたいのかは知らないけど、夢がこっちにいるのは精神衛生上良くないので、さっさと帰って欲しい。
「あけおめー、優」
そんなことを考えていたら、西崎君が話しかけてきた。そういえば、西崎君と会うのは、年が明けて以来初めてだ。
「あけましておめでとうございます」
まあ、夢もその内飽きて、勝手に帰るだろう。夢だって学校があるんだし、長居は出来ないはずだ。そう考えて、とりあえずその話は保留にしておく。
「おっはよー!」
そう思っていた矢先、教室にあやめが入ってきた。クラスの違う彼女がここに来るのは日常茶飯事だ。故に、それは別に構わない。だけど―――
「やっほー。元気しとるかー?」
「ぶっ……!」
あやめに続いて入ってきたのは、件の夢であった。しかも、格好がおかしい。何故かこの学校の制服を着ているのだ。というかそもそも、どうしてここに……?
「いやーね、夢ちんがどうしても一緒に学校行きたいっていうから、連れてきちゃった」
聞いてもいないのに、態々自白するあやめ。なるほど、生活態度を見るとか言ってたけど、こういうことだったのか。
「ふふんっ、あやめから制服も借りたし、これでバッチリや!」
……でも、夢は一つ忘れている。それは、彼女がとにかく目立つ容姿をしていることだ。
「ん? なんか、周りに人が多いような……」
あやめが、教室の異変に気がついた。そう、教室にいた生徒たちが夢に気づいて、集まってきたのだ。
「誰? あの子」
「さあ?」
「金髪だ!」
「ちっせぇー」
「誰がチビや!?」
「小さい」という言葉に対して、過敏に反応する夢。しかし、不用意に発した関西弁が西洋風の容姿とミスマッチしていて、余計に彼らの関心を引くことになった。
「ちょ、優……! 何とかして!」
夢が何か喚いているけど、自分で撒いた種なので、私はフォローは一切しない。そうこうするうちに先生がやって来て、夢は教室から摘み出された。
「何だったんだ……?」
「さあ?」
そもそも夢がこっちにいること自体知らなかった西崎君は、一連の出来事を眺めて、呆然としていたのだった。
◇
放課後。「ゲームしよー!」というあやめの一声で、校外へ追い出されていた夢も合流して、みんなで一緒にあやめの家へ行くことに。因みにみんなとは、僕とあやめ、夢、それから西崎君と牧野さんだ。
「全く、えらい目に遭ったで……」
「全部あなたの自業自得です」
あの後、夢は学校の外でずっと待っていたらしい。いくら今日は授業がなく、殆ど始業式だけだとは言えど、この季節にずっと外は大変だろうに……どうしてさっさと帰ってくれないんだろうか?
「ねね、桜ちゃん。桜ちゃんも振袖着てみない?」
「ふ、振袖……?」
あやめと牧野さんは、振袖について話をしていた。この前あやめが着ていたから、牧野さんも一緒に着ようとかいうことらしい。
「優、いいのかよ?」
「何がです?」
そんな中、西崎君がどこか心配そうに尋ねてきた。
「だって、あの夢が来たんだぜ? 何かあるとしか思えないだろ?」
「ああ、そのことですか」
まあ、僕の生活態度から、魔女のことを誰かに言ってないか探るらしいけれど。正直、知ってるのは牧野さんくらいだし、例えばれてもそんなに困らない。つまり、何も危惧することはないのだ。
「なんや? うちのすることに文句でもあるんか?」
すると、前方を歩いていた夢が、こちらを向きながら話に割り込んできた。なんて礼儀知らずな……。
「全く、こっちも色々大変―――」
溜息混じりに呟いた、その直後。夢の左側頭部から、赤い何かが飛び散った。かと思う間もなく、夢の体がその反対方向へと倒れる。そして、彼女を追いかけるようにして聞こえてきた、爆発音。これは……銃声?
「ゆ、め……?」
……!? 何が起こった……!? 少なくとも、夢の悪ふざけとは思えない。っていうか、さっきの銃声を考えると、可能性は一つ―――狙撃か!?
「みんな伏せて!」
方向は右からだった。つまり、狙撃手は右方向にいることになる。僕は、倒れた夢を見て呆然としている西崎君たちを庇うよう、即座に立ち位置を変えた。すると、前方数百メートル前後の場所に、七階建てのビルが見える。―――あそこから狙撃したのか。
「……っ!」
目を凝らせば、ビルの屋上に、微かにだけど人影が見える。こちらから狙撃手が見えるのなら、当然だけど、向こうからもこちらが見えていることになる。―――つまり、ここにいては追撃に巻き込まれてしまう!
「みんな伏せてっ……!」
ターゲットは夢のようだけど、もしかしたら第二撃があるかもだし、その場合は跳弾の危険も―――いや、最悪直撃するかも。そんなこと、考えたくもないけど……実際、夢がそうなった。
「ゆ、夢ちん……!?」
そこでようやく、あやめが周囲の状況を認識し始めた。しかし、完全にパニックで、追撃されるかもしれない夢を抱きかかえている。まずい……!
(この距離から届くかは分からないけど……やるしかないっ!)
「僕」の持っている、魔女の力。「僕ら」は実は、人格ごとに複数の能力を所有している。そして、「僕」の能力は二つ。一つはこの前使った、広範囲に及ぶ思考の読み取り。そしてもう一つは、風を操る力だ。
(まずは追撃を防いで、それから反撃です)
僕の前に、風で大きな壁を築く。乱気流を擬似的かつ局所的に発生させたもので、銃弾くらいは軽く止められるはずだ。
(よし、あとは反撃……!)
それからビルの人影目掛けて、風の一撃を放つ。空気を圧縮して弾丸に変え、目標へ向けた射出したのだ。
(よし、手応えがあったっ!)
どうやら命中したみたいだ。目視でも、人影に着弾したことが確認できた。
「西崎君! 後は頼みましたよっ!」
さっきの一撃では精々気絶しただけだろうから、早く向こうへ行って狙撃手を確保しなくてはならない。この場はとりあえず西崎君に任せて、僕は例のビルへ向かった。
◇
「ちっ……逃げられましたか」
走りすぎて息切れしながらも狙撃場所へ辿り着くと、そこは既にもぬけの殻だった。……どうやら、すぐにここから立ち去ったらしい。
「にしても、ほんとに突然でしたね……」
まさか下校途中に、夢が狙撃されるとは思ってなかった。もしかしたら、彼女が唐突にこっちへ来たのと何か関係があるのだろうか?
「ま、その辺は本人から聞けばいいですよね」
ともかく、取り逃がしたなら早く戻らないと。そして、夢に洗いざらい吐いてもらわねば。




