一章 ~新年 書初め大会開催?~
元日。私は妹の花乃子と一緒に、正月恒例のお雑煮を食べていた。親はバーゲンセール目的でデパートに行っているので、家には私と妹の二人しかいない。
「お姉ちゃん、この後の予定は?」
「え? 特にないけど……」
あるとすれば、精々部屋でゴロゴロだろう。そう答えると、花乃子は深い溜息を漏らした。
「あのねお姉ちゃん、花のJCが、冬休みに家でゴロゴロなんてナンセンスだよ?」
「そんなこと言われても……」
そもそも、自分に「花の」とかいう言葉が似合うとは到底思えない。花乃子みたく垢抜けていないし、「うら若い」が精々だろう。
「というわけで、私はこれから友達と初詣だから」
「あ、うん、分かった」
その「友達」とやらは彼氏なんだろうか? と思ったけど、野暮な上に悲しくなるので口には出さないで置いた。
「お姉ちゃんも、誰かと行ってきたら? 初詣」
「う、うん、そうだね……」
いつもの展開だと、ここであやめさん辺りが誘ってきそうだけど。
「じゃあね」
「いってらっしゃい」
花乃子が出掛けていき、残されたのは私一人だけに。……何だろう、この寂しさは?
それから数分経って、案の定、あやめさんからお誘いの電話があった。とはいえ、それは初詣ではなく―――
「やっほー! ようこそ桜ちゃん!」
言われた通り、あやめさんの家までやって来る。すると、振袖姿のあやめさんが出迎えてくれた。
「何で振袖……?」
「え? だってお正月だし」
いやまあ、言いたいことは分かるんだけど……何で初詣にも行かず、家で着ているのかが気になっている。
「それより、書初めしよ!」
「書初め……?」
何でまた唐突に……っと、あやめさんはいつも唐突だっけ。にしても書初めって、小学生以来なんだけど……。
「ほらほら、こっちだよー」
けれども、余計なことを考える前に、あやめさんに引っ張られていく。……まあ、たまにはいいか。妹に女子力皆無みたく言われるくらいなら。
いつぞやのレクリエーションルームに通されると、そこには大量の新聞紙が敷き詰められていた。恐らく、墨が床を汚さないようにするためだろう。更には、書初め用の細長い半紙や文鎮、硯に墨汁に筆といった基本的な道具も揃っている。
「さーて、書くぞー!」
あやめさんは張り切っているけど、まさか振袖のまま書くつもりなのだろうか? 結構高そうなのに、墨がついたらどうするのかな?
「ほーら、桜ちゃんもこっち来て」
「う、うん……」
さて、来たのはいいけど、一体何を書けばいいんだろうか……? 書初めだから、一年の抱負とか?
「~~~♪」
一方あやめさんは、既に決めてあったのかすらすらと書き始めた。達筆な字で、「真冬の運動会」って。……どういう意味だろうか?
「お嬢様」
そうしていると、扉をノックする音と呼び声が聞こえてきた。多分、執事の高洲さんだろう。
「どしたの~?」
筆を止めることなく、高洲さんに応答しているあやめさん。因みに二枚目は「薔薇&百合」。……ほんと、何が言いたいんだろうか?
「優様がお越しです」
「優ー? じゃあここまで連れて来てー」
中田君があやめさんの家を訪ねてくるなんて、なんか珍しい気がする。どういう風の吹き回しだろうか?
「ですが、その……」
「どうかしたの?」
けれど、扉越しの高洲さんはどうにも歯切れが悪い様子。何かあったのかな?
「優様は……同伴でおいでです」
「……同伴?」
その単語を聞いて、あやめさんの筆が大きく乱れた。……同伴。つまり中田君は誰か―――それも、高洲さんの言い方からすると女の子の可能性大―――と一緒にやって来たことになる。諦めたとはいえ、やはりそれなりに気になってしまうのだろう。っていうか私も少し気になる。
「どうなさいますか?」
「……連れて来て」
そう答えるあやめさんの声は、今までに聞いたことがないくらい低くて、どすが利いていた。
「畏まりました」
……受け答える高洲さんの声が震えていたのは、私の錯覚だと思いたい。
数分後、確かに中田君は女の子を同伴してやって来た。金髪でツインテールの、背が低い、小学生くらいの子と一緒に。瞳は紫色だし、外国人かな?
「な、なんだ夢ちんか~! もう、びっくりした~」
「なんだとはなんやねん!」
けれど、そんな関西弁の女の子は、あやめさんの知り合いみたいだった。さっきまでの険しい表情が、途端に友好的なものへと変わる。
「だってぇ~、優が女の子同伴って聞いたらから、私たちを裏切って別の女とくっついたのかと思っちゃったんだもん!」
「え、高洲さん、そんな言い方したんですか?」
「いえ、私は優様が同伴でいらっしゃったとしか」
いやでも、実際女の子と一緒だったし……っていうか、その子は誰なんだろう?
「ちゅーか、そこの電柱女は誰やねん?」
向こうも私が誰か気になっているみたい……だけど、「電柱女」は止めて欲しい。確かに身長差を考えたら、そう見えなくはないかもだけど。
「夢、あんまり失礼なことは言わないでください。あなただって、「チビで金髪の不良小学生」って言われたら怒るでしょうに」
「当たり前や! 大体、この金髪は地毛やし! 不良ちゃうわ! しかも小学生やなくて中学生やし!」
え、中学生だったの……? てっきり小学生かと思ってた。
「あのね、桜ちゃん。夢ちんは優の従妹なの」
「い、従妹……?」
あやめさん以外にも従姉妹がいたんだ……。道理で、異国風の外見なのに関西弁だったりするか。
「で、こちらは私の友達で、牧野桜さんです」
わ、中田君が自分から私のことを友達って言ってくれた……どうしてだろう、すっごく嬉しい。
「ふぅん、優の友達……か。まあええわ。うちは上方夢。よろしゅうな」
「あ、えっと、牧野桜、です……。こっちこそ、よろしく」
とりあえず自己紹介を終えたけど……どうしてか、この夢って女の子は、私に敵意を向けているような気がする。




