十章 ~冬イベ プレゼントばら撒き~
あやめ、西崎君、牧野さんも到着して、クリスマスパーティーが始まった。とはいえ、みんなで集まって料理を食べるだけのささやかなものではあったが。
「というわけで、クリスマスパーティーを始めたいと思います。―――メリー・クリスマス」
「「メリー・クリスマス!」」
掛け声と共に、みんなが一斉にグラスを掲げる。つまり乾杯だ。尤も、中身は全部ジュースだけど。
「さてと、早速食べるとするかねぇ~」
乾杯の後、いち早く料理に向かったのは日暮さん。……日暮さんって、見た目や仕草はクールなのに、性格が伴っていないのが少しだけ残念。
「ヤッホー! パーティー開催だぜぇ~!」
……よく考えたら、あやめも残念美人だった。私の中では、あやめが美人という認識が完全に抜け落ちているけど。
「よっしゃ! 肉ゲット!」
兄さん……いい年なんだから、中学生に紛れてはしたないことをするのは止めて欲しい。とはいえ、三人とも生まれ持った気質のようなものなので、どうにもならないのだろうけど。
「西崎君、今年の聖夜はどうなったの?」
「今年も空振りか?」
「うるせぇ!」
西崎君は、弓と冷にからかわれてる。まあ、どんな内容かは分かりきってるけど、敢えて気づかない振りをしておこう。
「ケーキ♪ ケーキ♪」
「全部食うなよ」
「わかってる♪」
ケーキを取ろうとする理夢ちゃんと、食べ過ぎないように注意する孝介さん。因みにこの二人、同じ学校のクラスメイトだったりする。
「……」
各々が様々な反応を見せる中、ただ一人、牧野さんだけは部屋の隅っこで俯いていた。もしかしなくても、何をどうすればいいのか分からず、手持ち無沙汰なのだろう。牧野さん、こういうの苦手そうだし。
「牧野さん、楽しんでますか?」
「あ、中田君……うん、楽しんでる」
私に気づいた牧野さんは、顔を上げて笑ってみせる。けれどそれは、私を心配させまいと作った笑顔だと分かった。
「お料理は自由に取っていいですからね。……そこの猛獣たちが邪魔でしょうけど」
「う、うん……」
軽くジョークを交えた会話で和ませようとしたけど、あまりうまくいかなかったみたいだ。……まあ、ちょっと笑えないかもとは思ったけど。
「とりあえず、これからどうぞ」
「え……」
仕方がないので、まずは甘いものでも食べてもらうことにした。っていうか、ぼやぼやしてるとあやめたちに全部食べられそうだし。
「私特製、苺のショートケーキです」
牧野さんの好みが分からなかったので、無難にショートケーキを確保しておいた。油断すると、猛獣たちが全て掻っ攫ってしまうから……。
「あ、ありがと……」
おずおずとケーキに手を伸ばす牧野さん。フォークで小さく切り分けて、遠慮がちに口へと運ぶ。
「あ……おいしい」
「ありがとうございます」
口に入れて、ふとそう漏らす牧野さん。やっぱり、自分で作ったものをおいしいと言ってもらえると、無性に嬉しくなってしまう。牧野さんが相手だと、余計に。
「あ、そうだ。忘れないうちに渡しておきますね」
私は近くにあるテーブルの下から、リボンで飾り付けられた包みを取り出した。一々取りにいくのが面倒で、予めここに隠しておいたのだ。
「はい、牧野さん。メリー・クリスマス、です」
「え―――」
面食らっている牧野さんに、包みを半ば強引に握らせる。
「私からの、ささやかなプレゼントです。受け取って下さい」
このパーティーでは、毎年私が、参加者全員にプレゼントを贈っている。勿論牧野さんも参加者だから、彼女にもちゃんと用意してあったのだ。
「で、でも……」
「私が渡したいだけなんですから、遠慮しないでください」
「う、うん……分かった」
恐縮しながらだったけど、牧野さんはちゃんと受け取ってくれた。
「開けてもいい?」
「ええ、どうぞ」
彼女が包装を解くと、中からは緋色のマフラーが出てきた。
「これって―――」
「私の手作りです。良かったら使ってください」
昔から手作り品をプレゼントしているから、手編みのマフラーくらいはお手の物だ。実はこのマフラー、端の方に、彼女の名前である「さくら」の花弁をプリントしてある。
「うん……ありがと」
はにかみながらも、牧野さんはそう答えてくれた。
「皆さーん、プレゼントの時間ですよー」
「わーい」
「待ってました!」
私の呼びかけに、会場にいた全員(さっきプレゼントを渡した牧野さんを除く)が集まってきた。
「まずは孝介さん。はい、これをどうぞ」
「これは……レシピか?」
孝介さんへのプレゼントは、私特製の焼き菓子レシピだ。クッキー、スコーン、ケーキ、などなど。
「前に、作り方を尋ねてきましたよね? 折角ですから、レシピ集にしてみました」
「助かる。聖の奴にも食わせてやりたいと思ってたんだよ、お前の菓子」
聖ちゃんを喜ばせたいという一心で、今までも何度かレシピを尋ねてきた孝介さん。彼にとって、私のレシピは十分な価値があるのだろう。
「とはいえ、レシピ一つで私の味を再現するのは難しいですよ?」
「上等だ。それでこそ腕が鳴るってもんだぜ」
正直、孝介さんは今回が初参加なので、プレゼント選びに困っていたのだけれど……こんなに喜ぶなら、次からもこうしよう。
「それから、日暮さんと理夢ちゃんにはこれを」
二人へのプレゼントは、お手製の髪留め。それぞれトランプのスートをモチーフとした飾りがつけられていて、日暮さんの分はダイヤ、理夢ちゃんの分はクラブだ。
「わぁ、ありがとー!」
「理夢とお揃いか。ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
二人とも喜んでくれた。手作り品が好評だと、用意した甲斐があって、こっちも嬉しくなる。
「弓と冷もお揃いのものにしました」
弟妹たちに渡したのは手編みの帽子。白地だけど、実は裏に名前を編みこんであったりする。
「ありがと優兄!」
「ったく、この年になってまでお揃いかよ……」
冷はそう言って不貞腐れるけど、照れ隠しなのは見え見えだ。二人はいつも、お揃いのものをあげるとご機嫌になるのだから。
「ねーねー優、私は私は?」
「はい」
待ちきれなかったのだろう、興奮した様子で急かしてくるあやめ。私はそんな彼女の手に、飴玉を一つ乗せた。
「……え? なにこれ?」
「プレゼントですよ」
「飴ちゃんじゃん!」
折角のプレゼントなのに、あやめは気に入らなかったみたいだ。……仕方ない。
「これならいいですよね?」
駄々をこねて五月蝿いので、箱買いした飴をあやめに渡した。
「……もういい」
そう言って、あやめは項垂れながら引っ込んでしまった。……何気に、彼女のプレゼントに一番お金をかけたんだけど。飴も結構上等な奴なのに。
「あ、西崎君と兄さんのプレゼントはこれですよ」
「「……」」
二人に渡したのは、「よく分かる数学入門(西崎君用)」と「あなたも今日から家事名人(兄さん用)」という本だ。二人にはぴったりだと思う。
「これはつまり、もう少し勉強しろと?」
「たまには家事も手伝えと?」
「さあ、どうでしょうね」
まあ、全く思っていないとは言えないけど。
「っていうか、せめて値札くらいとれよ」
「しかも、某古本屋チェーンのだし」
古本だと、ワンコインで何冊も買えるからとってもお得だ。特にこの二人は、下手に甘やかすとろくなことがないし。
こうして、クリスマスの夜は更けていった。




