序章 ~新年 嵐の予感~
楽しかったクリスマスパーティーが終わり、あっという間に年明けて、お正月だ。それはこの中田家でも例外ではない。
「~~~♪」
元旦といえばお雑煮。私は台所でお雑煮の支度をしていた。醤油ベースの汁で鶏肉と菜っ葉を煮て、食べる直前に焼餅を加えれば完成だ。因みにお雑煮は地域差があって、この辺ではシンプルなものが主流みたい。
「うん、いい感じです」
お雑煮作りは順調に進んで、後はお餅を入れるだけとなった。さてと、いい加減、我が家の寝坊助さんたちを起こさないと。
「っと、誰でしょうか、こんな朝から」
しかし、まだ六時だというのに家のチャイムが鳴りだして、来客を知らせてくる。こんな朝っぱらから訪ねてくるなんて、一体誰だろうか? ともかく、玄関に向かって、扉を開けてみた。
「は~い」
「よ、おひさ~」
―――誰もいないようなので、すぐさま扉を閉めた。
「ちょっ、何しとんねん!? 何で閉めるんや!?」
「正月早々ピンポンダッシュだなんて……どこの小学生でしょうか?」
「小学生ちゃうわ!」
外が騒がしいけど、誰もいなかったのだから幻聴だろう。もしかしたら、大掃除を頑張りすぎたせいで疲れているのかもしれない。
「あーけーろー! さもないと、この扉破るで!」
「どなたですか?」
「あいたっ!」
やっぱり誰かいるみたいなので扉を開けてみると、玄関の前で金髪の女の子が額に手を当てながら倒れていた。
「あら、夢じゃないですか。どうしたんです? そんなとこで」
「あ、あんたが扉を開けるからやろ……!」
「あなたが開けろと言ったんじゃないですか」
金髪ツインテールと紫の瞳を持ったちっちゃな女の子―――上方夢は、恨めしそうな目でこちらを睨みながら立ち上がる。どうやら扉におでこをぶつけたみたいだけど、私は彼女の指示に従っただけで、何にも悪くない。
「ったく、それが久しぶりに会った従妹に対する態度か……?」
「あら、私はあなたのこと、今の今まで忘れてましたけど」
「この薄情者!」
薄情というか、夢に対して情をかけるのがそもそもの間違いだと思う。
上方夢について少し説明しておくと。彼女は私の幼馴染で、自称私の従妹。「自称」となってるのは、実際に従妹ではないからだ。従妹というのは、あくまで対外的な関係に過ぎない。
「っと、久しぶりやな、この家も」
夢は私の許可も得ずに上がって、リビングを見回していた。彼女の傍若無人っぷりは、あやめのそれを髣髴とさせる……あ、だからあやめのことも嫌いなのか。再会するまで夢のことは完全に忘れていたし、心当たりがなかったのも無理ないか。
「おぉ~! お雑煮やないか!」
「あなたの分はありません」
「ぶぅ~。けち!」
夢と最後に会ったのは三年ほど前だったけど、最初にあったのは十年以上も昔のこと。父方の親戚―――従妹だと言われて出会った。思えば、そのときから仲が悪かったっけ、私たち。
「そやけど、ほんまよく年が越せたわ、お互い」
「どういう意味です?」
「どういうも何も、うちら、普通とちゃうやん?」
そう、私と夢、見た目も性格も全然違う二人に共通点があるとすれば一つだけ。それは、私たちが普通でない―――普通の「人間」ではないということ。
「魔女ってだけで色々と面倒やし、何事もなく今までやってこれたんはある意味奇跡や。感謝せんといかんで?」
「何にですか?」
「そりゃ勿論、神様に」
ご先祖様の代で種族が分かれてしまったみたいだけど、私も夢も正真正銘魔女の末裔だ。元々は同じ一族だったので、ある意味親戚と言えなくもない。
「ちゅーわけで、お年玉頂戴」
「嫌です」
さっきまで内輪の設定っぽい話をしていたのに、何故そんな話に? それに、夢にあげるものなんて何もないし。
「だってぇ~、優んとこは大人がおらんし、お年玉貰えんから」
それはうちが母子家庭で、しかも母が滅多に帰ってこないから。っていうか、夢の家って結構なお金持ちなのに、どうしてこんなにがめついんだろうか? そういえば、あやめも俗物的というか、物をやたらと欲しがる傾向がある。
「まさかとは思いますけど、お年玉をせびるために遠路遥々やってきたわけじゃないでしょうね?」
「んなわけあるか」
どうだか。夢ならそれくらいはやりそうだけど。違うというのなら、それはそれで厄介な理由なのは明白だし。
「あんた、うちらのことを誰かに喋った?」
唐突に。何故いきなりそんなことを? と思うようなタイミングで、その問いは投げかけられた。……しかも都合の悪いことに、その答えは「yes」なのだ。
「家族と幼馴染はみんな知ってますよ」
「あほ。んなもんは最初っから勘定に入れとらん」
とりあえず無難に返してみると、案の定突っ込まれた。とはいえ、話すと後々面倒なことになりそうだしな……。
「……まあええわ。暫くこっちであんたの生活態度見てるから、それで判断する」
「そうですか……って、その間ここに泊まる気ですか?」
「当たり前やん」
冗談じゃない……夢がうちに滞在するだなんて、兄さんが毎日台所に侵入して、あやめが常時ハイテンションモードで訪ねてくるようなものじゃないか! ……ん? あやめ?
「……それなら、もっといい宿がありますよ」
「宿?」
そう、宿。自称従妹の面倒は、実の従姉に見てもらわないと。




